とんだ社長
「社長・・」
「何だね?課長の島袋君」
「社長と二人でこの浜辺を歩くなんて本当にお久しぶりです。私、嬉しくてなんだか・・なんだか・・」
島袋は1年ぶりに社長と二人でこの浜辺を歩ける喜びに歓極まりついつい目頭が熱くなるのであった
「よしなさい島袋君、ほら、カモメ達が笑っているじゃないか・・ああ、やっぱり海はいいねぇ島袋君・・碧ねぇ君、広いねぇ君、ブルーシー、ブルースカイ、ブルーブルーブルー!ぇえ君!?私達人類はねぇ、みんなこの広大な海か・・こら!島袋君!いったいどうした!?」
「も、申し訳ございません社長!私クラゲを踏んでしまいました!」
「ビックリするじゃないか君!君から肩車をしてもらいあのむこうの、ずっとむこうのあの水平線に沈んでゆく真っ赤な夕陽を眺めながらこのスケッチブックに私の頭の中に描いた私自身の体の各パーツを抽象的にデッサンしてゆくという私の唯一の楽しみを奪わんでくれよ!」
「は!この島袋、十二分に心得ておりますです社長!・・ん?・・あっ!社長!」
「おいしいねぇ・・やっぱり美味しいねぇこのスケッチブックは、ねぇ君・・きみも食べてみたまえよ島袋君、さぁ」
バリバリバリッ・・ムシャムシャムシャシャッ・・
「あ、美味しい!美味しい美味しい・・美味しいです社長!」
「ぁああっーーーもぉぅうっ!捨てちまえっ!こんなスケッチブックなんて捨てちまえ!この雄大な紺碧の大海原で・・?・・島袋君!?何をヨロヨロしているんだねぇぇええっ!?」
「ぉ・・ぉぇ・・おぇぇええっ!も、申し訳ございません社長!こ、この、スケッチブックが・・の、喉につまってしまいました・・も、もう大丈夫です社長・・」
「本当か?」
「はい、本当に大丈夫です」
「ああ良かった、ビックリさせんでくれよ島袋くぅ〜ん・・・・本当に大丈夫なのか?」
「本当に本当です社長!」
「ああ良かった、島袋君・・島袋万次郎君・・僕はねぇ、次の人事で是非とも僕は君にだねぇ・・・・・・本当に本当なのかぁぁぁああ!この島袋の野郎がぁぁぁあああっっ!!」
「本当に本当に本当ですってば社長ぉおおおっっ!!信じてくださぁーーーいっ!この僕ぉおおっっ!!見て下さい!その目でしかと、この僕の目をしかと見て下さぁああいいっ!ちゃぁあーーんと飲み込みましたからぁぁあああっっ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ならいいんだがね・・」
島袋の瞳から大粒の涙が零れ落ちてきた。その大粒の涙の意味は本人さえも分からなかった
「じゃぁ島袋君、いつものようにこのまま私を肩車したまま、いつものようにこの海岸線を全速力でダッシュしてくれたまえ!」
「サァ、イエッサァアーーーーッッ!!」
「遅い!もっと!もっともっと速くだっ!もっと矢のように速く!もっと戦車のように力強く加速したまぇぇぇええええええっっ!!!!!」
島袋は走った・・家族の笑顔を思い浮かべながら思いのたけ力一杯この浜辺を走った
「げ・・限界です社長!は、早く羽ばたいて下さい社長ぉぉおおおおっっっ!!!!」
パサッ・・パサパサッ!・・パサパサパサパサパサパサパサァーーーーーーーッッッ!!・・・・・・シュィィイイイーーーーーーーーンッ!!
「飛んで行けこの野郎ぉぉおおおおおっっっ!!!」
「まだまだ部長は遠いぞ島袋っーーーーー!!クワッ!クワッ!クワッーーーーッッ!!」
社長は鳥になった・・茜色に染まった大空を我がもの顔で悠々自適に飛び回る・・時には水面をすれすれに飛んで見せもし、直角90°に上昇してみせもしては声高々と社訓を叫び、社歌をも歌って見せもする・・鳥になると社長は渡鳥達と生活を共にするのでおおよそ1年間は会社にその姿を見せることはないのであった
〓END〓