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第三十一話 

※執筆にAIツールを使用しています。


※カクヨム様にも投稿しました。

 大樹の寝床への道は、想像よりも長く感じられた。

 まだ距離がある。

 早く、早くたどり着かなければ、という焦燥感が募る。

 そして、目の前に広がる光景に、俺の心はさらに沈んだ。

 この先は、身を隠す木々が途切れて、開けた場所が続いているのだ。

 これではホーンラビットの突進が、より効果的になるのは火を見るよりも明らかだった。

 体力とスタミナにはまだ余裕がある。

 これだけは唯一の救いだった。

 しかし、左耳からの出血がひどくなっている。

 脈打つたびに、熱い血が頬を伝い、視界の端を赤く染める。

 このままでは、血の匂いでさらなる魔獣を引き寄せる可能性もある。

 開けた場所に出るのは俺には不利だ。

 ホーンラビットの強力な突進の前では、林の保護がないのは致命的だ。

 かといって、このまま林の中で迎え撃つべきか?

 残り二匹とはいえ、彼らの連携は厄介だ。

 どうする、どうすれば……。

 そんな俺が、わずかに判断に迷ったとき。

 ふと、視界の端に、空から林の枝へと、するりと滑り込むような黒い影が目に入った。

 ――あれは、カラス……スツコか?

 驚きと、ほんのわずかな安堵が入り混じる。

 スツコがいる。

 ならば、きっとドリュアも近くまで来てくれているに違いない。

 その希望の糸を掴み、俺は決意を新たにする。

 この苦しい状況を乗り越えるため、まずはこの林の中で時間を稼ぐしかない。

 彼の助けが来るまで、俺は絶対に倒れるわけにはいかない。

 俺は木の影を縫うように、寸秒も立ち止まらずに駆け巡る。

 奴らの直線的な突進を封じるように、複雑に絡み合う木々の地形を最大限に活用した。

 左耳からは相変わらず血が流れ、焼けるような痛みに耐えながら、体を動かし続ける。

 一歩踏み出すたびに、ズキズキと傷口が主張するが、それに構う余裕はなかった。

 身体能力強化をフルに使い、獣じみた反射神経で奴らの追撃をかわす。

 時には、わざとホーンラビットの懐に飛び込み、回避の能力を生かして紙一重でかわすことで、奴らを翻弄し、時間を稼ぐ。

 俺はただ生き残るためだけに、あえて攻撃は考えずに、回避と逃走にのみ能力をフルに使い続ける。

 ドリュアが来る、その瞬間まで、俺は決して止まらない。

 俺は林の中を走り続けた。

 そして、木の周りをグルグルグルグル回り続けているうちに、俺の思考回路はどこか麻痺していた。

 あーホーンラビットが溶けてバターになってくれたら良いのになぁ、と、まるで他人事のようにのんきなことを考えるぐらいには余裕があるとさえ錯覚する。

 しかし、左耳の痛みが相変わらず、現実の冷酷さを突きつけてくる。

 そうしているうちに、不意を突かれ、前後から挟み撃ちにされた。

 だが、もはや焦りはない。

 俺は冷静に、あえて前からくるホーンラビットの懐に飛び込み、回避をする。

 まるで予見していたかのような動きで、回避は華麗に成功した。

 しかし、その勝利は苦いものだった。

 その激しい体の動きが災いしたのか、左耳の傷から噴き出した血が、俺の左目に入ってしまう。

 ――くそ!やばい!左の視界がふさがった!!

 一瞬にして、世界の半分が赤く染まった。

 片目の視界が奪われ、平衡感覚が狂いそうになる。

 俺は素早く体勢を立て直し、出来るだけ奴らから距離を取り、右目だけで二匹をとらえる。

 この不利な状況で、無謀な行動はできない。

 これからは距離を取りながら逃げないと、万が一があるかもしれない。

 少しでも判断を誤れば、全てが終わる。

 俺の動きがわずかに鈍ったその隙を逃さず、飢えた獣のようにホーンラビット二匹が一気に突進してきた。

 その突進が、俺の心臓を締め付けた。

 ――くそ、左手側に避け続けて、右目で奴らを捉え続けるしかない……!

 血が流れ込む左目を瞑り、右目だけで状況を把握しながら、俺が左へ飛び出したその時だった。

 頭上から降ってきたのは、聞き慣れた、しかし今は何よりも心強い声。

「ダークバインド!」

 その声に応えるように、林の影そのものから生えたかのように、漆黒のツタがホーンラビット二匹の足元を絡めとった。

 陰でできた黒いツタのようなものが奴らの足を拘束した瞬間、奴らの突進は無様に崩れ落ちる。

「ガウガウ!(ドリュア!助かった!)」

 安堵と興奮が同時に押し寄せる。

 彼は来てくれた!

『油断はしないでください。一匹は任せますよ。』

 ドリュアの落ち着いた声に、俺の戦闘本能が再び燃え上がる。

 ドリュアの声を聴き、すぐに俺は攻撃に転じる。

 この絶好の機会を逃すものか。

 俺は左手側で身動きが取れない一匹に狙いを定め、渾身の力を込めて飛び掛かり、

 鋭い爪をきかせた肉球パンチをお見舞いする。

「ガウガウアオォォォォン!(ミラクルスペシャルウルトラスーパーメガトン肉球パンチ!)」

 俺の雄叫びが林に響き渡る中、ドリュアの放つ魔法が右手側のホーンラビットを襲う。

「アイスボール」

 ドコドコドコ!

 轟音と共に三つの氷塊が連続で命中し、ホーンラビットは絶命した。

 あれだけ手こずっていた強敵が、嘘の様に一気に戦闘が終わってしまった。

 ドリュアの正確な支援が、俺の命を救い、勝利をもたらしたのだ。

 疲労困憊の俺の脳裏に、まず届いたのはユユの声だった。

『モコオ、いたくない? だいじょうぶ』

  俺がホーンラビットとの激戦を終え、ようやく一息ついたその時、

 すぐ近くの木陰から、小さな影が飛び出してきた。

 不安と心配に満ちた表情で俺に駆け寄りながら、念話で話しかけてきたのだ。

 その細い体が、かすかに震えているのが見て取れた。

 彼女の念話は、戦いの緊張から解き放たれた俺の心に、じんわりと温かさを広げた。

 それは、単なる言葉以上の、確かな力を持っていた。

 すぐに、ドリュアが傍に寄り、その静かな声が響く。

『傷口を洗浄しましょう』

 透明な水が俺の左耳を洗い流す。

 彼の水魔法は、ただの洗浄ではなく、心まで清めるかのような優しさがあった。

 だが、それによって、裂けた傷口の形状がはっきりと見て取れる。

『この傷は…薬草を使い傷口はふさがりますが、裂けた部分が大きいので…元には戻らないと思われます。』

 ドリュアの冷静な診断は、残酷なほど現実を突きつける。

 その言葉は、俺の心に痛く響く。

 この傷は、戦いの証として、ずっと残るのだろう。

「アォン…(そうか…ま、死なずに済んだし良しとするよ)」

 俺は、受け入れるように頷いた。

 完璧な体ではなくとも、俺は生きている。

 仲間が、俺を助けてくれた。

 その事実だけで、十分すぎるほどの価値があった。

 ホーンラビットの残骸が散らばる森の中、一筋の風と共に、漆黒の鳥が舞い降りた。

 スツコだ。

 彼女は迷うことなくユユの開かれた腕の中に舞い降りると、その小さな頭をすり寄せる。

「カーカー」

 スツコは、俺の傷を心配するように、小さく、しかし明確に鳴き声を上げた。

 その様子に、俺は少しばかりの照れ臭さを感じる。

「ワンワオン(そういえば、ドリュア達良くここが分かったな)」

 俺が素直な疑問を口にすると、ユユは誇らしげに胸を張って、澄んだ声で念話を返してきた。

『スツコがみつけてくれた! んでユユがここまできた!』

「ワン?(スツコが見つけたは分かるけど、ユユが来た?)」

 ドリュアが横から静かに、だが明瞭に説明してくれた。

『ユユの感覚共有能力でスツコの視覚情報が共有できたのですよ。

 しかも、テイムされているスツコからの情報のせいかユユの体への負担も少ないようです。

 これでユユは上空からの俯瞰的視覚情報も利用できるようになりました。』

 ――ユユ恐ろしい子!

 素直な驚嘆の声が漏れた。

 これはとんでもないことになった。

 彼女の能力は、まさに天井知らずだ。

 ますますチート能力に磨きがかかるじゃないか!

 俺の索敵など、もはや必要なくなるのではないかというほどの進化だ。

 俺の索敵ポジションもモブキャラ感に磨きがかかりそう!

 俺は、複雑な思いでユユを見つめた。

 ――でも、みんなに会えたことは素直にうれしい

 激しい戦いを乗り越え、傷つきながらも生き延びた俺の心に、温かい光が差し込む。

 それは、ユユとドリュア、スツコといった、大切な仲間たちの存在だった。

 彼らが俺の元へ駆けつけてくれたこと、それが何よりも俺を奮い立たせた。

 どんな苦境も、一人ではないからこそ乗り越えられるのだと、改めて実感する。

「ガウ、ワオォン(さあ、俺たちの大樹の寝床へ帰ろう)」

 俺は、痛みと疲労を抱えながらも、希望に満ちた声で仲間たちを促した。

 彼らと一緒ならば、どんな困難な道も、決して怖くはない。

 安らぎと成長の場所である大樹の寝床へ。

 俺たちは、共に森の道を歩み始めた。

読んでいただきありがとうございました。


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