二人の女王様-01
白ウサギの案内で辿りついた先は、赤と白だけで構成されたやけにめでたいカラーリングのお城だった。
中世ヨーロッパ風とでも言うのだろうか、よくわからないけど。
円錐型のとがった屋根を乗せた円柱が、たくさん集まって繋がってるみたいな。
その円錐部分が赤色で、円柱部分が白く、窓枠や人が刺さりそうな刺々しい格子状の塀は黒い。
綺麗に植えられている植物達は緑色で、空は灰色。
…絵として描く分には、色が少なくてとても楽そうだと思った。
それでもそこかしこに細やかな趣向がしきつめられている様は無知な僕にも分かる程で、きらびやかな派手さは無くとも「ここ」が凄い場所だと言う事が理解出来た。
うーむ、上手いこと言えない自分の語彙の少なさが恨めしい。
「…じゃ、後は兵が案内してくれるから」
「へ!?」
ぽかんと絶景を堪能している間に、なんだか物騒な単語を聞いた気がして白ウサギを振り返る。
しかし彼女は既に案内をバトンタッチしてしまったようで、彼女の居た場所には代わりに武骨な甲冑を着こなす、分かり易い兵隊さんが居た。
女王の城に居る兵隊って言ったら紙っぺらで出来たトランプ兵じゃないんすか!
紙相手だったらいざという時逃げ出せる算段が立てれたのに!
すっげーいかついオーラが出てるわ、フルフェイスヘルメットで顔見えないわ、あ、でも胸元にハートマークがあしらってあるのはちょっと可愛らしい。
つまり「ハートの女王に忠義を尽くす」、という意味なのだろう。
「ハートの女王」か…。
理不尽な難題を押し付けて来たり理不尽な八つ当たりしてきたりしないだろうか。
そんなんだから「アリス」は逃げ出したんじゃなかろうか。
白ウサギも、本物の「アリス」は女の子だから可哀想で逃がしてあげたけど、「男だったら我慢できるっしょ」ってな理由で僕を選んだとかだったらどうしよう。
いやな想像ばかりが浮かんでは消える。
「……リス様、アリス様?」
綺麗な声が、あの子の名を呼んでいる。
それに気付いた直後、今は僕が「アリス」なんだと思い出した。
「は、はい!!」
「申し訳ありませんが、女王陛下もお待ちですのでこちらへ…」
申し訳ないのはこちらだというのに、平身低頭な声と態度で僕を促したのは、なんと先程の兵隊さんだった。
…この人女性だったのか。
いかついフルアーマー装備だからてっきり相応の屈強な男性だとばかり思い込んでしまった。
なんとなく心の中で謝罪しておく、すいません。
そこからは大人しく兵隊さんに着いていく事にした。
生粋の日本人として生まれ育っているお陰で、ふかふかの絨毯上を土足で歩くのに精神的なダメージを喰らったりはしたけど、概ねしとやかに歩けていると、思う。
そう思いたい。
「……それにしても、アリス様がお戻りになられて良かったです」
「え? あ、あぁ…。そうなんですか?」
「そうですよ」
唐突に話し掛けられて慌てふためく僕に、気にした様子を見せない兵隊さん。
小さく「ふふっ」と聞こえたから、きっと鉄仮面の向こう側で楽しげに微笑んでることだろう。
なんとなく美人な気配がするので、無理と分かりつつも是非拝謁賜りたいなと思ったり。
男の悲しい性です。
しかし彼女が喜んでいるのは、「アリス」の帰還だ。
「女王陛下たちも、さぞお喜びになるでしょう」
「あはは、そうだといいんですけど…」
実際はニセモノなんでーすとは言えない雰囲気だぜ。
なんて…、んん?
今この人、女王陛下「たち」って言わなかった?
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