おとぎ話のはじまり-02
ぶわっと視界に広がったのは、網?
その網は勢いよく、僕を包み込むようにして覆い被さってきた。
あまりの勢いに尻餅を付きながら叫んでしまう。
「ぎゃあああ?!!」
こんな道端で投網の練習か?!
ハタ迷惑な!
そのハタ迷惑な犯人を確認しようと網越しに周りを見回すと、唯一視界に入ったのは一人の少女? 少年? ちょっと分かり辛い、とりあえず子供だった。
年齢はそんなに離れていないのかも知れないが、僕自身がまだ子供なのだから間違いではない。
その子供はやけに口径の大きいおもちゃっぽい銃を携えていて、多分ソレから網が射出されたのだろう。
子供は僕をまじまじと確認した後。
「あれ、はずれだ」
と、そんな事を呟いた。
僕は人違いで捕獲されたらしい。
そもそも、人を捕まえるのに投網的な射出機を使うなんて、今の子供は恐ろしいな!
人違いと分かったからか、盛大に絡まった網をひっぺがしてくれるのは有難いけど、文字通りひっぺがしにかかっているので色々引っ掛かって痛い。
ちくしょう、こんなに痛い目にあっているのに、文句の一つも言えない自分が情けない。
しかもこの状況、先生に説明しても遅刻証明にならなそうで目頭が熱かった。
もうなんでもいいから、とっとと学校に行かなければ。
しかし網を回収した子供がじっとこちらを見ている。
謝罪をしたい、という雰囲気ではないようだけど。
僕は首を傾げた。
なんだろう?
「あぁ、あんた、アリスと同じくらいじゃん?」
「は?」
何がと聞く間もなく、気がつけばぼくはかわいらしいエプロンドレス姿だった。
つい先ほどぶつかってしまった、少女が着ていたものに酷似しているように思う。
スカートなんて初体験だったが、内側にひざ丈のもんぺ?(※ドロワーズ)のお陰ですかすか感は少ない。
いやいや、それよりも。
「な、なんじゃこりゃああああ?!」
「うるさいから騒がないでよ」
そう言われた瞬間にはさらりとしたロングのブロンドになっていた。
これもきっと、さっきの女の子のような髪型なのだと推測する。
「ま…魔法?」
としか思えなかった。
だって目の端に映る金髪を引っ張ると連動して頭皮が痛んだから。
早技植毛、ってわけではないだろう。
そっちの方が驚きである。
いっそファンタジーであれ。
「現代日本でこの発言をするとキ●ガイと勘違いされるかも知れないけど、もしかして君は魔法使いなのか?」
意を決した僕の発言に子供は分かり易く怪訝な顔をして「何言ってるの? ボクは白ウサギ、見て分かるでしょ?」と答えた。
そう言われて僕はその子をまじまじと見つめる。
性別はぱっと見分かりにくかったけど女の子のようだった。
可愛い顔をしていたし、若干の胸の所在は確認できたのだけど、ちょっとラフに着崩したような燕尾服のせいで曖昧になっていたのだ(でもなぜか下は短パンだった)
やけに巨大な金の懐中時計を、まるで鞄かのように金の鎖で肩からぶら下げている。
肩で跳ねた白というよりは若干薄茶色の髪の毛と、同じ色をしたウサギのような長い獣耳。
『白ウサギ』
そう名乗っていた。
厳密には白ではないのかもしれないが、本人がそう名乗っているのだからそうなのだろう。
僕が呆けていると、白ウサギはやけに大きな時計で煩わしそうに時間確認し、それから無遠慮に僕の背中をたたいた。
それほど力は込められていないみたいだが、それなりに痛い。
なんだなんだ?
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