第三十四話
※執筆にAIツールを使用しています。
※カクヨム様にも投稿しました。
第三十四話
北の森にも、ようやく春の息吹が本格的に訪れていた。
厳しく長い冬の帳が、ゆっくりと引き剥がされていくように、森の景色は穏やかに、けれど確実に変化を見せ始めている。
木々の間から差し込む光は、どこか柔らかく、あたたかい。
それはまるで、寒さに縮こまっていた命たちをそっと起こす、春の女神のまなざしのようだった。
微かにきらめく日差しが、枝葉の間を縫うようにして差し込み、
地面に積もった雪の表面に、静かに触れては音もなく溶かしていく。
葉の先から滴り落ちる雫は、光を反射して宝石のように輝きながら、ゆっくりと土へ吸い込まれていった。
まだ深い木陰には、名残惜しそうに白い雪がその姿を残していたが、
陽の光がたっぷりと降り注ぐ斜面では、黒褐色の土がところどころ顔を覗かせている。
その土の割れ目から、小さくも力強い芽吹きが、まるで春を迎えることを心待ちにしていたかのように、地上へと頭をもたげていた。
凍てついていた空気も、いまはほんのりとぬくもりを帯びている。
かわりに森の中に漂うのは、湿った土の匂いと、ほろ苦く瑞々しい若葉の香り。
鼻先をくすぐるそれらの香りは、確かな命の鼓動を感じさせ、俺の胸の奥にじんわりと広がっていった。
鳥たちのさえずりも、どこか浮き立つように弾んで聞こえる。
枝の上では小鳥たちが飛び跳ね、互いに囀り合いながら、春の訪れを喜び合っているかのようだった。
森全体が、新たな季節の始まりを歓迎し、眠っていた命を再び輝かせようと、静かに、しかし確かに息づいていた。
傷の回復を待つ間に依頼していた防具が、ついに完成したらしい。
ドリュアから届いたという知らせを受け、俺は胸を躍らせながら彼の元へと急いだ。
どんな仕上がりになっているのか、一刻も早くこの目で確認したかった。
ドリュアの前に置かれていたのは、まさしく俺のイメージ通りのものだった。
それは、左肩を重点的に覆うマントのような作りになっている。
まさに――マント風ショルダーアーマーだ。
俺の目の前にある防具は、機能性と美学――その両方を、見事なまでに両立させていた。
一瞥しただけで、それがただの道具ではないことが分かる。
そこに宿っているのは、明確な設計思想と、精緻な技術、そして職人の魂だ。
防御力だけをひたすら追い求めた重厚な鎧でもなく、
見た目だけの装飾を施した虚飾の品でもない。
これは、俺のために作られた――
俺という存在を理解したうえで、生まれた特注品だ。
その構造は極めて合理的で、不要な装飾や重量物は徹底的に削ぎ落とされている。
特に肩周りの設計には、職人の並々ならぬ配慮が感じられた。
左肩を重点的に保護しながらも、
首元から背中にかけてゆったりと流れるラインは、俺の敏捷な動きを一切邪魔しない。
色は、闇を切り裂くような――そう、白。
それはまさにこの森の頂点に立つ者――
森の王者の風格を体現する狼王に相応しいマントだと、直感した。
素材はあのホーンラビットの革。
丹念に血抜きされ、洗浄されたその表面は、純白とはいかないが、くすんだ白で、これがある意味、歴戦の風格を漂わせ、渋い。
あの激戦を物語るかのような色合いが、俺の誇りを刺激する。
革は分厚く3枚重ねにしているのに、それほど重くなく、体に吸い付くようだ。
左肩に重心が寄っているものの、それも想定の範囲内。俺の敏捷な動きに支障は無い。
あのときの激戦――ホーンラビットとの命懸けの死闘。
その末に得た勝利と誇りが、この防具には確かに刻まれている。
俺の無謀とも思える要望を、ここまで完璧に再現してくれた精霊の技量には、ただただ脱帽するほかない。
心からの感謝をこめて、俺はひとつ深く頭を下げた。
新しい防具の感触を確かめながら、俺はユユのいる場所へと向かった。
早くこの姿を彼女に見せ、感想を聞きたかった。
きっと、目を輝かせてくれるに違いない。
俺が近づくと、ユユはすぐに俺の変貌に気づいた。
彼女の瞳は驚きに大きく見開かれた。
そして、次の行動は俺の予想を遥かに超えていた。
「ちぇりおー!」
という、力強い掛け声が響くと同時に、ホーンラビットの角をもって突撃してくる。
その速さと勢いは、以前戦ったホーンラビットを彷彿とさせる。
――お前は奇策士か! と心の中でつっこみつつ、ユユの攻撃を回避する。
「ワンワンガオン(ユユ!危ないでしょ!)」
『ユユにじまんしにきたな!』
「ガウゥン(いや、かっこいいでしょ……、てか、突然襲わないで!)」
『やっぱり! みせびらかしにきたな!』
「ガウガウ(ユユももう少し大きくなったら、ヨロイ作ろうな!)」
『うー、 じゃ、それまではモコオがユユのタテだな!』
「ワンワオン(もちろん、ユユの事は守るけど、守るけれども! 俺、盾扱いなのはちょっとひどくない?)」
だが、ユユの突然の攻撃は、俺にとってむしろ歓迎すべきものだった。
このマント風ショルダーアーマーの真の価値を知るため、俺は彼女に協力を求めた。
「ガウワオン(ユユ、その角で俺の防具を思い切り叩いてみてくれ)」
俺の言葉に、ユユは瞳を輝かせ、まるで本物の戦士のように頷いた。
『まかせろ! てりゃー!』
気合のこもった声と共に、ホーンラビットの角が、俺の左肩に装備されたマント風ショルダーアーマーに叩きつけられる。
バコン!
しかし、体に伝わる衝撃は驚くほど少ない。
まるで分厚いクッションに包まれたようだ。
衝撃をほぼ吸収してくれるのか、思った以上に痛くない。
その防御力に、俺は目を見張った。
「ガウガウ(次は、鋭く突いてみてくれ)」
俺がさらに指示を出すと、ユユは一切躊躇なく、再び攻撃を仕掛けてきた。
『よしっ! そいっ!』
狙い澄まされた鋭い突きが、防具の表面に命中する。
ドッス!
だが、ユユの力強い角の先端が防具の表面を滑り、突きの力をそらしてくれて、これも痛くない。
素晴らしい! いいぞ! 予想以上にいい仕上がりだ。
この最高の防具を作ってくれた精霊さんたちに、心からありがとうと伝えたい。
ユユとの防具の性能確認に夢中になっていると、不意にドリュアの冷徹な声が響き渡った。
「ファイアボール!」
次の瞬間、熱を帯びた炎の塊が、真っ直ぐに俺目掛けて飛来する。
まさか、ドリュアが何の警告もなしに、突然魔法を撃ってきやがった!
俺は咄嗟に、新しい防具を装備した左肩を盾にするように構えた。
ボシュ!
耳元で爆ぜるような音が響いたかと思うと、ファイアボールは防具の表面に触れた途端、まるで泡のように弾け、跡形もなく消え去った。
なんと、魔法攻撃を完全に無効化し、撃ち消したのだ。
信じられない光景に、俺は呆然とした。
ドリュアは一切表情を変えず、淡々と告げる。
『その防具には魔法耐性の機能も付加してあるのですよ』
「ワンガオン(それ先に教えてよ! イキナリ魔法で攻撃は怖すぎるよ!)」
俺は抗議の念話を送るが、ドリュアの表情は変わらない。
『初級魔法程度であれば問題なく防いでくれるはずです』
とんでもない機能だ!
俺の防具は、物理攻撃だけでなく魔法攻撃まで防げるのか。
しかし、これに奢るつもりはない。
油断せず対処できるように修行していこう。
この想像以上の性能を持つ防具を創り出してくれた精霊たちには、ただただ感謝だ。
本当にありがとう!
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。
ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。
今話で年内最後とさせていただきます為、年末の御挨拶にとあとがきを書いております。
皆さまには帰省される方、ご自宅でのんびりされる方、そしてお仕事をされる方と様々な年末とは存じますが、お風邪など召されませんよう、充実した新年をお迎えください。
それでは来年も、引き続きお付き合いの程何卒よろしくお願い申し上げます。
よいお年を!




