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第二十七話

※執筆にAIツールを使用しています。


※カクヨム様にも投稿しました。

「アオンッ!(きた!はやい!!)」

 次の瞬間、まるでどこぞの調査兵団のような立体機動で、そいつが迫ってくる。

 木々の隙間を、信じられないほどの速さで移動してくるそいつの姿は、まるで疾走する幻影のようだ。

 その影に、ドリュアが素早く反応した。

「アイスボール!」

 魔法が炸裂し、わずかに魔物の動きが鈍る。

 その瞬間、俺の視界に奴の全身が飛び込んできた。

――蜘蛛だ!

 ドリュアの声が、頭に直接響く。

『スノーフォレストスパイダーです!その糸は粘着性が強く、噛みつかれれば毒に侵されます。細心の注意を払ってください!』

 毒か! 嫌な予感がする。

 だが、躊躇している暇はない。

 俺は肉体強化によって得た強靭な脚力で、雪を蹴り上げ、躊躇なく蜘蛛へと飛びかかる!

 その小さな体からは想像もつかないほどの勢いで、研ぎ澄まされた爪を叩き込んだが、蜘蛛はすぐに反応し、白い糸を吐きながら巧みに別の木へと逃げた。

 あの糸が厄介だ。

『糸は燃える性質があります。わたくしが魔法で足止めをします!』

 ドリュアの念話と共に、灼熱の炎が舞う。

 ファイアボールが連続で放たれ、蜘蛛を怯ませる。

 ドリュアの絶え間ないファイアボールの攻撃が、スノーフォレストスパイダーの注意を引きつける。

 奴が魔法を避けるために一瞬の硬直を見せたその時、俺は迷わず動いた。

 強化された体で地面を強く蹴り、再び高く跳躍する。

 蜘蛛の左前足に、研ぎ澄まされた爪を叩き込んだ!

 ズバァッ!

 鋭い音と共に、確かな手応えが伝わる。

 蜘蛛の足が、無情にも一本切り離された!

 雪の上に転がる足は、もはや命の宿らない、ただの肉塊だ。

「ジュギャ!」

 スノーフォレストスパイダーは、苦悶の叫びを上げながら、それでも猛烈な勢いでこちらに牙を剥いてきた。

 その牙には、明らかに危険な毒液が滲んでいる。

「ガウ!(毒を食らうわけにはいかねぇ!)」

 あの毒を食らえば、ただでは済まない。

 子犬の体を最大限に活かし、素早いバックステップで攻撃範囲から離脱する。

 蜘蛛の牙は、僅かな空気の残像を切り裂いただけだった。

 噛みつきは失敗したが、一本足を失ってもなお、その機動力は健在だ。

 素早く糸を吐いて別の木へ移動すると、間髪入れずに狙いを定め、俺めがけて粘着性の糸を吐き出した。

 俺は感覚を研ぎ澄ませ、大きく回避する。

 直後、ユユの切羽詰まった念話が脳内に響いた。

『またいとがくるよ!』

 その言葉に即座に反応し、さらなる回避行動を取る。

 俺がさっきまでいた場所に、蜘蛛の尻から吐かれた糸がベタリと着弾した。

 口だけじゃなく、尻からもか!

「ワオン!(ユユ!助かった!ドリュア!火の魔法で糸を出来るだけ迎撃してくれ!)」

 ドリュアは呆れたような口調で、しかし頼もしい返事をよこす。

『全く、指示が多いですね。ですが、ユユの安全が最優先。その上で、最大限の支援は行いましょう。』

「アオーン!(それでいい!頼んだぞ、ドリュア!)」

 俺は、改めて目の前の強敵に神経を集中させた。

 雪に覆われた森の生木は、ドリュアのファイアボールを受けても燃え続けることはない。

 しかし、スノーフォレストスパイダーが、その炎を明確に嫌がっているのは確かだった。

 その動きには、苛立ちと、わずかな動揺が見て取れる。

『これでも食らいなさい!』

 ドリュアの念話と共に、炎の弾丸が蜘蛛めがけて連続で放たれる。

 奴は魔法を避けるのに精一杯で、地面を這う俺の存在を、完全に軽視しているようだ。

――ここだ!

 俺は、身体能力強化で増した脚力で雪を蹴り、木々の幹や枝を足場に、

 まるで軽業師のように連続でジャンプした。

 一気に蜘蛛の背後へ回り込み、間髪入れずに右後ろ脚へ自慢の爪を叩き込む!

メリッ!

 爪が食い込む感触。蜘蛛の足が一本、吹き飛んだ。

――残り足は6本。

――とはいえ、まだ6本も足がある。

 それに、粘着性の糸を巧みに使い移動するため、

 その動きは依然として素早い。

 それでも、最初の猛スピードに比べれば、明らかに動きの切れはなくなっている。

 バランスを崩した蜘蛛に、ドリュアの援護射撃が炸裂する。

 絶妙なタイミングで放たれたファイアボールが、奴の右前足に直撃し、

 見る見るうちに焼け焦げていく。

「ギュギャギャ!」

 断末魔にも似た叫び。

 これで残り足は5本。

――チャンスだ! 一気に決めろ!

 逸る気持ちが、俺の思考を焦らせた。

 勝負を急ぎ過ぎてしまったんだ。

 直線的に、単調な動きで、無防備に飛び込んでしまった。

『だめ、にげて!』

 ユユの悲鳴にも似た、切迫した念話が脳内に響き渡る。

 その声に、間一髪で踏みとどまることができた。

 だが、それと同時に、口と尻の両方から、二本の粘着性の糸が俺めがけて飛来する。

 しまった、両方からか!

 その時、巨大な黒い影が、俺の目の前に飛び込んできた。

ドスッ!

 スノーフォレストスパイダーは、吐き出した糸を利用し、

 その黒い塊へと飛びつき、毒牙を突き立てる。

――ああぁ……

 俺の身代わりになるように、あの大きな親カラスが、蜘蛛の牙にその身を晒していた。

 黒い羽根の隙間から、鮮血が滲み出す。

「グルゥゥゥ(離せっ! このクモ野郎!!)」

 怒りが全身を支配する。

 俺は渾身の力を込めて、奴の複眼めがけて爪を叩き込んだ!

グチュッ!

 嫌な音を立てて複眼が潰れる。

 痛みにのたうち回り、カラスを放したスノーフォレストスパイダーは、

 苦痛の叫びを上げながら、後ろへ後ずさる。

『これで終わりです!』

 ドリュアの念話が脳に響くのと同時、

 灼熱のファイアボールが、スノーフォレストスパイダーの残された右足に直撃した。

 ジュウッと肉の焦げる嫌な音と共に、足が焼け落ちる。

 もはや、奴は動けない。完全に、その機動力を失った。

――もう、逃がさない!

 俺は、怒りに突き動かされるまま、地面を力強く蹴り、

 スノーフォレストスパイダーへと突っ込んだ。

 子犬の小さな体で、頭部めがけて渾身の体当たりをぶち込み、

 そのまま牙を剥き出しにして、奴の首の節に容赦なく食らいつく。

ガブッ!

 生々しい感触が、口いっぱいに広がる。

 本来なら、この上ない不快感で、すぐにでも口を離して洗いたくなるはずだ。

 だが、今は一切の生理的な嫌悪感がない。

 頭の中は、カラスを傷つけたことへの純粋な怒りで満たされていた。

 噛みつき攻撃が苦手? そんなことはどうでもいい。

 この場で絶対に息の根を止める。それだけだ。

「ギュァ………」

 スノーフォレストスパイダーの苦しげな声が、弱々しく途切れる。

 その巨体は、微かに痙攣するだけで、やがて完全に動きを止めた。

――終わりだ。

 俺は、渾身の力を込め、前足を大きく振り上げ、

 潰れた頭部へと最後の攻撃を叩き込む!

ブシャアァァァッ!

 鈍い、しかし強烈な音と共に、頭部が完全に破壊される。

 もはや、そこには何の生命反応もない。

 スノーフォレストスパイダーは、雪の上に横たわる、ただの巨大な肉塊と化した。

 俺は、もはや微動だにしない蜘蛛の躯など一顧だにせず、一目散にカラスの下へ駆け寄った。

 脳裏には、カラスが俺を庇った瞬間の光景が焼き付いていた。

「ワンワンアオン!(ドリュア、頼む! カラスを助けてくれ!!)」

 叫ぶ声に、焦りが滲んでいた。

 ユユも、すでに親カラスの傍らにしゃがみ込み、切羽詰まった表情で様子を見つめている。

 その小さな手は、親カラスの傷を少しでも癒やそうと、必死に羽を撫でていた。

 ユユの腕に抱かれた雛カラスも、事態の深刻さを感じ取っているのか、助けを求めるように小さな声で鳴いていた。

「クー……クー……」

 雛カラスの鳴き声が、胸に刺さる。

 かすかに震えながら、ユユの胸元にしがみつく小さな命。

 それを守ろうとする、親の犠牲と痛みに満ちた姿。

 ユユは懸命に語りかける。

「ねぇ、くろいの、げんきだして。ユユが、いっぱいおうえんするよ!」

「くーくー」

「くろちびもいっしょにおうえんするいってる」

「くー」

「くろいのごはんたべるか? どうだ? げんきでるか?」

 異世界語は理解できないが、ユユが親カラスを助けようとしているのは俺にもわかる。

「クゥーン(ドリュア、何とかしてやってくれ…! 頼む……!)」

 俺は、懇願するようにドリュアに念話を送った。

 親カラスの命が、今、俺たちの手にかかっている。

 何としてでも助けたかった。

 その声に応じたドリュアは、無言のまま親カラスに近づいていく。

 いつものような軽口はなく、彼の背筋には、どこか張り詰めた緊張が走っていた。

 ユユがそっと息を呑む気配がした。

 木々の間から差し込む光が、かすかに揺れている。

 まるで森そのものが、この一羽の命の行方を見守っているようだった。

 そのまま、しばらくの間、何も言わず、彼は黙々と傷の状態を探っていた。

 けれど、その顔は次第に険しさを増し、やがて、深い絶望の色を宿していく。

 そして──ついに、念話が届いた。

 『応急処置として傷口を洗うことはできます。しかし、噛まれた傷口から毒が回り、すでに手の施しようがありません。…残念ながら、わたくしには、これを直すことはかないません。』

 ドリュアの言葉が、耳に響きながらも、その意味を理解することを拒んだ。

 その時、親カラスの喉から、絞り出すような、最後の、か細い声が漏れた。

「カァ…」

 それは、どこまでも弱々しく、どこまでも優しく──まるで愛する雛に、最後の言葉を残すかのような音だった。

 ユユの腕の中で、雛カラスがその声に応えるように、ちいさな翼をばたつかせ、必死に鳴いた。

「クークゥ………」

 親カラスは、その愛しい子の声に応えようと、かすかに喉を震わせた。

「ゥ…」

 だが、それは、最早、命の灯火が消えゆく音だった。

 雛カラスは、その最後の音を逃すまいと、ユユの腕の中で小さく藻掻く。

 しかし、親カラスは、その微かな呼吸を最後に、二度と動かなくなった。

 その体から、温かさが、そして生命の証が、急速に失われ、

 その羽根は力を失い、静かに横たわった。

 俺を庇い、その命を散らせた親カラス。

 俺の心が、悔恨と無力感に押し潰されていく。

「アオォォォォーーーーン」

 抑えきれない怒りと、自分自身への不甲斐なさ。

 それら全てを、森中に響き渡る慟哭の雄たけびとしてぶちまけるモコオであった。

 その叫びは、雪の森に吸い込まれていき、

 ただ悲痛な残響だけを残した。



読んでいただきありがとうございました。


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