道中-02
気分は若干落ち込んでいたが、道中は華やかなものだった。
スタート地点の光る花々のように、現代社会では見られないファンタジックな美しさを持つ植物達が競い合うように咲き誇っているのだ。
それに加え、時々見かける人々は誰も彼もが美しく、思わず「かわいいは正義だけど、美人はそれだけで善だよなぁ」なんて思った。
しかも皆こっちを見るやにこっと微笑んでくれるのだ。
観光客に対する店員さんというか、有名人とか人気者ってこんな感じなのかな。
ってことは「アリス」は人気者なのか。
良い子そうだったし、きっとそうなんだろう。
ちゃっかり手を振ってみたりしたら向こうさんもきゃいきゃいと喜んでくれた。
その流れを、白ウサギが冷めた目で見てたけど。
「本当に『ワンダーランド』みたいだなぁ…」
僕はぽつりとつぶやく。
狂気と幻想が生み出した『不思議の国』。
でも見た感じでは、むしろ夢の国と呼んだ方がいいのかもしれない。
あ、それだとネズミの国になってしまうか。
ぶつぶつと呟く僕に、話しかけたつもりではなかったが白ウサギが反応してくれた。
煩わしそうな態度から察するに、僕の独り言がうるさかったのかもしれない。
「ワンダーランドだけど、それが何?」
「あ、『ワンダーランド』なんだ、ここ」
「…此処以外にワンダーランドがあるの?」
それは、答えにくい質問である。
ルイス・キャロル著の「不思議の国のアリス」は、僕の居た世界ではそれこそ知らない人なんてほとんどいないくらいの有名な話だけど。
「タイムパラドックス」って言うんだっけ?
ほら、過去にタイムスリップした時、歴史と違う事すると大変な事になるっていう。
それに近い事が起きてしまうんではないだろうか、何となくそう思った。
だからぼかす事にする。
「そういう国が出て来る物語があるんだよ。昔の人が作った創作っていうの? 不思議な世界の小さな国の事なんだ」
「ふうん…」
実に興味の無さそうな返事だった。
そうだとは思ったけど。
「このワンダーランドもそんなに大きな国ではないけど、そこそこ栄えてる国だと思うから安心していいよ」
「そ、そっか」
「あんたも気に入ると思う」
「ああ、うん。そうだといいな」
不安がっているかもしれない僕を慰めてくれたのだろうか。
少し微笑ましくなって口元が緩む。
こんな顔を白ウサギに見られれば、またうんざりしたような目を向けられるだろうから、そうなる前に引き締めなければと軽く自分の頬をつねった。
それでもまだ緩んでいたけど。
この時の僕はまだ浮かれていた。
突然のファンタジー展開に壮大な物語を期待してる、まぁ、中二病を患った子供なのだ。
まだ身体的に危害を加えられていない事も大きい。
漠然と、「死ぬ事はないだろう」なんて思っていた。
死ぬより辛い目というものが、世の中には数えきれない程あるというのに。
見かける人々が女性しかいない事実にも気付かない。
そんな僕を時折、白ウサギが憐れみを込めた目で見ていた。
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