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Car chase of crazy

 榊はサイドミラーで後方を確認し、追っ手がいない事を確認。思わず溜め息が漏れた。

「あの野郎、バンバン撃ちやがって」

 大澤は険しい表情でフロントガラスやボディの傷を見る。九ミリと違って四五ACPは威力が大きい。その分、傷も酷い。

「はぁ。高いんだぜ、これ」

「まあ、そう落ち込むな」

 榊は肩を軽く叩いて、後部座席に視線を移した。坂口が放心状態で野村が肩を竦めていた。それから携帯電話を出して、水谷に連絡を入れる。水谷は一回目のコールで出た。

『首尾は?』

「まあまあってとこだな。これから港に向かう」

『気をつけて下さいね。先程SATが出動したようですから』

 SAT。警視庁に所属するテロ対策部隊だ。

 彼は思わず笑ってしまった。

「向こうも本気って事か」

 大澤はサイドミラーを見て、後方を確認して表情が変わった。

「お客さんだぜ」

 それを聞いた榊もサイドミラーで後方を確認する。黒のトランスポーターが凄いスピードで車を次々と追い越していく。

「おでましだぜ」

 大澤が後ろにいる清水達に言うと、野村が後ろの窓を見た。坂口がおどおどし始めた。

「悪いな。また連絡する」

『分かりました』

 電話を切ると、携帯電話をポケットに押し込んだ。

「お、おい! 本当にだ、大丈夫なんだろうな?」

 坂口が野村の腕を掴みながら言うと、

「それはあっち次第だね」

 淡々とした口調で席を移動する。坂口は小さな声で「マジかよ」と呟いた。

「位置は?」

 清水もUMPを持ちながら聞く。

「左右から来るぞ。距離は二十ぐらいだな」

 大澤がアクセルを踏み込んでスピードをさらに上げる。

「まけるか?」

「やるしかないだろ?」

 そう言ってハンドルを左にきると、けたたましい音を立てて、左に曲がった。真っ黒なタイヤ痕を残して。

 クラクションの嵐。

 後ろのトラスンポーターもついて来ている。ハンドルを右へ左へと動かして車を追い抜いていくと、突然リンダが叫んだ。

「RPG!」

 榊と大澤が慌ててサイドミラーで確認。そこにはトラスンポーターのドアを開けて、ベルトで体を固定したSATの隊員が確かに対戦車榴弾発射器のRPG7を構えていた。

「マジかよ!」

 慌ててハンドルをきるのとほぼ同時にRPGの弾頭が発射された。凄まじい轟音と共に。RPGの弾頭は発射されると、安定翼を開いてさらにスピードを増す。しかし発射された弾頭は榊達が乗っている車ではなく、その前を走っていた乗用車のトランク部分に命中。乗用車が逆立ちするかのように、前に一回転。間一髪だ。

「もう一発来るわ!」

 再びリンダが叫ぶ。

 すると、野村がホルスターからファイブセブンを抜いてドアを開けた。それを見た坂口がパニック状態になる。

「お、おい!」

 坂口の言葉を無視して、素早くシートベルトを腕に巻き、体を外に出した。百キロ近いスピードを出している為、強い風が野村に打ち付けられる。しかし野村はその状態のままファイブセブンを連続で五回撃った。

 防弾ベストをも貫通するファイブセブン独特の弾丸は運転手に命中し、蜘蛛の巣が出来たフロントガラスに真っ赤な血が飛び散る。すると、トラスンポーターは左に反れた瞬間、RPGを持った隊員がバランスを崩した。そして、RPGが地面に向けて発射。地震のような揺れと同時に、爆風でトラスンポーターが横に一回転。それでも止まらず、回転しながら後続車と対向車線を走っていた車を何台か巻き込んで、ようやく止まった。

 大澤と榊が口笛を吹いた。

「まだ来るよ!」

 清水の言葉に反応し、再びサイドミラーを覗く。残ったもう一台のトラスンポーターが煙りの中からスピードを上げて追ってくる。負けじと大澤もアクセルを踏んでスピードを上げる。

 すると、トラスンポーターのドアが開いて反撃してきた。車のボディに銃弾が撃ち込まれていく。野村もファイブセブンで応戦するが、相手は高性能のMP5。銃弾が野村の体に何発か撃ち込まれる。彼は撃たれた衝撃でファイブセブンを落としてしまった。慌てて清水が彼を中に引っ張りこむ。

「あぁ、くそ!」

 野村のボディアーマーには六発の銃弾が撃ち込まれており、その個所から煙が出ていた。虫を払うようにボディアーマーに仕込まれた鉄板で潰れた弾丸を取る。

「大丈夫か?」

 榊が聞くと、

「いてぇよ」

 野村は笑みを浮かべて返した。

「上出来だ」

 大澤はアクセルを踏み込んでさらにスピードを上げて、車を次々と追い抜く。SATの車もスピードを上げて追ってくる。すると、榊達が乗るバンデューラに体当たりしてきた。大きな振動が車内に響き、みな飛ばされないようにしっかりと掴まった。

「冗談じゃねぇ。整備したばっかの車なんだぞ」

 大澤は噛んでいたガムを包み紙に出すと、新しいのを口の中にほうり込んだ。ガムを少し噛んでから彼はミラーで後続車がいないのを確認するとブレーキーを踏んだ。

 彼以外の榊達は突然のブレーキーに反応出来ず、シートにぶつかった。一瞬だけ無重力を体感した。

 悲鳴にも似た喧しい音とタイヤのゴムが擦れて煙りを出す。

 SATが乗るトランポーターはバンデューラを追い越す。瞬時に再びアクセルを踏み込んで、後ろからトランポーターに突っ込む。再び車内に衝撃が走った。

「お前なぁ、もう少し説明してからでもいいだろ」

 横にいる榊が噎せながら言った。

「全くだよ」

 清水がでこを押さえながら言う。坂口は目を丸くしながらシートにしがみつく。

「悪い悪い」

 そう言ってガムで風船を作った。

「それじゃあ、反撃だ!」

「ほい、来た!」

 再び後ろから体当たりした。それから今度は右側面を体当たり。後ろではクラクションの嵐だが、お構いなしに体当たり。三度目の体当たりにトランポーターは左にずれたと思うと、そのまま街灯に衝突。衝撃で街灯がゆっくり傾き、火花とガラスを撒き散らしながら地面に倒れた。

「思いしったか!」

 榊は窓からトランポーターを見ると、頭から血を流したさっきの男が覚束ない足取りで出てきた。その男に中指を立てた。


     *   *   *


 男はドアに体を寄せながら榊達が乗るバンデューラを見送ると、ポケットの中で携帯電話が震えた。携帯電話を取り出し、画面を見ると非通知と映っている。

「はい」

 息を切らしながら出る。

『まだなのか? 石田』

 電話の主はあの方からだった。石田は声を聞いただけで寒気が走った。

「申し訳ありません。厄介な連中でして、何人かやられました」

 不意に運転席を覗くとハンドルに突っ伏したまま動いていない仲間の姿があった。

『そんなのは言い訳にならん。いいか? どんな手を使ってでも奴を消せ』

「はい。必ず」

 彼は途端に自殺したい気になった。

『恐らく奴らは港に向かってる。そこで仕留めろ。今度はしくじるなよ』

「……了解」

 電話を切ると、車道に出て車を止めた。警察手帳とキンバーカスタムを見せながら。目の前にシルバーの日産フェアレディZ三四型が急停止した。

「警察だ! 降りろ!」

 怒鳴りながら運転席に回ると、困惑した運転手を無理矢理降ろした。すぐに乗り込むと、アクセルを踏み込んで急発進。運転手はようやく我に返り、愛車に向かって怒鳴った。

 石田は携帯電話を出して電話をかけた。

「俺だ。今すぐ人がいる。……あぁ、今すぐだ。場所は俺のケータイの発信で捜せ」

 話しながらフルスピードで走らせた。巧みな運転捌きで車を追い越し、榊達のバンデューラを追いかけた。

「完全武装で頼んだぞ。それと、俺の銃も頼む」

 十四台ほど追い抜いた先に目当てのバンデューラが走っていた。スピードを落とし、一般車に紛れ込んだ。

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