What it remains in is blood,gunpowder smoke,and a cartridge
坂口は両脇を男二人にがっちりと固められながら、半ば強引に歩かされていた。その後ろを石田が辺りを警戒しながらついて行く。彼は榊達が諦めるとは思えないからだ。そこで、仲間五人に警戒するように指示する。
坂口はボロボロになった家具が散乱する部屋に連れて行かれると、そこで前に突き飛ばされた。フローリングに尻餅をつくと、ボディアーマーを着た男二人の間から石田が出てくる。ベルトで吊ったFNCに軽く手を乗せながら。
「あんたに恨みはない。でも運が悪かったのさ」
石田が淡々と話すが坂口は顔面蒼白で、冷や汗が流れて話を聞くどころではない。自分は死ぬと、目の前の男に殺されるのだと思った。
「た、頼む。この事は……誰にも言わない。だから、だから……こ、殺さないでくれ」
震えながら坂口がそう言うと、石田は頷いてみせた。
「そういう考えもあるが、次の日に新聞に載ってたら……」
「誓う! この事は絶対口外しない!」
すると、坂口は懐に手を伸ばした。一人の男が素早く右の太腿に付けたホルスターからドイツのH&K社のUSPを抜いて、坂口に照準を合わせる。しかし、石田が手を出して阻止する。懐から出てきたのは三枚の写真だった。
「これもあんたらに渡す!」
石田はそれを受け取ると、そこには銃を構えている自分が写っていた。どうやら影から撮っていたようだ。それを躊躇なく破り捨てた。
「心配するな、痛みは感じない」
そう言いながらホルスターからキンバーを抜く。坂口は「もう駄目か」と呟いた。頭にキンバーの銃口が押し付けられ、引き金に指が掛かる。
その刹那、大きな爆発音が響いた。爆発でビルが少し揺れる。
「くそ、しつこい奴らだ」
石田の声に、彼はゆっくり目を開けると目の前で慌ただしく部屋を出ていく男二人が見えた。生きてる。彼は自分がまだ生きてる事に気づいて、安堵の溜め息をつく。そこで彼は、榊達の事を思い出した。彼らが助けに来たのか、と。
* * *
照準眼鏡から相手の位置は分かった。
「奴らは三階の一番奥の部屋だ」
野村はM21を伏せた状態で構えていた。先端には折り畳んであった二脚を展開し、銃を安定させている。
その下では、榊と大澤が車を盾にしながら待ち構えていた。
「了解」
ビルの裏口には清水とリンダがドアをぶち破っていた。
「了解!」
作戦開始だ。
ビルから出てきた男二人が燃えてる車を見て、慌てている。そこを榊と大澤が冷静に撃つ。頭を撃たれた男二人はほぼ同時に地面に倒れた。続いて、一人がMP5を撃ちながら飛び出してくる。それを大澤が太腿を撃ち抜き、留めを榊が脳天に撃ち込む。
すると、今度は二階のベランダから男三人がMP5で一斉射撃。素早く身を隠す。タイヤやガラスが撃ち抜かれ、貫通性の高い九ミリがドアも貫通していく。榊達は一番丈夫なエンジン部分を盾にしている。対物小銃でない限り、エンジンまで貫通する事はない。
そこで、野村の援護が始まった。
二階にいる男の頭をヘルメットごと撃ち抜く。素早く残る二人も同じように始末する。
『サンキュー』
大澤の声が届く。それと同時に横の壁が破裂。銃撃だ。野村はすぐに屈んで銃撃を躱す。石田が野村を見つけて仕留めようとFNCを撃っている。
「援護が難しくなった」
野村は淡々と言った。
一方、清水とリンダは坂口がいる階まで来ていた。作戦のお陰で誰にも会う事なく、ここまで来れた。二人は野村が言ってた奥に進んでいくと、銃声が近くなっていく。清水が身を隠しながらゆっくり覗くと、石田ともう一人の男がビルに向かって銃を撃っていた。その奥に坂口がいた。
「クソっ! お前はここにいろ!」
石田が弾倉を抜きながら言った。素早く新しい弾倉を差し込むと、階段をかけ上がって行った。残った男は再び銃を撃ち始めたので、背後から忍び寄り銃床で頭を殴った。男は気絶して倒れた。
「貴様っ!」
後ろから聞こえた声に振り返ると、二人の男が壁に身を隠していた。清水は思わず舌打ちした。すると、銃声と共に二人の男が血を撒き散らしながら倒れた。そこにリンダがM4A1を構えながら現れた。彼女は周りを見渡してから清水に親指を立てて見せた。
「あ、あんたら」
ふぅ、と息を漏らしていると坂口が目を丸くしていた。
「ホントに助けに来てくれたのか」
坂口は今にも泣き出しそうになっていた。
「守るのが仕事なんだね」
清水がUMPを後ろに回しながらそう言うと坂口を立たせた。その時、乾いた銃声が鳴り響いた。振り返ると、リンダが目の前で倒れてきていた。ゆっくりと。
彼女はリンダを受け止めながら、右腰につけたホルスターからベレッタM92FSを抜いて、FNCを構えている石田に向かって引き金を引いた。
FNCとベレッタの銃声が鳴り響く。静まり返る部屋に空薬莢が床に落ちる音だけが響き渡る。
倒れたのは石田だった。
ほんの一瞬の出来事だった。
「おい、大丈夫か!」
清水はリンダの体を揺らしながら言うと、リンダは引き攣った笑みを浮かべた。それを見た清水も鼻で笑った。
「借りが出来たな」
そう。リンダはいち早く石田に気づき、清水を体で守ったのだ。坂口はそんな光景を見ながらア然としていた。
* * *
『坂口を救助』
清水の声が届き、榊と大澤が一安心した。
「了解」
榊がそう言うと、野村も軽快なステップで階段を駆け降りてきた。すると、すぐに清水達が正面口から現れた。清水がリンダに腕を貸しながら。その光景を見て彼は微笑んだ。
「ホントに、助かったよ」
坂口が深々と頭を下げた。
「いえいえ。無事でなによりです」
「お陰で車がダメになったがね」
大澤が皮肉混じりで言った。横にいた野村が笑った。
「笑うな!」
大澤が腕を振り上げると、野村は笑いながら後ろに素早く下がった。その光景に榊、清水、リンダ、それに坂口が笑った。
すると、不意に正面口から誰か出てきた。そこには血を流した石田の姿があった。
「ふざけやがって」
石田の手には二つの手榴弾が握られ、安全ピンが抜かれた。しかし金属のレバーが手でしっかりと外れないようにしている。恐らく自爆する気だろうと榊は考えた。
「殺してやる」
殺意に満ちた目でそう言いながら、覚束ない足取りで一歩ずつ近づいて来る。
「もう終わった。あんたらの負けだ」
近づいて来る。
「もう死人は勘弁だ」
更に近づいて来る。
榊は溜め息をつきながら皆に下がるように合図する。ホルスターからブローニングを抜いて、安全装置を解除。
「忠告はしたからな」
そう言うと、右手を上げてブローニングを構える。乾いた銃声と共に手榴弾を持つ石田の右手が撃ち抜かれた。その瞬間、二つの手榴弾が落ち、レバーが音を立てて外れる。地面に落ちると同時に爆発し、土埃で一瞬にして視界が真っ白になった。
坂口は榊の姿が一瞬でなくなったので、不安になった。
「彼は……大丈夫なのか?」
「あいつなら大丈夫さ」
大澤がガムを口に入れながら言った。
そして、土埃の中から彼はボディアーマーについた汚れを払いながら出てきた。
「ほらな」
大澤はニヤリと口角を上げながら、坂口の肩を叩く。そんな彼を見ながら坂口は自分がいかれているなんて思った事を恥じた。彼らはみんな命懸けで守ってくれたのだ。
「じゃあ、行きますか」
そう言うと、大澤達が坂口を囲む。
「行きましょう」
榊が手を差し出す。
彼らほど頼もしい人はいないだろう。
「あぁ」
坂口は榊の手を掴み、立ち上がった。