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 山の空気は澄んでいる。

 槐樹院の深い青の瓦屋根に、白髪の少女が寝転んでいる。晴れた日はそこで日向ぼっこをするのが習慣になっているので、いくら逃げようとしたって見つかる。お互いの暗黙の了解だ。

 庭の梅の木は、まだ寒さに凍えるように蕾を縮こませたままだ。

「いつき、降りてきなさい」

 呼ぶと不機嫌そうにいそいそ降りてくる。チベット風の巫女服が屋根の埃で汚れている。

「いつから君は父親面をするようになったんだい」

「仕事があるのにいつもサボる君を子供扱いしない方が難しいよ」

「初対面の時から思っていたけれど、穂村はじじ臭いな!」

 そう言ってぷりぷり怒るものだから余計に子供っぽい。

「それにしても……」

 いつきは頭から生えている角に目をやる。

「自ら実験体になるとは」

「日本には古くからそういう考え方があるんだよ。道真公とかが有名だけど、悪さをする神様を崇めて善い神にする考え方が」

 砂の受け売りだった。尻尾を揺らす。自分の尾骶骨から伸びるのは、所謂東洋龍の尾だった。

「ラウもその手があったかと言っていたね。流石だ」

 いつきの白髪は出会った頃から何も変わらない。千年ほど経った今でも。

「ラウが褒めるなんて滅多にないんだぞ。好い種が蒔かれたということだ」

「光栄だね」

「やはり僕の目に狂いはなかったということだ。穂村、君は天才だ」

「私は別に大した器じゃない。ただ種がよく育ってくれることを祈るだけの老人だ」

 メジロのような鳥が梅の枝にとまった。鳥の声が槐樹院の小さな中庭に響く。

 まだ雪は深い。

「そうそう、話が流されるところだった。高砂(たかさご)君が挨拶に来ててね。顔を出してやってほしい」

「当代の(いさご)か。そういうことなら早く言ってくれ」

 いつきーーと呼べと勝手に指定してきたEve-12は南門の方に駆けて行った。

 眼下に広がる雲海を見やる。

 雲の下には人の暮らしがあり、人生がある。

 それらが恒久に続いていくように、とただ思った。


 もし、何度目かの輪廻でまた君に会うことができたのなら、次こそ、続きを伝えられるように。

 惑う時間を要さずに、抱きしめられるように。

 今日もただ、世界を続けていく。

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