表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2つの素顔

作者: 小翠あずき
掲載日:2025/10/10

初めて書いた物語です。

静かな辺境を舞台に、少し不器用で、でもまっすぐな二人の心の距離を書きたいと思いました。

派手な戦いや劇的な展開ではなく、穏やかな空気を感じてもらえたら嬉しいです。

森の中を駆け抜けるたび、剣が手に馴染む。

私はリヴィア・アルマンド、辺境の貴族の娘。


家族の名誉と領地を守るため、男装して騎士として振る舞う日々を送っている。周囲には私が女であることなど分かっていない――そう信じているけれど、心の奥には小さな緊張がある。




木漏れ日が枝の間を差し、森の空気はひんやりとして心を引き締める。鳥のさえずり、風に揺れる枝葉の音、遠くで水が流れる音――森のすべてが私の感覚を研ぎ澄ます。


軽く息を整え、剣の感触を確かめる。今日も、いつ襲ってくるか分からない危機に備える日だ。


突然、森の奥から小さな悲鳴が響く。瞬時に駆け出す。音の方向へ向かうと、木陰に少女が立っている――長い白銀の髪、透き通った蒼の瞳、柔らかな顔立ち、高貴な気品を纏っている。優雅な女の子だと思った瞬間、胸が跳ねるのを感じた。


「落ち着いて、わたくしが守るわ」


その声は柔らかいけれど、どこか凛とした力がある。女の子のはずなのに、どうしてこんなにも安心感があるのだろう――。


「……わかった」


私は剣を握り、森の中で襲いかかる獣たちに立ち向かう。戦闘は私の得意分野だが、この少女を守るという思いは、単なる任務以上のものだった。心臓の奥が熱くなる。


敵は木々の間を飛び回り、爪や牙で襲いかかってくる。私は剣を振るいながら、相手の動き、森の地形、足元の枝の位置――すべてを意識する。彼女は戦闘能力は高くないが、森の地形や敵の動きを読み、私に指示を出す。小さな目配せで意図を伝えるその冷静さに、次第に信頼を覚える。


戦闘が終わり、森は再び静寂に包まれる。木々の隙間から差し込む光の中、彼女の目が私をじっと見つめる。心がざわついた。


「……あなた、すごく強いのね」


「……君、すごく聡明だね」


「わたくし、セリアンと申しますわ。

 先程は助けて頂きありがとうございます」


「私はリヴィア・アルマンド。

 君の的確な指示で私も助かったよ」


微笑みが交わされると、胸の奥で小さな高鳴りを覚える。女の子として尊敬と憧れの入り混じった気持ち――騎士として守りたいという思いが芽生えた瞬間だった。




翌日、森の中で偶然再び顔を合わせる。男として振る舞う私のことを彼女は知っているのだろうか。私は彼女が気づかないことを願いながら、心の奥で小さく思う――「もっと彼女と話がしたい」。


「今日は森が静かだね」


「そうね、でも油断は禁物よ。昨日の獣たちも、森の奥まで追ってきそうだわ」


「……きみは、どうしてここに来たんだ?」


「……わたくしの用事よ。でも、あなたに会うためでもあるかもしれないわ」


その言葉に胸が少し熱くなる。私は道案内のふりをして少し彼女の前を歩く。枝葉を払い、道を整えながら、心の中では「守る存在でありたい」と思う。


「ねぇ、あの怪我は大丈夫?」


「……ああ、少し擦りむいただけよ。心配してくれてありがとう」


こんな会話の中でも、心はドキドキする。騎士として守りたい気持ちと、女の子として惹かれる気持ち――二つの思いが交差して胸を温かくする。


森の小道を進むたび、私は彼女の仕草を観察する。木の葉が揺れるたびに髪が頬にかかる指先、剣の手入れを見ながら瞳を輝かせる様子――些細な動作のすべてが私の心を揺さぶる。




数日後、森の奥で偵察をしていると、かすかな音に背筋が凍る。枝が折れる音、落ち葉のざわめき――敵か、野生の獣か。剣を握り直し、息を整える。


「右側、茂みの影に敵影!」


私は即座に指示を出す。彼女――セリアンは小さな剣しか持っていないが、目の奥に冷静さと確信が宿る。私の動きを読み、軽やかに位置取りを変え、敵を誘導する。


敵の一体が飛び出し、森の茂みに潜む。私は冷静に対応するが、胸は高鳴る。戦闘のリズムは、まるで息を合わせるダンスのようだ。彼女の一瞬の目配せ、手の動き、微かな呼吸の乱れ――すべてが私に情報を与える。


「こっちよ、追って来てるわ!」


「わかった、私が誘導する」


声を交わすたび、自然と心が通じ合う。戦場では言葉よりも動作が先に信頼を伝える。敵を振り切った後、茂みの奥で息を整える。


「……リヴィア、あなたはどうしてそんなに冷静なの?」


「生き延びるためだよ。でも、きみの存在が心強い」


「わたくしの存在……そう思ってくれてるのね」


「もちろん。きみがそばにいてくれるから戦えるんだ」


言葉にしなくても、互いの呼吸で心が繋がるのを感じた。胸の奥が暖かくなる。




戦闘の後、森で休息する時間も増えた。木陰で水を分け合い、野生の小鹿に出会う。剣を構えるが、目を丸くして立ち止まる。


「どうするつもりなんだ?」


「大丈夫、逃がすわよ」


小さな笑顔を交わす瞬間、森の静けさが二人だけの世界のように感じられる。木の枝に引っかかった果実を見つけ、取り合うと互いに笑い合う。些細な日常が、心の距離を少しずつ縮める。


「君は本当に森が似合うね」


「あなたもね。戦いの合間の静けさの中で、少しずつ知る姿が素敵だわ」


彼女の言葉に胸が高鳴る。守るだけではなく、互いを認め合う存在――それが今の私たちだと実感する。




ある夕暮れ、森の縁で風が二人の髪を揺らす。ふと彼女の裾が揺れた瞬間、目の端に映ったその姿に息を呑む。――女の子として見ていた彼女は、女装していたのだ。戦場では分からなかった本当の姿が、今、はっきりと目に映る。


「……セリアン、女装していたの?」


僕は一瞬躊躇する。心臓が高鳴り、声が震えるかもしれない。


「そうだ。君の男装は最初から知っていた」


「……え?」


「君が森で戦う姿を、ずっと見ていた。

だから、僕はずっとそばにいたかったんだ」


目を見開いた彼女の瞳に、驚きと戸惑い、少しの安堵が混じる。僕の手が少し震えながらも、差し出す。


「僕は……セリアン・ヴァレンティン、この国の第三王子だ」


その瞬間、森の光が二人の間で揺れ、影と光が交錯する。彼女の胸の高鳴り、僕の心臓の鼓動――互いに響き合う。


「……でも、なぜこんな所に?」


「僕の命は狙われている。だから、辺境に隠れているんだ。

ずっと不安だった、でも、君のそばにいると安心できる」


沈黙の中、彼女の手がそっと僕の手を握る。驚き、戸惑い、安心、喜び――複雑な感情が交錯する瞬間だ。


「守りたい、ずっとそばにいたい――」


その思いを胸に、僕は彼女の瞳を見つめる。互いに秘密を抱えていた日々も、この瞬間には意味を持つ。


森の風が、二人の髪を揺らす。影に隠れ生きてきた二つの素顔は、ついに重なり合う。

だが、心の奥に微かな疑問が残る――彼女の家族や、この森に潜む不穏な気配……。完全に安全ではないことを、私たちはまだ知らない。


それでも、今はただ互いの手を握り合い、信頼と恋心に包まれている。秘密と恐れを越えた先に、未来の可能性がゆっくりと広がっていた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

お互いに秘密を抱えたままでも、確かに通じ合っているそんな関係を書けたらと思いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
初めての執筆、お疲れさまでした。 秘密を抱えているのは主人公一人ではなかった、そしてその秘密を共有できた時の喜びと信頼感を感じながら読むことができました。 「秘密と恐れを越えた先に、未来の可能性がゆっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ