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第三話

※執筆にAIツールを使用しています。

※カクヨム様にも投稿しました。

 厚い雲が空を覆う、冬の始まりのひんやりした日。

 森はしんとした白に包まれ、降り積もる雪がまだ始まったばかりの季節の気配を運んでくる。

 そんな雪の絨毯の上を、たった一匹のモフモフが、痛みをこらえながらもゆっくりと歩き出す。


 肩の傷はまだ残っている。

 ちょっと痛むけれど、命が無事だったんだからそれで十分だ。

 この冬の始まりに元気でいられることに感謝していた。

 これからのことを考えながら、俺は白い景色の中を歩き続ける。


――まずは寝床。

 それから食べ物と水。

 この森で生きていくには、その三つがどうしても必要だ。

 思考を切り替える。

 冷静に、合理的に、生存戦略を組み立てるんだ。


 ああ痛てぇ……歩いてるだけで肩に鈍い痛みを感じる……

 回復スキルなんて当然ながら持ってない。

 頼れるのはモフモフボディと、日本人的危機意識だけ。


「ワフー……」


……はぁ、文明って偉大……

 しかし嘆いてばかりもいられない。

 今は目の前の生存を優先するんだ。


 しばらくゆっくり歩いて、雪の積もり具合や地形を観察する。

 ふと気配を感じて木の影に身を潜める――いや、正確には本能でそうした。


「……スゥゥ……クンクン……」


 風下から流れてきた匂いは、明らかに獣のそれだった。

 獣の体臭と血の混ざった生臭い匂い。

 しかも湿ってる。

 今、狩りを終えたばかりか?


 この鼻、やっぱおかしい。

 いやすごい。

 雪の湿度や空気の流れまで、匂いからわかる気がする。

 しかも戦闘の時も――


……そうだ、思い出そう。

 あのコブウサギとの戦い。

 反射的に避け、反射的に攻撃し、反射的に逃げ道を計算してた。

 体が勝手に“最適行動”を選んでいたような……


「……ガウゥ……」


……いぬぅ…、いやいや、狼として最適化されすぎてないか……?

 まさかとは思うが――これ何か“補助”されてる?

 この身体、明らかにただの子犬、いや子狼じゃない。

 動体視力と反射速度、完全に人間離れ、いや子狼離れしてる。


 でも、よくある“身体強化【小】”とか“野生の勘”みたいな表示も見えない。

 ゲームっぽくも、システムめいてもいない。

 完全に“感覚”だけで動いてる。


 試しに“ステータスオープン”と言ったつもりが、


「ガウーガゥワーフン」


 としか発声できなかった時は、森の静けさがこのもふもふボディを凍らせるほどの、暴力的な静寂が襲い掛かってきた。

 もちろんステータスなんてゲームチックなものはない。


……俺はもしかして――そういう“種族”なのか?

 異常な嗅覚、鋭い反射。

 そして何より、このモフモフボディの耐寒性。


「……クゥン……?(オレ何なんだ……?)」


 不安がなかったわけじゃない。

 正体不明の能力に、いつか何か代償がくるんじゃないかとか。

 でも――


 この雪の中を肉球ひとつで走りきれる強さ。

 小さな体なのにどこにも寒さが染みない。

 鼻が空気の変化を語ってくれる。


「……ガウ、ワフッ(やれる。オレやれるぞ)」


 未知は不安だ。

 でもこれだけの力があるならやっていける。

 生き抜ける。

 そして何より――


「ワンッ! ワンワンワンッ!(この体なんか……すっっっっげぇ楽しい!!!)」


 テンションが――上がる。

 いやちょっと待て。

 冷静に、冷静に……!

 でもでもでもでも!


 目の前に広がる白銀の世界、もふもふの四肢、雪の感触、木漏れ日のきらめき――

 気がつけば前足が動いていた。


「ワフゥウウウウゥーーーン!!!」


 叫びながら跳ねる。

 転がる。

 雪を蹴り上げ鼻先に飛ばす!


「ワッフ! ワフッ! キャオーン!」


 バフン! バフンッ!

 雪に体当たりして全身で雪を浴びる!

 転げまわりながら雪玉を作ってみたり、木の根元に顔を突っ込んでみたり、鼻先で雪をかき混ぜてみたり。

 気が付けば小さな斜面をスライディングで滑り降り――


「ワフゥーーッ! アオォォ-ンーーー!!」


 ふもとで雪玉に突っ込んで転がる。

 しばらく雪の上でヘソ天して、仰向けになったまま空を見上げた。


「……ワフ(……何やってんだ俺……)」


 はぁ、と小さくため息。

 さっきまで生死をかけて戦ってたってのに……

 どうしてこうテンションにブレーキが効かないんだ。

 絶対このモフモフボディの好奇心に抗えない時がある……


――でもたぶん、こうしてでもしないと、やってられなかったんだろう。

 言葉も喋れない。

 寒い、怖い、わからないことだらけ。

 それでも“生きてる”ことが、今はちょっとだけ楽しかった。


 小さく震えるように一声だけ鳴いて――立ち上がる。

 ちょっと遊んで気もまぎれた。

 再び探索に戻ろう。


 雪の上を歩く。

 耳を澄ませ、鼻で探り、目で確認する。

 そんな中――ふと風が変わった。


 ぴたりと立ち止まり、風上に顔を向ける。


「……スゥゥ……クンクン……」


 水の匂い――雪じゃない。

 もっと流動的で、冷たくて透き通った匂い。

 その方向に歩いてみると、傾斜が徐々に下がっていく。

 踏み固められていない雪は足に重いけれど、四足の安定感で問題なく進める。


 木々の隙間から、ちらちらと日が差すその先に――あった。

 岩場の間を流れる沢。

 その脇には雪が少なく地面が覗いている。

 木の根元の洞に雪の吹き溜まりと、窪みがあり風も当たりにくそうだ。


 これは……使える!

 水源周辺に他の生物の痕跡がないことを確認した。

 沢水は冷たいが透明で、少し匂いをかいでみても問題なし。

 舐めてみると日本で飲んでいた、量販店の安物ミネラルウォーターと変わらない――

 いや、これお高めのミネラルウォーターに、匹敵するといっても過言じゃない気が――

 いや、ミネラルウォーターの味の違いなんて判らんけど……


 だが水、確保。


「ガフッ、ガフッ!」


 目覚めて以降、まともに取っていなかった水分、しみる。

 喉の渇きだけでなく心にもしみてくる――

 ……このまま水が見つからなかったらどうなっていたか――


 戦闘し、無駄に雪遊びした後の、心も体も癒してくれる沢水を感謝の念を込めながら見つめていると――――そこには……

 水面に揺れるモフモフの影。


「……ワフ?」


 おそるおそる顔を近づけてみる。

 水がきらめき、小さな波が鏡面を揺らす。

 だがその下にたしかに映っていたのは――

 まんまるな顔につぶらな瞳。

 真っ白とほのかに灰色がかった毛――

 ホワイト&ライトグレーのツートンカラーでふかふかの毛並み。

 鼻は黒くてツヤツヤ。

 耳はふさふさで三角で垂れている。


 全体的にずんぐりむっくりで、まさに“もち”感と“わたあめ”を足して二で割ったような、ぬいぐるみ然としたフォルム。


――なんだこの、生きて動いてるもふもふ兵器。


「……ワフゥ……(かわぃ……)」


 いやこれちょっと待て。

 これオレ?

 水面のモフが顔を動かすたびに、まったく同じように首をかしげる。


「……ワフン」


 しっぽを軽く振ってみたら、ぴこぴこぴこぴこ揺れた。

 ……ま、まさか俺の正体がここまで“ぬいぐるみ属性”とは……

 この見た目で“生存戦略”とか“合理的判断”とか言ってたのか俺……!


 見た目のギャップに思わずぐったりへたりこむ、もふわふわの前足に顔をうずめてごまかす。

 ……いや、うすうす感じてはいたんだ、このもこもこで短い手足に桃色の肉球……でも……

 ……これは思った以上の激かわ子犬、そう、“アラスカンマラミュート”

 紛うことなき“子アラスカンマラミュート”……


「ワフ、ガウガウ! ワフ、ワフワフ!!(いや俺は狼! 狼――そう、“誇り高き山の狩人”の血を引くはず!!)」


 もふもふで短い前足を、水面に叩きつける子アラスカンマラミュート。

 水面に映る、子アラスカンマラミュートをやっつけているうちに、テンションが上がり楽しくなってきて、我を忘れて一人でばしゃばしゃころころ。

 傍から見れば、水面に映った自分と一生懸命遊んでいるようにしか見えない。


「ワフゥ……ワフゥゥゥゥ……(今日はこの辺にしてやるか……)」


 ……思った以上に、かわいい子アラスカンマラミュートっぷりに動揺してしまった。

 外見に関しては、今後の成長、そしてこの世界の不思議パワーによるクラスチェンジとか、なんかファンタジーパワーを期待しよう。

 ……そんなもんがあるかは知らんけど……――


 ……今日はもう寝よう……

 木の根元のくぼみだが、ひとつだけ安心できる場所ができた。

 もふもふの子犬がそこに丸くなって目を閉じる。


 夜はたぶん長い。

 でも今は少しだけ眠ってもいいよな。


「……ワフゥ……」


 ……はらへったなぁ……

 ……ダイエットすれば、かっこいいフォルムになれるかなぁ……

 ……モ〇の君さま―…生きる――俺は狼として生きていきます……

 ………モ〇の君さま―、ん、あれ? いや犬神だった……?

 …………狼じゃないんか……――


 やがて雪の森に、小さな寝息が静かに響いた。

読んでいただきありがとうございました。

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