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第十二話

※執筆にAIツールを使用しています。

※カクヨム様にも投稿しました。

「モコオ!みえてきたよ!」

 ユユが小さな声で叫び、俺の背をぽんぽんと叩いた。

 その指先の温もりに、俺はようやく今日一日の重さを思い出す。


「ワフ……」


 やっと……やっとだ!

 大樹が見えた瞬間、俺は跳ねながら駆け出した。

 足も痛い。尻も痛い。体中痛い。でも、それよりなにより――今日はよくがんばった、俺!


 ドリュアも、いつも通りの静けさで俺たちの少し後ろを漂っていた。

 彼が疲れているように見えたのは、やはり気のせいだったのかもしれない。そう思いながら、俺は寝床の大樹へと向かおうとした。


 しかし、その瞬間、身体の奥底で、何かがざわめいた。

 嗅覚が、微かな異変を察知する。それは、この大樹の洞では嗅ぎ慣れない、しかしどこか精霊族特有の、清浄な気配だった。

「ワフッ……?」

 俺が不安げに鼻をひくつかせた、その直後だった。


 気配がないのに、なぜか背後に何かがいる感覚。

 次の瞬間、木の陰から、声なき存在が現れた。

 それは、ドリュアと同じ“におい”を纏いながら、まったく違う“何か”だった。


『ホウッ、面白そうな能力を持っておるのじゃ!』


 甲高く響く声とともに、ふわりとした何かが空から舞い降り――俺の背中に、どすんと飛びついた。


「ワフゥッ!?」


 思わず飛び上がる俺。背中には、ふかふかしてて、軽いのにやたら落ち着かない“なにか”が乗っている。


 予想外の衝撃と、温かい……いや、強烈な精霊の匂いが背中に張り付いたことに、俺は悲鳴のような鳴き声を上げた。


『ホウホウ、嗅覚無双!これはいままで見たことも聞いたことも無い能力じゃ!』


 俺は思わず「ワフッ!?」と喉を鳴らした。

 嗅覚無双?フクロウの形をした何かは俺の鼻先から離れると、くるりと宙返りし、感嘆の声を上げた。

 その顔は、まるで初めての珍しいおもちゃを見つけた子供のようだ。


『ホウ!、身体強化じゃな、この若さで強化系を持つとは珍しい!』

 今度は俺の足元に降り立ち、羽を起用に使い俺の太ももをペタペタと触り始めた。

 羽の感触がくすぐったいが、俺の反応など気にせず、真剣な顔で俺の体を探査している。


『ホウ、寒冷耐性強化じゃ、なるほど犬らしいのう 』

 俺の腹に顔を埋め、ぶよぶよになったお腹の肉をクンクンと嗅ぎ回る。

 いや、その能力はたぶんアラスカンマラミュート由来のやつだろ。


『ホウこれはいかんのじゃ、炎熱耐性弱化!弱体能力を持っておるのじゃ!』

 突然、フクロウの声に驚きの色と、僅かな失望が混じった。

 フクロウは俺の体の側面を何度も嗅ぎ、首を傾げた。

 まるで、期待していたものと違うものを見つけたかのような表情だ。

 いやいや、毛皮もあるから暑いの苦手なのはしょうがないだろ!弱体能力って言うな!


『ホッホウ!、嗅覚無双以外は目にしたことがあるのじゃが・・・嗅覚無双とは興味深いのじゃ!』


 最終的に、フクロウは再び俺の鼻先に顔を寄せる。

 その瞳は、やはり最初の“嗅覚無双”という言葉を発した時と同じ、純粋な探究心に満ちていた。

 他の能力には一通り満足したのか、彼女の関心は再び俺の嗅覚へと戻っているようだった。


『サラス!いつきた?ごはんいっしょにたべる?』

 はしゃいだユユの念話にかぶせるように。


『サラス。いい加減にしなさい。』

 静かで、しかし絶対的な命令を帯びたドリュアの声が、その場に響き渡った。 

 ドリュアは一歩前に出て、そのモノクルの奥から、精霊に鋭い視線を向ける。

 彼の声には、いつもの冷静さの中に、明確な抑止力が込められていた。


『ホーウ、相変わらず辛気臭い奴じゃな、ドリュア』


「ガウガウ!(ドリュア!なんなのこのフクロウ!)」

『ホッホウ!あたしゃミミズクじゃよ!この鮮やかで美しい羽角が目に入らないのかい!チビワンコ』


「ガウ!アオォーン!!(俺はワンコじゃねぇ!狼だ!)」


『サラス!モコオはね、すごいモフモフなんだよ!いちばんだよ!』


 ユユの朗らかな声が、俺たちの激しい言い争いに割り込んだ。

 彼女は無邪気に俺の背中を撫で、その心地よさをサラスにも伝えようとする。


 三者の声が重なり合い、洞窟内は一気に賑やかになった。


 ドリュアは、その騒がしさの中で、ただ静かに佇んでいた。

 彼の瞳が、僅かに、しかし明確な不機嫌の色を帯びていく。そして、その沈黙が、かえって強い圧力を生み出した。


『3人とも。いい加減にしなさい。』


 わずかな言葉、されどその響きは鋭利だった。

 空気が一瞬にして静まり返る。

 ユユが「ひゃっ」と小さく声を漏らし、 サラスは首を180度回してドリュアを見、モコオは耳を伏せて目をそらした。


『此処ではなく、まずは寝床で食事をしながら話し合いましょう。』


 張り詰めた空気を和らげるかのように、ドリュアは口髭をいじりながら、再び冷静な声でそう告げた。

 その言葉に、俺は安堵の息をつく。サラスも、ドリュアの指示に従い、静かに後方へと漂い始めた。


 寝床には、いつも通りの干し果物やキノコが用意されていた。

 甘く、優しい香りが辺りに広がると、緊張していた空気がゆっくりほどけていく。

 ユユがぱあっと顔を明るくして飛びつき、もきゅもきゅリスのように頬ばり、モコオもつられてぱくりとキノコをかじる。

 サラスも干し果物をつまみ、器用に食べ始める。


 くつろぎの時間が戻る頃。

 ドリュアが、軽く咳払いをして皆の視線を集め、俺の方へわずかに顔を向け、淀みない声で続けた。


『彼女はミミズクの姿をした精霊族のサラスです。』

 その言葉に、白いミミズク姿のサラスは、ドリュアの横で誇らしげに羽角をぴんと立てた。

 その瞳は俺に向けられ、まるで釘を刺すかのように念話が響く。


『ホホーウ、わかったかい、チビワンコ。この優美なる姿、これぞミミズクの証じゃ。もしも、万が一にもフクロウなどと口走れば、お主の能力はあたしの好奇心の餌食になるからね!。心得ておくがよいのじゃ!』


 その言葉は、どこか茶目っ気を帯びていたが、最後の部分には精霊としての揺るぎない力が込められているようだった。

 俺は思わず息を呑み、ドリュアの顔を見たが、彼は相変わらず無表情で、その状況を静観しているだけだった。

 ユユは、そんなサラスの言葉にも全く動じず、ただ面白そうに俺とサラスを交互に眺めていた。


『サラスにはモコオについて、伝えておかなければならないことがあります。モコオはユユがこの森で保護した者です。見ての通り、子犬の姿をしていますが…… 』


「ガウガウゥ……(――正直、話せるほどのことはない。目覚めたら雪に埋もれてたし、体は犬になってたし、何がどうなってるのか分からなかった。でも、“ニホン”って場所に住んでた記憶と、自分は人間だったってことだけはハッキリ覚えてる。あとは、全部ぼんやりだ。だから、俺自身も自分のことがよく分かってない。)」


 サラスは、その報告を聞きながら、ぴたりと動きを止めていた。サラスのミミズクの瞳が、僅かに興味深そうに瞬いた。


『モコオはマレビトかもしれません。』


 その瞬間、ドリュアの口から放たれた言葉は、洞の空気を再び張り詰めさせた。

 サラスの羽角が、興味と困惑がない交ぜになったかのように揺れ動いた。


『でもモコオはモコオだよ!』


 ユユの声は張り詰めた空気を和ませるかのように暖かい。

 彼女は俺の顔を両手で包み込み、満面の笑みでそう告げた。その真っ直ぐな瞳が、俺の心にすとんと落ちてくる。


――そうだ俺は俺だ、犬でもなければ狼でもないんだ。


 その言葉は、俺の頭の中に渦巻いていた様々な疑問や不安を、一瞬にして吹き飛ばした。

 マレビトだろうが、犬だろうが、狼だろうが、関係ない。俺は俺だ。

「ワフッ!ワフフン!(ユユ!ユユ!!)」

 

内側から込み上げる歓喜に、俺は思わずユユに飛びついた。

 小さな体で全身を使い、彼女の顔や腕に鼻先をグリグリと擦り付け、しっぽを激しく振る。

 感謝を伝えるかのように、ペロペロと顔を舐め回した。

 ユユも「わぁ!モコオ!」と笑いながら俺を受け止めてくれる。嬉しくて、興奮して、もう止まらない。


「ガウガウ!アオォーン!」


 興奮はさらにエスカレートし、俺はユユの周りを駆け回り、喜びの唸り声を上げる。

 フカフカの毛を彼女の体に何度も押し付け、じゃれつき、小さな体で彼女を押し倒す勢いだ。ユユの笑い声が洞に響き渡る。

 サラスも、そんな俺たちのワチャワチャした様子を、興味深そうに眺めている。

その時だった。


『駄ワンコ。いい加減にしなさい。』


 ドリュアの、かつてないほど感情の籠もった、しかし怒気に満ちた声が、寝床に響き渡った。

 その声には、明らかに不機嫌な色が滲んでいた。

 俺はビクッと体を震わせ、ユユの腕の中で動きを止める。しっぽの振りも、ぴたりと止まった。


 ユユの言葉がうれしくて、興奮しすぎて子犬的本能に抗えず、調子に乗りすぎた俺は、やっぱりちょっと人としての尊厳は忘れつつあるのかもしれないが、嬉しい気持ちを抑えることはできないガウガウ。

読んでいただきありがとうございました。


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