Counteroffensive
大澤はガムを膨らませながら、サイドミラーで後続車を確認しながら走らせた。
「まいたと思うか?」
「さぁな。奴らのしつこさによるな」
榊は手元にガリルを引き寄せ、棹桿を少しだけ引いて薬室を覗く。金色に輝く五.五六ミリの弾丸が待機されている。棹桿をゆっくりと戻すと、振り返った。
「もうすぐ港だ。最後まで気を抜くなよ」
そう言われた三人がそれぞれの銃をチェックした。坂口は口を開けながら三人を見ていた。そんな彼に榊が話し掛ける。
「坂口さん、安心して下さい。必ず我々が守ります」
「あんたら……怖くないのか?」
彼は不思議そうに言った。
「これが仕事ですからね」
そう言って笑みを作った。しかし彼は笑えなかった。いや、笑えないのだ。いくら仕事とは言え、銃で撃たれたり、対戦車榴弾発射器に狙われながら怖くないという榊達を不気味で仕方ないのだ。むしろ、狂っているのだろうかと思っている。
大澤は、信号器が赤になったのでバンデューラを止めた。サイドミラーで不審な車がないか確認する。その間に自分の銃をチェック。榊は、シートに体重を預けて大きく息を吐く。何気なく外を見るとカップルが談笑しながら歩いていた。なんとなく昔の自分と重ねた。腕を絡ませ、テレビや映画、仕事場の笑い話をしている光景を。
すぐに視線をカップルから移す。そしてその先にある物を見て、目を丸くした。
「誠! 出せ!」
その時には既に遅かった。すぐにそれはバンデューラを襲った。
トラックがバンデューラの横っ腹に突っ込んできたのだ。
突っ込まれたバンデューラは横に回転していく。そこに一般車が突っ込む。派手な音と共にガラスが飛び散り、バンデューラは横転した状態でようやく回転が止まった。
一瞬の出来事に信号待ちをしていた車から人々が目の前の光景を呆然と見ていた。歩道を歩いていた通行人は目を丸くしながら固まっている。そこにシルバーのフェアレディZと黒のエスティマが黒いタイヤ痕を付けながら来た。
エスティマからMP5A4を持った男が五人降り、バンデューラを取り囲みながら寄った。フェアレディZからは石田がベルギーのFN社が開発したFNCを持って降りた。
榊は意識を戻し、頭を働かせようとした。すると、後部座席のドアが開いた。黒いボディアーマーを着た男達がMP5を持っていた。一人が坂口を見つけて引っ張り出す。坂口は気を失っていて、されるがままだ。しかし彼はそれを阻止する為に腕を掴んだ。だが上手く力を入れる事が出来ずに、すぐに引き離された。
「よう」
声がする方を見ると、石田が蜘蛛の巣状態のガラス越しにぼんやりと立っていた。
「これはさっきのお返しだ」
銃声と共に銃弾が二発撃ち込まれた。強烈な衝撃を受けた榊は、一瞬だけ呼吸困難に陥った。しかし、これで意識が覚醒した。
シートベルトを外し、ガリルを手に取った。その頃には大澤、清水、野村、リンダも目を覚まし始めた。
彼はフロントガラスを蹴破り、転がり出た。息を切らしながら、立ち上がるとガリルを構えた。車から出てきた男が口を開けながら見ている。
横転したバンデューラに身を隠しながら覗くと、男二人が坂口をエスティマに詰め込むところだった。
安全装置を解除し、フルオートの“F”にセット。車に戻ろうとしている一人を背後から撃った。渇いた銃声がビルのせいで反響する。
背中を撃たれた男は倒れて、もがいている。ボディアーマーのお陰で死んではいないようだ。
「殺せ!」
石田がそう叫ぶ。一斉にMP5の銃口から火が噴く。銃声と悲鳴。榊もガリルを撃って応戦。
すると、中から大澤がSG552を持って出てきた。折り畳んだ銃底を開き、すぐに銃撃。銃声がビルによって反響し、うるさい。
途端に事故現場が戦場に変わった。
銃弾がフロントガラス、サイドミラー、タイヤ、車体に当たって穴だらけになる。
清水とリンダと野村もそれぞれ自分の銃を持って出てくると、すぐに撃ち始めた。すると、榊の横にいた大澤が倒れた。見ると、トラックの運転席からグロック18Cをフルオートで撃ってきていた。片膝立ちの体制になり、そのまま運転席に撃ち込む。フロントガラスが蜘蛛の巣状になり、血が飛び散る。
「大丈夫か?」
大澤は苦笑いを浮かべた。その彼の肩から真っ赤な血が流れていた。榊はハンカチを出して、とりあえず止血する為にきつく縛った。
『拓』
野村の声に反応し、振り返ると石田達が銃を撃ちながら車に乗り込んでいっている。
「くそ」
榊がガリルを撃ちながら飛び出すと、リンダと清水も続く。銃撃を受けた石田達が慌てて車に乗り込み、急発進。
榊は目の前に止まっている車のとこで弾が切れた。弾倉を抜き取って、捨て、弾倉袋から新しい弾倉を出して、差し込む。これを約七秒でやってみせた。
再びガリルを構えた時には既に走り去っていた。
大澤はバンデューラを置いてく寂しさを抑えながら、白いパジェロに乗り込んだ。榊達もすぐに乗り込んだ。
「行け、行け、行け!」
清水が急かすの中、大澤はバンデューラを見つめながらバックさせた。
「あぁ、クソ!」
そう言って、パジェロを百八○度回転させ、ギアをドライブの“D”に。アクセルを踏み込んで、石田達を追いかけた。
榊達はすぐに新しい弾倉に替えておく。大澤のは榊が替えておく。
「おい、誠。絶対逃がすんじゃねぇぞ」
清水が身を乗り出しながら言った。
「分かってる」
大澤は無表情で返した。
車を何台か追い抜くと、目当てのフェアレディZとエスティマを発見した。
「スピードを落とせ。いくらなんでも殺しはしないと思うが、気づかれたらすぐに坂口を殺すだろう」
榊がそう言うと、大澤はスピードを落として一般車に紛れる。フェアレディZとエスティマを一定の間隔で追う。右に曲がれば右。左に曲がれば左。そうやって追いかけていると、二台がゴーストタウンと呼ばれる一角に入った。
ゴーストタウンとは、第二世界恐慌で潰れた会社や誰もいないマンションが立ち並ぶ一角だ。ギラギラ輝いていた街は、今ではホームレスやギャングの隠れ家となっている。
ようやく二台が廃墟ビルに止まった。
パジェロを角に止め、石田達がビルに入って行くのを確認してから降りた。
「いいか? 目的は坂口の救助だ。だが容赦するな。正司はあそこから」
指をさした先はビルを反対側にあるマンションがあった。
「清水とリンダ、俺と大澤のペアで動く」
「ちょっ、なんでアタシがこいつと一緒なのさ」
「お前は勝手に暴走するからだ。そうなると、怪我してる誠が一緒だとカバー出来ない」
清水が不機嫌そうに腰に手を当てた。
「俺達が爆弾を仕掛けて誘爆する。その間にお前達は救助しろ。石田は、援護しながら中の様子を。いいな?」
榊は、みなの顔を見るが誰も何も言わなかった。
「じゃあ、行くぞ」
それを合図にそれぞれの場所に向かう。