The beginning of the crazy gunfight game
坂口はそわそわしながら部屋の中を歩き回った。大島に教えてもらったモーテルに来たのはいいが、相手は警察。すぐにばれると思うと、落ち着いてはいられない。時折締め切ったカーテンの隙間から外を伺う。それから護身用に持っているS&W社の回転式拳銃、M36の円筒を左に勢いよく出すと、弾があるか確認する。それから元に戻す。これをずっと繰り返している。
「くそ。まだか」
八回目の腕時計を見る。すると、部屋のドアがノックされた。ノックの音に過剰反応した坂口はドアにM36を向けた。
「だ、誰だ?」
「大島セキュリティーから来た者です」
そう聞いた瞬間思わず安堵の溜め息を漏らしたが、頭を振って気持ちを切り替えた。まだ偽者という事がある。そう思ってドアの覗き穴から廊下を見た。そこには男女が周りを気にしながらドアの前にいた。
「証拠を見せろ!」
そう言うと、男がジーンズの後ろポケットから黒革の手帳を出して開く。そこには事務所の名前と氏名と顔写真が載っている。それは正規の手続きをしないと所持出来ない身分証だった。
「榊拓と申します」
榊がそう言うと、手帳を閉じた。
坂口は額に乗った汗を拭って、深呼吸を一つした。それからドアのチェーンと鍵を外して開けた。
「坂口昭典さん、ですか?」
「あぁ」
そう言うとベッドの上に置かれたバッグにM36を詰め込んで持ち上げる。
「早く行こう。奴らはきっと来るはずだ」
坂口はまたカーテンの隙間から外を覗いた。
「分かりました、では行きましょう。今からそっちに向かう」
喉の振動を使って、小声でも確実に音声を拾うスロートマイクでバンデューラで待機している大澤に指示を出す。それから廊下に待機する清水に目で合図する。そして、清水を先頭に坂口を挟むように後ろに榊。
廊下はベッドメイクの人や清掃のおばさんがせっせっと働いている。その脇を通り、奥にある階段を目指す。すると、階段から複数の足音が。気づく頃には黒いスーツを着た男が四人上がってきた。会社員ではないというのはすぐに分かった。刑事独特の威圧感だ。
「君達、どこの者だ」
先頭にいた男が指をさしながら前に出ながら言った。
「大島セキュリティー」
清水がそう言いながら身分証を出した。男がそれを受け取ると、小さなカメラような物を取り出すと身分証を読み取った。
正規の身分証には政府が独自に用意したIDチップが内蔵されており、チップを読み取る事で本人かどうか確認する。
「そのようだな」
身分証を清水に返す。
「しかし、そちらの方は我々警察が保護する」
「こっちも仕事なんでね」
その瞬間、後ろの一人が動いた。
「清水!」
榊が瞬時にホルスターからブローニングを抜く。
銃声が廊下に響く。
清水の胸の部分が破裂。先頭の男の手にはグロック19が握られていた。銃口からは硝煙が吐き出されている。
榊はブローニングを発砲しながら坂口を引っ張った。先頭の男の胸に二発。壁に三発。残った三人がすぐに身を隠した。威嚇にはなっただろう。それから開いてた部屋に飛び込んだ。
「清水、大丈夫か?」
『あの野郎、至近距離が撃ちやがった』
廊下を覗くと、清水が胸を押さえながらドアを蹴り開けた。どうやらボディアーマーが役に立ったようだ。
「大人しく、そいつを渡せ!」
廊下の奥から聞こえてきた。
「ど、どうするんだよ!?」
坂口がすがり付くように榊に言った。
「さぁて、どうするかな」
『私が行くわ』
イヤホンからリンダな声が聞こえてきた。すると、奥から鈍い音が聞こえた。
「貴様!」
すぐに銃声。
廊下を覗くとリンダがM4を構えながら立っていた。
『Clear』
榊はゆっくりと廊下に出ると、清水も胸を押さえながら出てきた。
「大丈夫か?」
「いてぇよ」
ニッと笑うとリンダに頷いてみせる。リンダはすぐに階段をM4を構えながら降りた。
「今からそっちに向かう」
『あいよ』
清水が撃った男を蹴っている間に榊は坂口を連れて来た。
「それぐらいにしとけ」
清水を止めると、蹴られた男は苦しそうに口を開いた。どうやら防弾ベストを着ていたようだ。
「逃げれないぞ」
清水がごついコンバットブーツで顔面に蹴りを放った。蹴られた男は気絶した。
「早いとこ行こう」
榊は清水を押しながら進んだ。坂口は口を開けながら気絶した男達を見ながら走ってくる。
下に降りるとリンダが鋭い目つきで警戒している。榊が肩を叩いて、自分が来た事を教える。清水は相変わらず不機嫌だったので、坂口は彼女に任せてリンダと榊は裏口に向かった。受付の男がカウンターに隠れながら四人を見送った。
裏口のドアを開けて、榊が裏路地に出た。そして、すぐに銃口が向けられているのに気がついた。
「動くなと仲間に言え」
そこには紺色のスーツに短髪の男が、コルト・ガバメントのコピー銃、キンバーカスタムを構えていた。
榊の後頭部に銃口が押し付けられた。
「だってさ」
安全装置をかけ、両手を肩の位置まで上げた。それから後ろを向いて、キンバーカスタムを見つめて口笛を吹いた。
「キンバーか。良い銃だよな」
男は無表情のまま口を開いた。
「坂口を渡してもらおう。そうすれば、誰も傷つかない」
「傷つかないってのは賛成だね。でもそれって、時と場合によるな」
榊がニヤッと笑う姿を見た男は、すぐに後ろを振り返る。視線の先には真っ黒く塗装されたバンデューラが向かってきていた。男は運転手の大澤を狙って撃つが、鈍い音を立てながら銃弾が弾かれる。その隙に榊は男をバンデューラの前に突き飛ばした。
バンデューラは見事に男を跳ね飛ばした。跳ねられた男は低い呻き声を出しながら、壁に激突した。それからゴミカートを経て地面に叩きつけられた。
バンデューラが榊の前に止まると、運転席の窓がおりた。
「乗ってくか?」
「もちろん」
リンダと清水が坂口を連れて出てくると、後ろのドアが開いて野村が招き入れた。続いてリンダと清水が乗り込むと、榊も助手席側に移動した。その刹那、跳ね飛ばされた男がゆっくりと立ち上がった。
「あいつ、タフだね」
大澤が笑う。榊が運転席に乗り込んだ時には、男はゆっくりと落としたキンバーカスタムを拾った。男の目は殺意に満ちていた。
「出した方がよさそうだ」
榊がそう言うと、大澤はギアをRに入れてアクセスを踏み込んだ。途端に防弾使用のフロントガラスに銃弾が次々と撃ち込まれる。坂口が絶叫。
市道に出ると、ブレーキを踏んですぐにギアをトップに。ブレーキの悲鳴とクラクションの嵐の中、バンデューラは急発進する。アスファルトが擦れて白い煙りを出しながら。
男は空になった弾倉を地面に落としながら、落ちる頃には新しい弾倉が装填された。そして、止まっている車のボンネットを滑りながら移動し、バンデューラに狙いをつける。しかし、すぐに榊達は射程圏外にいた。
「くそっ!」
男は血管を浮かせながら叫んだ。そこに傷を負った部下が走ってきた。
「追うぞ!」
部下はすぐに自分達の車に駆けて行き、彼は携帯電話を取り出して何やら話し始めた。