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第十六話

※執筆にAIツールを使用しています。

※カクヨム様にも投稿しました。

 冬の穏やかな午後のひと時を、けたたましい雄叫びが木っ端微塵に打ち砕いた。


『ホーホホーウ!未知の能力が見つからないのじゃ!』

 その声の主は、サラスだった。


 白い彗星のような速度で、洞の入り口から飛び込んできた精霊は、興奮した様子でぶんぶんと羽角を揺らしている。


 不意の来訪者に呆れている暇もなく、サラスの鋭い視線がユユに注がれた。


『ホーウ、ユユの能力が増えているのじゃ!!』

 サラスの言葉に、ユユは目を丸くした後、すぐに喜びの声を上げた。


『サラス!どう?ユユつよい!』

 興奮を隠しきれないユユが、小動物のように跳ね回る。


 サラスはそんなユユの様子を微笑ましげに見守り、重々しく告げた。


『ホーウホウ、“念話”と“噛みつき”が生えておるのじゃ。』

 俺は耳を疑いユユを凝視した。


「ガウ!(なんで噛みつき!)」

 まさか、ユユに噛みつき能力が?一体いつの間に?

 俺の困惑を察したのか、ユユは純粋な瞳で俺を見上げ、屈託なく言った。


『ユユね、モコオとガウガウカミカミ、いつもたたかってる!』

「ガッ!(あれ遊びでしょ?甘噛みじゃ無かったの!?)」


 俺にとっての甘噛みや喧嘩ごっこが、ユユにとっては真剣な修行だったのだろうか。

 全力でツッコミたくなるが、ユユの純粋な瞳がキラキラしていて、それを否定するのがためらわれる。


 その事実に愕然としていると、サラスは大きく羽角を広げて宣言した。


『ホホーウ、それゆえ能力が生えてきたのじゃ!ユユは天才じゃ!!』

『へへー、ユユ、つよいんだよ!モコオにガブガブして、ユユがかつ!』

「……ワフ。(いや、勝ってないよ)」


 俺はそっと目をそらしながら、ユユに甘噛みされたときの記憶を思い返す。

……あれが戦闘判定されるの、ちょっと理不尽じゃない?

“念話”は分かる。

そりゃ毎日ずっと使っているからな、だけど“噛みつき”って!


 サラスに褒められたユユは、小さな拳を握りしめていた。その可愛らしい仕草に、俺はもう何も言えなかった。


「ワン!(じゃ、お――)」

 俺が自身の能力についても尋ねようとした、まさにその時だった。

 ドリュアが静かに、だが確かな声でその場の空気を変えた。


『ところでサラス、先ほどの能力が見つからないとは?』

 ドリュアの問いに、サラスは再び興奮した様子で白い羽角をぶんぶんと揺らす。


『ホッホ!そうなんじゃ、あたしゃあれから大きな街を幾つも、幾つも、幾つも周り。何百、何千もの人族の能力を視て回ったのに、新しい発見は一つもなしじゃ!!』

 サラスの、その熱のこもった報告に、俺は思わず息を呑んだ。


 何百、何千という人々の中に、俺のような“マレビト”は一人もいなかったということなのだろうか?

 ドリュアは、俺の表情を一瞥してから、静かにサラスに尋ねた。

『サラスはすべての町や村を回ったわけではないのでしょ?』

『ホウ!流石にすべては回っておらんのじゃ。』

 サラスの言葉に、俺の胸の奥で、まだ見ぬ同胞への淡い期待と、この世界での孤独感が交錯する。


 その時だった。俺の複雑な心境を吹き飛ばすように、ユユの明るく朗らかな声が響き渡った。


『モコオとユユはいつもいっしょだよ!ドリュアもサラスも!ほかにもいっぱいせいれいさんいるんだよ!』


 ぱあっと明るく響くユユの声が、凍りかけていた俺の心を包み込むように満たしてくれた。

 まるで暖かな陽光のように俺の心を照らし、確かな温もりが全身を駆け巡る。

 声だけじゃない。言葉にならない、あたたかな感情が胸いっぱいに流れ込んでくる。

 まるで、火照った手のひらでそっと背中をなでられているような、そんな優しさだった。

 

 ……そうだ。

 まだ見ぬ“マレビト”なんて、考えても仕方ない。

 遠い世界の記憶を持つ“マレビト”が他にいるかどうかなど、些末なことだ。

 

 目の前には、無条件に俺を信じ、共にいてくれるユユがいる。

 そして、厳しくも優しいドリュアが、騒がしいけれど憎めないサラスがいる。

 俺はもう、ひとりじゃない。

 彼らの存在が、この世界で生きていくための何よりの支えだと、改めて心に刻んだ。


 ふと、気がつけば――孤独感なんてものは、少しずつ、風に溶けるように消えていた。


 温かな感情に包まれ、孤独感が溶けていくのを感じていたその時、サラスの甲高い声がその静寂を打ち破った。


『ホーホホーウ!マレビトなんぞ居なくてもよい、それより見たことも聞いたこともない能力が知りたいんじゃ!』


 いや、そんなことを言われても、俺にはどうすることもできない。困惑する俺の思考を無視して、サラスは自らの思案に納得したかのように羽角を揺らした。


『そこであたしゃ考えたんじゃ、もう一度原点に戻ってみようとな!』

 何が“原点”なのかよく分からないまま、ドリュアが横から小さくため息をついて口を開いた。


『……それで突然戻ってきたんですか。』

 ドリュアの冷めた視線にも気づかないかのように、サラスは得意げに羽角を揺らした。


『ホホーウ、そうしたらユユの能力が増えているのじゃから、驚いたのじゃ!』

 まるで自分の目利きが当たったかのように、サラスは羽をぱたぱたと揺らしながら鼻高々に言う。


 その横で、ユユが勢いよく胸を張って仁王立ちになり、誇らしげに声を上げた。


『ユユはかったカミカミ!』

 まるで賞を取った後のヒーローのような顔で見上げてくる姿に、俺は小さく唸る。


「アオン……(俺負けてないからね……)」


 それでもやっぱり嬉しそうな顔を見ていると、なんだかほっこりしてしまう。

 サラスはさらに目を輝かせて続ける。


『ホウホーウ!まさかこんな幼子に二つも能力が生えているとは中々無いことなのじゃ!ホーウ……特に亜人族に“念話”が生えてくるのは珍しいのじゃ。ホウじゃが、“念話”自体は、あたしら精霊族にとっては比較的よく見る能力じゃよ。』


 ユユはふむふむと神妙な顔で頷きつつ、また訊ねた。

『カミカミすごい?』

『ホウ、いやよくあるんじゃ。特に亜人族には珍しくないのぅ……ホウじゃが、ユユは幼いのに凄いのじゃ!』


 ちょっと褒め方が雑な気もするが、まあユユは嬉しそうだからいいか。


「ガウガ……(俺、おれの……)」

 その俺の言葉にかぶせるように、ドリュアが冷静に本題に戻る。


『それで何が原点なんですか?』

 ドリュアの問いに、サラスは満面の笑みで、まるで世紀の発見でもしたかのように言い放った。


『ホウホウ、犬じゃ、いや、ケモノと言い換えよう。』

『ケモノ……ですか?』


 ドリュアの声には、かすかな戸惑いが滲んでいた。

 だが、サラスは構わない。

 彼女の瞳はすでに、新たな知的好奇心に燃え上がっていた。


『ホホーウ、今まで人族ばかりを見て回って来たが、あたしゃこれまでケモノの能力をモコオ以外視たことがないと気づいたのじゃ! 其処でこれからはこの森を中心にケモノや魔獣の能力を視て観察し、調べに調べつくすのじゃ! さてさて、忙しくなってくるのう!!』


 言葉が終わるか終わらないかのうちに、サラスはもう洞の出口へと向かおうとしていた。

 その衝動的な行動に、ドリュアはいつものように冷静さを保ちつつも、その表情には明らかな諦めの色を浮かべていた。

 隣では、ユユがサラスの言動に合わせて「いそがしくなるの?!」とばかりに、目を輝かせてはしゃぎ回っている。


「ガウガウガウ!(サラス! 待って!!)」

 俺は慌てて引き留めようと叫んだ。


『ほう?モコオか、久しぶりじゃな、毛切った?』

「ガウワンワン!(切ってないよ!てか、寧ろ冬毛でモコモコ度に磨きかかってるよ!)」

『ユユすき!もこもこつよい!!』

「ワンワンワン(そうじゃなくて、俺の能力!俺の能力増えてない?回避とか噛みつきとか!!)」


 サラスは羽角をかすかに揺らしながら呟く。

『ホーウ、特に変わっておらんな。』


 俺の中で希望にあふれていた感情がスーンと引いていくのが分かった。


 スキルコレクター系チート主人公はユユであり、俺は嗅覚特化の索敵モブキャラに役割が決まったような気がした珍しく暖かな冬の日の午後だった。


読んでいただきありがとうございました。


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