Prologue
よく晴れた東京。
太陽が輝く下を車が、人が忙しなく走り抜けていく。そんな中、一際目立つ真っ白なロールス・ロイスのリムジンが走っている。中では恰幅いい男が紺色のスーツに身を包みながら今日の朝刊に目を通していた。
「警視庁の重役が射殺……か」
淡々とした口調で男は一面の書き出しを口にした。書き出しの下には警察官がカメラに手をだし、奥にタクシーのドアが開いたまま止まっており、中から足が垂れている。ガラスには四つの穴と赤いの飛び散っている。
男は鼻で少し笑うと、エスプレッソを口にした。それから満足そうに記事に目を通す。すると、運転席にある仕切りが下がった。
「お電話です」
運転手がそれだけ告げると、すぐに仕切りが上がった。男はゆっくりとした動作でシートのひじ掛けに内蔵された受話器を取った。
「なんだ?」
『石田です』
「お前か。昨夜はいい仕事だったな。これでぐっすりと寝れるよ」
『その事でお話が』
石田は言いにくそうに話を切った。
『……厄介な者に目撃されまして』
「なんだと?」
男はいつも通り、ゆっくりとした口調で話した。しかし、それが逆に石田を怖がらせ、少し間があいてから口を開いた。
『ただ今、全力で追跡しております』
「その厄介な者とは誰だ?」
『フリーの記者です。前に長谷川さんの不倫を載せた坂口という男です』
男は苛立ちながら思い出していた。
三年前に長谷川という男は警視庁の幹部の一人で、若い女性警察官と不倫していた。前田はそのネタを週刊誌に提供。不倫知った長谷川の妻は遺書を残して自殺。それから長谷川は辞職した後に、自宅で自殺。マスコミには恰好のエサとなった事件だ。
「なんとしてでも見つけだせ」
『はい。後始末もこちらで済ませます』
男は受話器を戻すと、新聞を破り捨てた。