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第二十話

※執筆にAIツールを使用しています。

※カクヨム様にも投稿しました。

 森の中には、まだ冬の名残がしっかりと残っていた。

 空気は冷たく、地面は厚い雪に覆われたまま。

 土の気配など、まだ感じられない。

 けれど、空を見上げればお日様が顔を見せる時間の方が、雪が舞い落ちる時間よりもはるかに長くなった。

 

 厳しかった冬の寒さも、ここに来て少しずつ和らいできた。

 森の気配が、ほんのかすかにではあるけれど、新しい季節の足音を感じさせる。

 そんな、春の兆しがわずかに見えはじめた、冬の日の朝だった。


 先日、俺が成し遂げたベビーホーンラビット四匹単独撃破という偉業は、その成果によってドリュアから揺るぎない信頼を勝ち取ることができた。

 そして、その証として、俺の狩りの行動範囲は、以前よりもほんの少しではあるが、着実に広がることになったのだ。

 それは単なる物理的な縄張りの拡大だけじゃない。

 ドリュアが、俺の能力を認め、一匹の狼として、そして一人前の狩人として――

 新たな世界へと踏み出すことを許してくれた証だ。

 新たな狩場への期待と、己の成長への確かな手応えが、俺の胸に、熱い炎を灯すのを感じた。


 そんな日差しが暖かな、ある冬の日の午後。

 ユユと共に行った狩りも無事に終わり、俺たちは大樹の寝床へと帰る道を辿っていた。

 俺が食べきれなかった肉の塊はユユが抱え、獲物の毛皮は俺の背中にしっかりと括り付けられていた。

 ふと、ユユが目を輝かせ、抱えていた肉を俺に差し出す。

『モコオ、みてこれ、まるい!』

 自信満々の笑顔と共に示されたのは、

 どう見てもデコボコで、とても丸いとは言えない形状に丸められた肉の塊だった。

「ワフゥー(いや、そんなに丸くないよ、てか、食べ物で遊んじゃいけません!)」

 俺のツッコミも届かず、ユユはさらに胸を張り、その歪な肉塊を大切そうに頭上に捧げるように持ち上げる。

『あそびちがうよ!まるいでしょ!』

 彼女の中では、それが最高の「まるい」形なのだろう。

 その姿に、俺は思わず苦笑するしかなかった。


ユユが得意げにまるい肉を天へと掲げた――その瞬間だった。

 空から、鋭い影が音もなく舞い降りた。

 それは、鋭い爪と冷たい眼をもつ猛禽。

 その爪が、ユユの肉をガッチリ掴んで、そのまま空へと――あっという間に奪っていった。

 あまりにも一瞬すぎて、俺は何もできず、ただ口を開けたまま、その光景を見送るしかなかった。

「にく! ユユのにく!! どろぼうだ!!」

 その言葉を残し、ユユは猛禽類が飛び去った方角へと、雪煙を蹴立てて勢いよく駆け出していく。

「ワフ! アオォォン(いや、待って、ユユー!)」

 俺の叫びは、雪煙の向こうへと吸い込まれていった。

 大樹の寝床はすぐそこだった。

 まさかこんな場所で、空から狙われるとは。

 完全に不意を突かれた。

 俺はユユの猛スピードの追跡に、全速力で食らいつく。

「ワンワンワオン!(ユユ! 肉はあきらめろ! 寝床に行けば冷凍肉がまだたくさんあるから!!)」

『まるにく! あれはユユのとくべつなまるにくさま!』

「アオォン?(いや、丸くないって! そこ大事なの!?)」

『おこちゃまモコオはわからん!!』

「ワンワン! (おこちゃまちゃうわ!!)」

 そんなやり取りを交わしている最中、突然、俺の嗅覚が尋常ではない反応を示した。

 全身の毛が逆立つ。

 脳裏に警戒のサイレンが鳴り響く。


 俺は迷わず、ユユに体当たりを食らわせた。

 二人分の勢いで雪の中に転がり込む。

『なにする! モコオ! てきになるか! かみかみでなかすぞ!!』

「アオォン!!(ユユ! 落ち着け! 聞いてくれ!)」

『はなしない! まるにくさま、もってかれた!!』

 悠長に言い争ってる場合じゃない!

 魔獣の強烈な刺激臭が、もうすぐそこまで迫っている!

「ガウアオォン!!(お願いだから! ユユ! 俺の言うことを聞いてくれ!!)」

『しょうがない! ちょっとだけきく! あとでなかす』

「ガウゥゥ!(あの肉は俺が取り戻すから、ユユは大樹に戻ってドリュアを呼んでくれ!)」

『ドリュアあとでいいよ?』

「ガウ! ワンワン!!(いや! あの空の泥棒には、空を飛べるドリュアの力が絶対に必要だ! 間違いなく必要だ!!)」

 この魔獣、尋常じゃない速さだ!

 俺たちに向かって一直線に突進してくる!

『そうか、まるにくさま、おそらか、ドリュアよんでくる!』

「ガウガウ!(頼む! ユユ! ドリュアを頼む!必ず呼んできてくれ!!)」

『しょうがないな、たのまれる、でもなかす』

 ユユは不満そうにしながらも、俺の言葉に従い、大樹の方向へ駆け出していった。

 大樹の寝床まではそんなに離れていないが、五歳児の脚力では、この魔獣の速度から逃げ切れる保証はない。

 なら、俺がここで足止めする。

 ドリュアが来るまで、何が何でも時間を稼ぐ。


 俺は鼻を高く上げ、神経を研ぎ澄ませて匂いを辿る。

「……すぅぅ……クンクン……」

 魔獣が来るまで、もうほとんど時間がない。

 だが、他にやばそうなケモノの気配もない。

 間一髪でユユをドリュアのもとへ行かせることができたが、その安堵はすぐに吹き飛んだ。

 倒木の陰から、奴は姿を現した。

 俺は真っ先に、その注意を自分へと引き付ける。

「ギャンギャンアオォォーン!」

 俺は全身の力を振り絞って、喉が張り裂けんばかりに吠える。

 敵意を一身に集めるために。

 奴は、その歩みを止めた。

 よし、喰らいついた!

 そして、その魔獣を強く睨みつける。

 その視線の先にいたのは……最悪の相手。ホーンラビット。

 ベビーホーンラビットの進化した姿。

 その体は大きく進化し、

 その額には、見る者を圧倒するほどに立派な角が、

 禍々しい存在感を放っていた。


 だが、群れじゃない。敵は一体のみ。

 油断は禁物だが、希望はある。ドリュアからの教えを思い出すんだ!

 俺の思考を無視して、ホーンラビットが猛然と突進してきた!

 大きく、余裕をもって回避しろ。

 回避後も動きを止めるな――!

 奴は突撃中に一度進路を変え、俺を追尾してきた。

 よし、情報通りだ! 回避成功!

 お互いに距離を取り、次の動きを窺う。

 再び、爆発的な突進攻撃が迫る!

 速い! だが避けられる。足を止めるな!

 完璧に避けた、そう思った次の瞬間。

 ザシュッ。

 背中に括りつけられた毛皮を奴の角が刈り取っていく。

「ガアッ(クソ、もっと広く避けるべきだった!)」

 突進中に首を振って角で攻撃してくること、忘れていたのか!

 あの長大な角は、全てが攻撃範囲だ。

 大きく回避しろ。足を止めるな。追尾してくる!

 角の攻撃もある!

 だが、一度軌道を変えた突撃は、速度がわずかに落ちる。

 角さえ避けられれば致命傷にはならないはず。

 右へ左へ、惑わすように走り、時には木の影を利用して時間を稼ぐ。

 ドリュアが来てくれれば――

 そんな甘い考えが、雪に足を取られるという致命的なミスに繋がった。

「キャン!(まずい!)」

 横へ転がり、突撃を躱す。避けた!

 奴の猛攻を紙一重で回避しきった!

 体勢を立て直し、足に力を込めた瞬間――

 ピキッ。

「ガッ(イタッ)」

 左足に痛みが走る。挫いたか?

 雪に足を取られたときか?

 ホーンラビットとはなんとか距離を取り、にらみ合う。

 まだ動ける。

 右足がある限り、まだ大きく回避できるはずだ。

 来た! くそっ!

 右足だけで、右手側へ大きく回避。

 よし、避けた。足を止めるな、もう一度回避!

「アウッ(痛ッ)」

 足の痛みが、回避の動きを小さくする。

 ホーンラビットが軌道修正し、

 俺めがけて一直線に突っ込んでくる。

 ……くそ、角だけは、絶対に避けてやる!


 そんな覚悟を決め、痛みに耐えながら両足に力を込めて身構えた、その間一髪の瞬間――『アイスウォール』。

 目の前に突如として、氷の障壁が出現した。

 ガギャーーン!

 氷の壁はホーンラビットの突進を受け、粉々に砕け散ったが、

 奴の勢いを削ぐには十分だった。

 俺は即座に振り返り、その名を叫んだ。

「アオーン(ドリュア!)」

『モコオ、まだ戦闘中ですよ、油断は禁物です。回避を続けなさい。』

「ガウガウアオォォン(もう限界だ!足が痛い、あの角が怖いんだよ!)」

『何を言っているのですか、早く動きなさい。』

「ガウゥゥウ(ドリュアの鬼!チビ髭執事め!)」

 ドリュアの的確な魔法援護を受けながら、俺はホーンラビットから距離を取り続ける。

『その元気があるなら、最後まで戦いなさい。

 ユユを無事に逃がしたことは評価しますので、特別に手助けしてあげます。』

 ドリュアの魔法攻撃でホーンラビットが足止めされ、怯んだ隙に、俺は奴の死角から一気に接近する。

 こちらに気づいたホーンラビットは、大きく頭を振り回し、角を横なぎに振り払ってきた。

 俺はそれを大きく跳躍して躱し、奴の頭上を奪う!

 ドリュアの援護が完璧なタイミングでヒットし、

 ホーンラビットは完全に体勢を崩した。

「ガウガウガーーーー(重力と回転の合わせ技で威力倍増!

 謎理論炸裂!コーク肉球クローだー!!)」

 頭上から勢いよく振り下ろされた爪が、

 ホーンラビットの首筋に深く食い込み、致命的な傷を与える。

 そこにドリュアの魔法が追い打ちをかけ、

 ホーンラビットは完全に沈黙した。


「アオーン!(やったか!)」

 動かなくなったホーンラビットの体を睨む。

 ……間違いない、完全に死んでいる。

 ……ふぅ、と、ようやく緊張の糸が切れた、その瞬間。

 ガブッ!

「キャン!(痛い!何するんだ!)」

 振り返れば、ユユが思い切り俺の首元に食らいついていた。

『ユユのまるにく!』

「アオン(ああ……肉は、残念ながら鳥に持っていかれた……)」

「モコオ、ばか!!」

 ガブッ!!

 ギャオーーーン!!

 終わりゆく冬の森に、俺の悲鳴が空しく響き渡った。



読んでいただきありがとうございました。


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