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第二十六話

※執筆にAIツールを使用しています。


※カクヨム様にも投稿しました。

 北の森は、春になったとはいえ、相変わらず一面の雪景色が広がっていた。

 だが、太陽に近い木の枝の雪はすでに溶け始め、以前よりも多くの日差しが森の奥深くまで届いている。

 日中の温かい陽光が滞っていた血流を促すかのように、心地よかった。

 そんな残雪の森で、俺はささやかな贅沢と、厳しい修練を重ねていた。

 これまでに仕留めたシカやベビーホーンラビットの皮を雪の上に広げ、降り注ぐ日差しを全身で浴びる日向ぼっこは、まさに至福の瞬間だ。

 ユユも一緒になって日向ぼっこしていると、時には小動物たちが遠慮がちに、しかし確実に近づいてくる。

 その度に、俺の心は温かい癒やしに包まれた。

 しかし、俺の時間はそれだけで終わらない。修行は、日々休むことなく続けられている。

 イタチによってもたらされた、あの二度目の嗅覚ブラックアウト。

 あれ以来、俺は真の強さとは、地道な努力の積み重ねにあると悟った。

 嗅覚の弱点を克服するため、匂いのきつい木の実やキノコを血眼になって探したが、春とはいえまだ雪に閉ざされたこの森では、期待するような収穫は得られない。

 そこで、俺はとっておきの秘策を実行に移した。

 川でなんとか捕らえた魚を太陽の熱が当たる場所に放置し、あえて腐らせることで、強力な刺激臭を持つアイテムを生成することに成功したのである。

 かの有名なシュールストレミングの缶詰がどれほどの悪臭を放つのか、俺は知らない。

 だが、この手作りの発酵魚もまた、日を追うごとにその匂いを強烈なものへと変えていく。

 正直、生魚だった頃の面影はどこにもない。

 しかし、動物の排泄物と比べれば、この発酵魚は格段に俺の精神をすり減らすことなく、実用的な嗅覚修行に使える代物だった。

 鼻が麻痺しそうになるほどの刺激臭だが、それでも、直接動物の排泄物を相手にすることと比べれば、まだ耐えられる。

 これは、間違いなく進歩なのだ。

 嗅覚の過酷な修行を進める傍らで、当然のことながら、戦闘系の能力強化も継続して行っていた。

 むしろ、生命を脅かす魔物との遭遇に備え、こちらはより一層の集中を要する。

 現在、俺が最も注力しているのは、爪を使った攻撃の徹底的な強化だ。

 本来、狼であれば噛みつきこそが最大の武器。

 だが、未だ人間の意識が強く残る俺にとって、噛みつくという行為は、生理的な嫌悪感を伴うものだった。

 特に、獲物の生温かい血が口いっぱいに広がる感覚は、どうにも耐え難い。

 そのため、自然と爪での攻撃が、俺の主たる戦い方となっていた。

 獲物の皮を容易く引き裂くほどの切れ味を誇る爪。

 それは、俺がこの世界で生き残るための、頼れる生命線だった。

 今日の日中も、俺はユユとドリュアを伴って、食糧探しと自己鍛錬を兼ねた森の探索活動に勤しんでいた。

 春の陽光が降り注ぎ、雪面がまぶしくきらめく。

「……スゥゥ……クンクン……」

 無意識のうちに、俺の鼻は周囲の匂いを捉え、分析していた。

 獲物の微かな残り香、木々の根から立ち上る生命の匂い、そして、遠くの獣道の痕跡。

 俺の研ぎ澄まされた五感が、森の情報を次々と拾い上げる。

 その中で、俺の意識を強く引きつける、不可解な気配があった。

 それは、明らかに鳥の匂いだ。

 だが、その匂いは、空からではなく、なぜか地面のすぐ上から漂ってきている。

 普段ならば、さえずり声と共に頭上を飛び交う存在。

 それが、なぜ今、地面から匂いを放っているのか?

 この不自然な状況が、俺の好奇心を強く刺激する。

 俺は、その不可解な状況の真相を確かめるべく、慎重に、しかし迷いなく、匂いの元へと足を踏み入れることを決意した。

 もしかしたら、新たな発見があるのかもしれない。

 あるいは、新たな危険が待ち受けているのかもしれないが、この気になるという感覚が、俺を突き動かすのだ。

 研ぎ澄まされた嗅覚が俺を導く。

 匂いのする方へと足を向け、残雪を踏みしめながら進んでいく。

 その奇妙な匂いの源へと、まっすぐに。

 やがて、たどり着いたその場所で、俺たちの目に飛び込んできたのは、あまりにも痛ましい光景だった。

 純白の雪の上に、禍々しい白い糸に雁字搦めにされた、一羽の大きな黒いカラス。

 その足元には、まだ幼く、羽ばたくことも叶わないような小さな雛カラスが、弱々しく震えている。

 親カラスは、自身の自由を奪われながらも、その小さな雛を必死にかばうように、深い雪の上にうずくまっていた。

 その瞳には、敵意ではなく、ただただ守りたいという純粋な親心が宿っており、俺の胸に、形容しがたい感情を呼び起こした。

 その痛ましい光景に、ユユの小さな足が雪を踏みしめる音が高くなった。

「くろいのだいじょぶか?」

 必死な声でそう叫びながら、ユユは白い糸に絡まった黒いカラスへと駆け寄っていく。

 俺にはユユの言葉の意味は分からないけれど、その声に溢れる深い悲しみと、カラス親子を心配する優しい気持ちは、感覚共有を通して、子犬の俺の心にもダイレクトに流れ込んできた。

 胸が締め付けられるような、苦しい感情だ。

 ユユが駆け寄ると、親カラスは「カァ……」と、最後の力を振り絞るように、か細い声で鳴いた。

 その瞳には、絶望と諦めが混じり合っているように見えた。

 ユユは迷わず、まずは震える雛カラスを抱き上げた。

 優しく親カラスに語りかけ、安心させるように撫でると、雛カラスは「くーくー」と小さく鳴きながら、ユユの温かい胸元にぴたりと寄り添い、震えを止めた。

 その光景に、俺の心も少しだけ落ち着いた。

「つぎは、おおきいのをたすけてあげる!」

 ユユの声には、揺るぎない決意と、確かな優しさが宿っていた。

 その表情は幼いながらも真剣で、俺は自然と背筋を伸ばし、同じ方向を見る。

 俺たちは、今はただ、目の前の命を助けることだけに集中していた。

 親カラスの体を絡める白い糸は、思った以上に強く、そして不快なほどに粘着質だった。

 ドリュアからの念話が、静かに届く。

『これは……やはり魔物由来のものですね。かなり粘着性が高く、自然由来ではありません。ひょっとして――』

 ドリュアの言葉には含みがあったが、今は推測よりも行動が先だ。

 ユユがそっと糸に触れると、その指先がべたついた糸に引きずられるように動いた。

『べたべたする……』と、ユユが少し顔をしかめる。だが、怖がる様子はまるでない。

「アウーン!(動くなよ、切ってやるからな!)」

 俺は、爪を慎重に立てながら、親カラスの体に負担をかけぬよう糸を切り落としていく。

 この爪は獲物を狩るためだけじゃない。誰かを守るためにもあるんだ。

 粘ついた糸が爪に絡みつき、思わず顔をしかめるような嫌な感触が走る。

 けれども今だけは、そんなことに構っていられなかった。

『理論上、この種の糸は火に弱いのですが、対象が生き物では迂闊に魔法を使うわけにもいきませんね』

 ドリュアは、時折物騒な分析を挟みながら、俺たちの作業を見守っている。

「カァー……」

 全ての糸が取り除かれた時、親カラスは感謝を込めるかのように、弱々しくも、心からの鳴き声を上げた。

『だいじょうぶ、ユユがかならずなおしてあげるからな』

 その言葉に、親カラスは、まるですべてを預けるように、安心した顔で目を閉じた。

 まだ動ける状態ではないだろう。けれど、もう恐れることはない。

 そう思えるほどに、今この場所には、やさしい空気が満ちていた。

「ワオン!(ゆっくり休んでくれよ。もう雛も心配ないからな)」

 俺がそう声をかけると、ユユの腕の中で落ち着いた雛カラスが「クー」と可愛らしい声を上げた。

 それに呼応するように、親カラスが「カァー」と静かに応える。

 言葉は通じなくとも、心と心が交差する瞬間。

 それは、言葉以上に確かなものとして、俺の中に刻まれた。

 命を救うことができた。その事実が、静かな森の中に、確かに光のように差し込んでいた。

 その時だ。

 俺の鼻が微かに震えた。

 風に乗って運ばれてきたのは、以前にも嗅いだことのある、あの不快な匂いだった。

 それはまさに、激辛カレーに腐った卵をトッピングしたような、あの強烈な刺激臭。

 この匂いは、シカのような普通の動物のものではない。

 俺の嗅覚が、明確に魔物だと告げていた。

「アオーン!(ドリュア!魔物が来る!ユユ達を守って!!)」

 俺は全身の毛を逆立て、精一杯の咆哮を上げた。

 小さな体だけど、大切なユユと、目の前の弱ったカラス親子を守りたい。

 本能がそう叫んでいる。

 俺は魔物が近づくであろう方向へ駆け出した。

 そして、ユユとカラスの間に、まるで小さな砦のように体を割り込ませた。

「ガルゥゥ!」

 と、威嚇するように低い声で唸る。

「カーーーー!」

 親カラスも、俺の様子から危険を察知したのか、警戒の色を強くした鳴き声を上げた。

 その目は、森の奥を睨んでいる。


 俺も絶対にユユ達を守ってみせると覚悟を決める。


※執筆にAIツールを使用しています。


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