おとぎ話のはじまり-03
「さぁさぁ、早く」
「いて、ちょ、なんだっていうんだよ」
叩いているというよりは押しているらしい。
しかし僕をこんなマニアックな状態にしてどこへ急ぐと言うのだ。
先程から口にしている「アリス」というのはぶつかってしまった女の子の事であってると思うけど、それ以外に「白ウサギ」と来たら、超有名な童話しか思いつかない。
白ウサギって、確か女王様のところへ行くのに急いでるんじゃなかったっけ?
いやいや、そんな、まさかな。
「女王様のところへ行くんだよ」
まさかの大当たり!!!
女王様ってアレでしょ、「首をお切り!」って言うそれこそキ●ガイじみた人でしょ。
この場合首を切られるのは俺ってことでFA?
訳の分からなさに思わず叫ぶ。
「なんで!?」
「あんたがアリスだからに決まってるだろ」
「意味が分からないっ!!」
「正確には身代わりな、丁度良いし。あいつ意外とすばしっこくて捕まえられないし」
「ぼ、僕男なんだけど!?」
「アリス」って名前は男女どっちでもいいとして、さっきのあの子は女の子なのだから、身代わりだって女の子であった方が無難なように思う。
僕は人より少し小さいけど、一応男子の証たるものはついているのだ。
自分で言ってて悲しい。
「……あぁ、問題ないよ」
僕の事を上から下まで視線を巡らせた後、さらりと二言で片づけられた。
え、ないの?
あるだろ!!!!
白ウサギと名乗った少女はいつの間にか掴んでいた俺の手を引きながら、普通にその辺にあったマンホールの蓋をがこっと外した。
嗚呼、嫌な予感がする。
「行くよ」
ですよねー。
引っ張る手を振りほどこうにも、どうにも力では敵わないようだった。
見た目年下の、それこそ幼いと言っていい少女なのに、すごい鍛え方でもしているのだろうか。
ちくしょう、僕も日頃からちょっとくらい筋トレすべきだった。
悶々としている間に、白ウサギはぴょんっと軽くジャンプした。
それは水たまりをまたぐような気軽さで。
ぽっかりと空いた闇へと飛び込む。
マンホールの縁にぶつかっては堪らないと、僕は咄嗟に身を守るようにして体を縮めることしかできなかった。
マンホールは下水への入り口のはずが、なんでか臭くないなと思ったのを最後に、僕の意識は一旦途絶えた。
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