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第十九話

※執筆にAIツールを使用しています。

※カクヨム様にも投稿しました。

 白銀の森に、まだ冬の女王は居座り続けていた。

 空を覆う雲は厚く重たく、冷気は容赦なく肌を刺す。

 けれど、降り積もる雪はどこか柔らかくなり、吹雪の日は減ってきた。


 ――春は、まだ遠い。でも、確かに近づいてきている。


 そういう穏やかな日には、決まって俺はユユと森へ出る。

 ぬくもりの寝床から飛び出して、雪に染まる木々の間を駆け抜ける。

 新雪の上を転がり、甘噛みの応酬。

 しっぽを引っ張られ、耳を甘くかじられる。

 仕返しにユユのフードをくわえて軽く引っ張ると、彼女はきゃははと笑い転げた。

 ふたりの笑い声が森に溶けていく。


 冷たい空気に包まれながらも、心の中には温かな熱が灯る。

 凍える風が吹こうとも、俺の体温は下がらなかった。

 むしろ、その熱気はじわじわと体の芯にまで届き、滞っていた血が巡りはじめる。


 ――確かに、体が軽くなってきた。


 ふとした動作が、ちょっと前よりすっとスムーズにこなせる。

 足取りに弾みが戻り、心なしか毛並みのハリさえ増した気がする。


 その変化はやがて、狩りという行動にもつながっていった。

 雪煙を巻き上げながら駆ける。鋭く冷たい空気を切り裂いて、森の奥へと走る。

 何かを追い、何かを探し、何かを――取り戻すために。


 動くこと、走ること、追うことが楽しくてたまらない。

 そんな当たり前を、もう一度手に入れようとしていた。


 ベビラビトレインからの決死の大脱走と、ドリュアからの説教&大説教というカタストロフィーを受けたあの日から、俺の狩りは常にドリュアとユユを伴い、安全に最大限配慮したものとなっていた。

 それはそれで頼りになるのだが、やはりどこか物足りなさがあった。

 しかし、今日の午前のことだ。ドリュアが、ついに単独での狩りのお許しを出してくれたのだ。


「アオォン!(さあ、冒険の始まりだ、一心不乱な大冒険だ!)」


 俺の身体は、その言葉を待っていたかのように、意図しないままにシッポをブンブンと揺らし始めた。

 抑えきれない興奮と、解放感が全身を駆け巡る。

 毛の一本一本が跳ねるように浮き立ち、肺の奥から息が一気に吸い込まれる。


 自由だ――そう感じた。


 走りたい。試したい。証明したい。

 俺がただの無謀な子犬、否、無謀な狼じゃないことを。

 ちゃんと学び、鍛え、ここまで成長してきたということを。


 今までの狩りは、安全第一だった。見守られ、制限され、常に“誰かと一緒”だった。

 それが悪いとは思わない。むしろ、ありがたかった。

 でも、それだけじゃ満たされない。


 再び一人で森を駆け巡り、自分の力だけで獲物を追い詰める。

 それは決して、無謀な暴走ではない。


 俺の中に根付いた記憶――雪を掻き分け、息を殺し、匂いを辿り、気配を読む。あの感覚が、もう一度、血の中で目を覚まそうとしていた。


 そうだ――始めよう。

 これは、俺だけの狩り。俺だけの時間。



 狩りの始まりは、いつもと同じ儀式だ。

 俺は深く息を吸い込みながら、自慢の鼻を高く掲げる。

 そして、研ぎ澄まされた嗅覚に、全意識を傾けていく。



「……すぅぅ……クンクン……」


 それだけでいい。それだけで、世界が見える。

 目に映る風景とは別に、匂いで“視る”景色が俺にはある。


 キン、と冷えた空気の奥に、熱がある。動きがある。命がある。

 凍った土の下で眠るもの。雪の上をかすめた足。木の陰で様子をうかがう獣。


 数え切れない種類の匂いが、まるで一冊の地図のように俺の中で形を取っていく。


 全部、俺の鼻は知っている。


 その中に、あった。

 異質な、重く鼻を刺す刺激臭――魔獣だ。


 俺は、かすかに背筋を震わせた。だが、それは恐怖じゃない。

 これは“狩り”だ。本能が高鳴って、血が躍る。

 鼓動が早くなっていくのを、俺は感じていた。


 迷いはない。全身が、そのために動こうとしている。


 雪を蹴る。

 耳を澄ませる。

 匂いの先へ――まっすぐに。


 獲物の匂いは、予想よりも若干濃い。

 この濃さは、一匹だけではないことを示唆している。もしかしたら、群れかもしれない。


 もしそうならば、状況次第では戦略的撤退も視野に入れる必要があるだろう。


 逸る気持ちを抑え、俺は気配を消し、ばれないように慎重に匂いを追った。


 慎重に、慎重に。


 俺は、雪の感触すら感じ取れるほどの静けさで足を進める。

 枝を踏まないように、風向きを読みながら、匂いだけを頼りに進む。


 張り詰めた空気の中、視界の先に、ぼんやりと動く影が見えた。

 さらに距離を詰め、確かな姿を捉えると――やはり。


 匂いの先には、いつものベビーホーンラビット略してベビラビがいた。


 だが、俺の予想通り、そいつらは群れていた。

 はっきりと確認できたのは、三匹。


 小さな群れが、互いに距離を取りながら、緩やかに動いている。


 牙を剥いて突っ込むには、まだ早い。

 俺は息を潜め、木陰で一度立ち止まった。


 次の一手を、完璧にするために。


 俺は目を閉じ、脳内で戦闘をイメージしてみる。

 地形、木の位置、雪の深さ――全てが俺の武器になる。


 三匹のベビラビを相手にするには、力任せでは危険だ。

 まずは、最も近い位置にいる一匹に狙いを定める。


 後ろから忍び寄り、奴の後ろ足に確実にダメージを与える一撃を食らわせる。

 これにより、奴はまともに動けなくなるだろう。

 その隙を縫って、素早く横をすり抜け、近くの太い木の根元へと移動する。


 続いて、俺を狙って突撃してくるであろう二匹目に対し――

 その突進を完璧に回避しながら、カウンターで一撃を加えてやる。


 その後すぐに、別の木の根元へ逃げ込み、三匹目の突撃を誘い……

 同様に回避する。


 無理に止めを刺そうとせず、敵の足を狙って動きを封じ、囲まれないようにうまく立ち回れば――いける。

 確実に、いける。

 木々を最大限に利用し、一匹ずつ確実に無力化していく戦略が、脳裏に鮮やかに描かれた。


 念のため、最後に周囲に別の獣がいないか確認する。

 俺は再び鼻を持ち上げ、全神経を集中させた。


「……すぅぅ……クンクン……」


 澄み切った冬の空気が、微細な匂いの粒子を運んでくる。


 分析を終え、脳内に浮かび上がった嗅覚の地図には――

 狙うベビラビの群れ以外の、魔獣に類する危険な気配は一切ない。

 ……よし、これで準備は整った。


 ならば、後は覚悟を決めて行動するのみだ。

 一瞬の躊躇も許されない。


 俺はベビラビの背後へ、音もなく回り込んだ。

 全身に漲る力を感じながら、心で叫ぶ。「よし!」


 迷わず、一番近くの敵に突進し、

 その後ろ足へ渾身の一撃を叩き込む!

 思惑通り、奴は体勢を崩し、まともに動けない。

 即座にその場を離れ、目の前の木へと駆け込み、背中を預けるように振り返る。


 計画通り、異変を察知した二匹目が、勢いよく突撃してきた。

 だが、予想外だったのは、右手側から三匹目も同時に突っ込もうとしていることだ。

 咄嗟に予定を変更。二匹目を左側へと大きく回避する!


 攻撃は躱したが、こちらからの反撃は叶わなかった。

 だが、二匹目はそのまま俺の背後の木に激突し、目を回している。


 この機を逃さず、三匹目との間合いを取る。

 振り返った時には、すでに三匹目が猛然と迫っていた!

 紙一重で回避すると同時に、カウンターの一撃を叩き込む!

 これでこいつも動きを封じられたはず。


 間髪入れず、目を回して動けない二匹目にとどめを刺す!


 まさに、二匹目の目を回しているベビラビにとどめの一撃を加えようとした瞬間――

 ガサガサガサッ!

 背後の茂みから、信じられないことに四匹目のベビラビが飛び出してきた!

 「ガウワン!(くそっ、群れは四匹だったのか!)」

 完全に虚を突かれた形だ。

 反射的に、俺は目の前の二匹目の首元に深く噛みつき、牙を突き立てる。

 まだ生きているベビラビの血液が口の中に溢れ流れ込んでくる。

 「ワウ(ぐぅ、気持ち悪い!)」

 だが、そんなことを気にしている暇はない。

 四匹目が、まるで止まらない弾丸のようにこちらへ突進してくる。

 俺はくわえた二匹目のベビラビを、首の力を使い、

 全力を込めて四匹目に向かって振り投げた!

 死骸となった二匹目と、突進する四匹目が激しく衝突し、動きが止まる。

 その刹那の隙を、俺は見逃さない。


「ガウガウガアァァァ!!(俺のこの手が光って唸る、お前を倒せと轟き叫ぶ、砕け必殺シャイニング肉球パーーンチ!!)」


 素早く四匹目の懐に飛び込み、肉球パンチを食らわせる!

 見事に一撃で仕留めた!


 「アオーン!(やった!)」


 残るは、すでに無力化した二匹のベビラビ。

 俺は迷わず、それらにも止めを刺していった。


 その後、倒した四匹のベビラビを、大樹の寝床に運ぶのに何度も往復する羽目になり、四匹目を運びきった時にはすっかり日が暮れていた。


 戦闘より運搬のほうが疲れた……ガウガウ。



読んでいただきありがとうございました。


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