Prologue 2
熱々のコーヒーを啜りながら八枚目の書類に目を通す。内容は議員演説の警護の依頼だ。多くなったなと思いながら大島達雄はコーヒーカップをデスクに置き、部屋の隅でデスクワークをしている眼鏡の女性に書類を差し出す。
「水谷君、これは大橋班に回してくれ」
「分かりました」
水谷――水谷百花――と呼ばれたグレーのスーツ姿の凜とした女性は書類を受け取ると、自分の持ち場に戻った。そこで書類をA4サイズの封筒に入れると、壁にある六つの郵便受けのような入口の一つに押し込んだ。
書類は隣の部屋に通じている同じく郵便受けに行き届く仕組みになっている。郵便受けにはそれぞれ名前がついており、各班のリーダーが出勤と同時にそこから仕事を受ける。
水谷は椅子に座ると、唐突に綺麗に整理されたデスクの上に置かれた固定電話が鳴った。二回目のコールで受話器を取った。
「はい。こちら大島セキュリティー事務所です」
『至急大島さんと話したい』
出るなり息を切らした声でそう言われた。
「失礼ですが、お名前は?」
一方の水谷は落ち着いて尋ねた。
『いいから繋げ!』
怒声があまりにも大きかったようで新聞を読んでいた大島が不思議そうに彼女を見た。彼女は送話口を手で塞ぎながら言った。
「至急お話したいという方が」
彼は溜め息をつきながら新聞を畳んでコーヒーを飲みほしてから、
「繋いでくれ」
と言った。
水谷は、頷くと繋ぐように言ってから彼は受話器を取って答えた。
「お電話かわりました、大島です」
『坂口だ』
久しぶりに聞く声だった。
それはフリーライターである友人の坂口明典からだった。この職業をやるきっかけを作ってくれた人物だ。
「おぉ、坂口か。元気だったか?」
大島はそう言いながら水谷に録音するのをやめさせるように合図した。録音はあとで契約の事で依頼主と揉めた時の証拠としてやっている。
水谷は無表情で録音を止め、自分の仕事に戻った。
『元気じゃねぇよ』
溜め息混じりの声だ。
『頼む。助けてほしい』
「どうかしたのか?」
『ヤバイのに首を突っ込んじまってよ。…………今日のニュース見たか?』
大島は手元の新聞を広げて一面を見る。そこには警視庁の幹部が殺害された記事が大きく載っている。
「警察上層部が殺された事件か?」
『あぁ。あれは警察内部の犯行だ。俺はあの現場にいたんだ』
「でもなんで警察内部と……」
『いたんだよ。捜査一課のお偉方さんが。事が始まった途端に偶然を装って制服警官まで来やがった』
どうやらこの事件は警察内部の仕業という事になる。
『多分俺の顔は見られた』
「そいつはまたヤバイのに首を突っ込んだな。それで、俺は何をしたらいい?」
『ほとぼりが冷めるまで高飛びする。港まで護衛をつけてくれないか?』
「ちょっと待っててくれ」
大島は受話器を耳から放し、水谷に向かって叫んだ。
「急いでこいつらを呼んでくれ」
デスクの上に四人の写真が並べられた。