第十七話
※執筆にAIツールを使用しています。
※カクヨム様にも投稿しました。
空気がぴんと張りつめ、清澄な冷気が肺の奥まで澄み渡る。
朝の光を浴びた枝先の霜の花は、まるで無数の小さな宝石のようにきらりと輝き、白銀の世界に幻想的な彩りを添えていた。
冬の寒さはその厳しい峠を越え、肌を刺すような冷気の中にも、かすかな、しかし確かなやわらかさが混じり始めている。
それは、まだ遠い春の足音を予感させる、わずかな温もりの兆しだった。
けれど、そんな凍てつく世界が広がっていても、大樹の中の寝床だけは、まるで別世界のように暖かかった。
地面に這う根の奥からほんのりと伝わる熱。樹皮の内側を満たすやわらかな空気。
それは薪火の熱さとは違う、もっと包み込むような――春の陽だまりのような、心までほぐれるぬくもりだった。
精霊の魔力がゆるやかに満ち、風もなく、静かで、安心に満ちた空間。
外の雪が木々を覆い、冷たい風が森を駆け抜けていることさえ、ここでは夢のように遠く感じられる。
大樹の懐でうずくまるたびに、世界の寒さから切り離されたような、不思議な安らぎがあった。
そんな日々の中、雪が深々と降り続く日は、決まってドリュア先生の異世界語勉強会が開かれる。
大樹の寝床の奥、精霊の気配がゆらりと揺れる中、俺とユユは並んで腰を下ろし、紳士然とした彼の講義に耳を傾ける。
ドリュアの語る異世界語は、響きこそ不思議だが、どこか心地よいリズムを持っていて、静かな午後の眠気を誘う。
その声は、まるで暖炉の奥でくべられた薪の音のように穏やかで、優しくて、寒い日の心を芯から温めてくれる。
ユユは新しい単語を無邪気に口真似しながら、合間には俺を抱きしめるようにして、こてんと眠ってしまうこともある。
言葉の響きに耳をすませながら、精霊に守られたこの空間でまどろむひとときは、まさに冬の贈り物だった。
けれど、雪が降らない日は別だ。
雲間から射す陽光に誘われるように、俺とユユは「まってたーっ!」と勢いよく大樹の外へ飛び出す。
新しく積もった雪はふかふかで、足を踏みしめるたびにきゅっ、きゅっと音を立てる。
白銀の森の中を駆け抜け、ユユは歓声をあげながら跳ねるように走る。俺も負けじと追いかけて、時折わざと横から体当たり。
ユユがダッシュすれば俺も全力で追いかけてきて、逆に追いかけられると今度はこっちが甘噛みで反撃。
ジャンプして雪に突っ込んだり、勢い余って顔から転がったり、あっちもこっちも足跡だらけだ。
肉球は冷たいけど心はぽかぽか、遊び終わるころには雪まみれで、お互い雪だるまみたいな顔になっていた。
雪遊びのあとは、あたたかな寝床と、満ち足りた食卓が待っていた。
俺たちの食料庫は、大樹のそばに作られた天然のかまくら。中はひんやりと冷たく、外気を利用した立派な冷凍庫になっている。
そこには冷凍された獣肉や、木の実、きのこ、乾燥させた果物まで、冬を越すには十分すぎるほどの食べ物が並んでいた。
ドリュアを通して届けられるそれらは、見えない精霊たちが気まぐれに置いていってくれる贈り物のようなものだった。
顔を知らなくても、俺たちの暮らしを支えてくれている存在がいる。そのことが、不思議な安心感を与えてくれた。
そんな見えない支えの中に、最近では、もうひとつ目に見える存在が加わった。
かつて“獣の能力を探す”と言い残して姿を消していたサラスが、時折ふらりと姿を見せるようになったのだ。
彼女は以前よりもさらに生き生きとしていて、森で得た数々の発見を、得意げに語ってくれる。俺たちには訳の分からん話もあるが、サラスの瞳は知識への渇望と好奇心に満ちていた。
会うたびに俺は、期待をこめて「回避の能力は生えてないか?」と尋ねるが、彼女はいつも「ホーウ」と唸ってから首を振る。
そして羽角を揺らしながら、得意そうにこう続けた。
『ホーウ、そもそもそんな簡単に能力は生えてこないのじゃ。剣術や料理といった一般的な能力でさえ、毎日修行を重ねてようやくだいたい一年ぐらいで生えるのが一般的なのじゃよ。中には、どれだけ努力してもセンスがなければ、なかなか能力が生えてこない者もいる。ユユのように、あれほどの短期間に複数の能力が生えてくることの方が、むしろ稀なことなのじゃ。』
その説明に、俺は改めてユユの特異性を噛みしめた。
あの小さな体に、これほどの才能が宿っているというのは、まさに奇跡のようだ。
そんなふうに、ユユや精霊たちとの穏やかな日々を送っていたある時。
冬の静寂に包まれた森の中、ぬくもりに満ちた大樹の寝床で、俺は一つの重大な現実と向き合うことになった。
……そう、体重の増加である。
正直に言って、笑いごとでは済まされないレベルだった。
外は連日の大雪で、動ける日はほとんどなく、いつものように狩りで走り回ることもできない。
そのぶん、食べては眠る生活が続いていた。
備蓄された肉は豊富にあり、さらに精霊たちが届けてくれる木の実は香り高く、何より暖かな寝床で食べると美味しさが何倍にも増す。
ユユとぴったり寄り添いながら、じゃれ合い、まどろむ。
そんな心地よさに身を委ねるうち、俺の体は知らぬ間に膨張していた。
元々冬毛でモコモコと愛嬌のある体だったが、今ではそのモコモコがコロコロと丸みを帯び、まるで太鼓腹のようにブックブクと膨らんでいた。
モコモココロコロブックブクである。
「ワンワンワーン(このままでは理想の狼体型からかけ離れてしまう! 雪がやんだら、すぐにでも狩リブートキャンプを再開して、このお腹のお肉を絞りきってやる!」
そう声を上げてはみたものの、その横にはユユのぬくもり、手には果物、そして寝床は天国のごとき快適さ。
……つまるところ、誘惑に抗うだけの意志力など、今の俺にはない。
俺の目線の先には、取って置きの乾燥完熟果物。
「ガウガウ(雪、早く止んでくれないかなー)(棒読み感)」
そう祈りながら、俺は今日もまた、小さく咀嚼音を響かせるのだった。
読んでいただきありがとうございました。
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