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第三十三話 

※執筆にAIツールを使用しています。


※カクヨム様にも投稿しました。

 傷を負った左耳は、日ごとにゆっくりと回復していった。

 ユユとドリュアの献身的な手当ては、どんな薬よりも効果があるように感じられる。

 毎日欠かさず塗られる薬草の香り、ひんやりとした感触、そして小さな手が触れるたびに、俺の中の緊張が少しずつ溶けていくのを感じていた。

 痛みも、もう以前ほど鋭くはない。肉も盛り上がってきている。

 けれど、その耳には、確かに形の変化が残っていた。

 ドリュアの診断通り、耳が一部欠け、かつての完全な形ではなくなっている。

 それでも、俺はそれを恥じてはいなかった。

 あのホーンラビットの突進から命を拾えたという事実は、この小さな欠損を、誇るべきものに変えてくれる。

 名誉の負傷――そう思えば、胸を張って生きていける気がした。

 とはいえ、傷の完治までは時間が必要で、ドリュアからはきっぱりと激しい運動を禁じられていた。

 じっとしているのは性に合わないが、ここで無理をすれば台無しだ。

 この強制的な休養期間を、俺は別の形で活用することにした。

 ドリュアの厳しい指導のもと、読み書きの基本を必死に覚えていく。知らない言語は難解だが、一度コツを掴むと面白くもある。

 ……俺の肉球では文字を書くことは出来ないが、話を聞き、読むことを覚える事は無駄にはならないはずだ。

 そして、もう一つ。

 俺の強みであるが、弱点でもある嗅覚を徹底的に鍛え直すために、文字通り、鼻がもげそうなほどの悪臭を放つ自家製シュールストレミングを使った、嗅覚耐性強化だった。

 あまりの臭いに意識が飛びそうになることもあったが、これを乗り越えれば、嗅覚の弱点を克服できるはず。

 全ては、次に訪れるであろう危機に備えるためだった。

 今日は、今後の戦いで、自分の身を守るための――そして、あの日の傷のような後悔を繰り返さないための――新たな防具を作る、その第一歩を踏み出す日。

 そのための準備は、思った以上に地道で、骨の折れる作業だった。まず取りかかるのは、素材となるホーンラビットの革の処理。

  人間のように器用な手を持たない俺にとって、この分厚い革を均一に伸ばしたり、隅々まで広げたりする作業は、まさに肉体労働そのものだった。

 頼りない肉球では、なかなか思うようにいかず、内心で歯がゆい思いをする。

 そこで、俺は迷うことなくユユに助けを求めた。

 俺の意図を察した彼女は、元気いっぱいの「うん!」という朗らかな返事とともに、嬉しそうに駆け寄ってきてくれた。

 その純粋な笑顔が、俺の心を明るくする。

 ユユの腕には、いつものようにスツコが「カー」と一声鳴いて飛んでくる。

 三人揃っての作業開始だ。

 愛らしい二人の存在が、俺の心に温かな光を灯す。

 ユユの純粋な笑顔と、スツコの力強い眼差し。

 その光景は、俺の不器用さなど霞んでしまうほど、眩しかった。

 そして、その眩しい笑顔を見るたびに、俺の心にも新たな活力が漲り、自然と気合いが入るのを感じる。

 さあ、作業を始めよう。

 ホーンラビットの革の処理には、想像以上の力が必要な場面が多い。

 特に乾いた革を均一に伸ばす作業や、広げた革をしっかり固定する工程は、見た目以上に力が要る。

 そこで俺たちは、これまでの戦いや日常を通して培ってきた信頼に基づき、ユユに俺の身体強化能力を共有することにした。

 ユユの体に力が流れ込む感覚――それは、俺自身にも伝わってくる。

 小さな彼女の腕が、ぐっと革を引き伸ばすたびに、まるで自分が動いているかのような錯覚を覚えるほど、俺たちの動きは自然に連動していた。

 ユユもまた、何度かの成功体験を通して、自分の力に対する自信と誇りを持ち始めていたようで、「よいしょっ」と声を上げながら懸命に作業をこなしていく。

 その姿は、かつて俺が初めてこの世界に来た頃の彼女からは想像もできないほど、たくましく、頼もしい。

 もちろん、すべてを俺の能力だけでこなせるわけではない。

 細かな手作業、特に道具を使った削りや裁断、汚れの洗浄などは、俺の肉球では無理がある。

 むしろ俺にできることといえば、皮を洗う際に踏み踏みするだとか、乾かすときに均等に重し代わりになって体重をかけることぐらいだ。

 だから俺は、少しでもユユの助けになるようにと、黙々と革の上を歩き回った。

 ぐるり、ぐるりと円を描くように。踏むごとに、革がしっとりと沈み、わずかに伸びる。

 それをユユが見て「ありがとうね」と微笑む。その一言だけで、俺のやる気はますます高まる。

 俺が踏み踏み作業をしている隣で、スツコも真似をするように革の上をちょんちょんと歩き回っていた。まるで自分も参加しているつもりらしく、時折ユユに褒めてもらっては得意げに鳴いている。

 言葉を交わさなくても、お互いのやろうとしていることが自然とわかる。

 それは、俺たちがこれまで数えきれないほどの時間をともに過ごし、苦楽を共にしてきたからこそ築かれた、深い信頼の証だ。

 気がつけば、俺とユユの動きは完全に噛み合っていた。

 片方が革を支え、もう片方が押し広げる。

 ふたりでひとつの命のように、呼吸を合わせて作業を進める感覚。

 防具が完成するのは、まだ先のことだ。

 けれど、こうしてひとつずつ準備を重ね、形にしていくその過程こそが、きっと俺たちの力になる。

 これは、ただの装備品じゃない。俺たちの絆が宿る、大切な宝物だ。

 ホーンラビットの革を延ばす作業が佳境に入ったその時、ユユが目を輝かせ、俺に向かって元気いっぱいに念話を送ってきた。

『ユユはカワのばしのサイノウにめざめた。』

「ワウン(え?それはどんな才能?)」

 するとユユは、胸をいっぱいに膨らませ、とてつもない自信をみなぎらせながら、身振り手振りで説明する。

『ユユにまかせれば、どんなカワもピンとどこまでものびてゆく。』

「カーカー」

「ガウガウ(どこまでもは伸びないだろ……)」

 俺は思わず、心の中で苦笑しながらも、ユユの無邪気な自慢話に心が温まる。

 そんな会話をしながら行う作業は楽しく、時を忘れるほど、あっという間に時間が過ぎていった。

 俺たちの絆は、日々のこうした共同作業の中で、着実に深まっていた。

 準備が全て整った完璧なホーンラビットの革を、俺たちはドリュアへと手渡した。

 彼は革の表面をなぞるように触れ、その仕上がりを静かに確認する。

 彼の表情からは、納得の色が読み取れた。

 俺たちの役割はここで一旦終了だ。

 いよいよ、形にする段階へと進む。

 ドリュアの知り合いの、物作り好き精霊へと俺の防具の仕上げを頼むのだった。

 精霊の技術とドリュアの知恵が合わされば、きっと俺の想像を上回る防具が完成するだろう。

 完成の日が待ち遠しかった。


読んでいただきありがとうございました。


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