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第十話

※執筆にAIツールを使用しています。

※カクヨム様にも投稿しました。

 大樹での暮らしは、俺の想像以上に快適だった。


 凍える外とは裏腹に、洞の中は常に温かく、居心地がいい。

 精霊の恩恵だろうか、時折、微かに心地よい風が吹き抜けるような感覚もあった。

 何より、ユユとドリュアが一緒にいる。

 ……それだけで、妙に安心できた。


 食事は相変わらず木の実や乾燥果物、たまにドリュアがどこからか持ち帰る珍しいキノコなどで、肉とは無縁だったが、ユユが美味しそうに頬張る姿を見ていると、不思議と満腹感を得られた。


 ドリュアは、俺たちの教育係として、髭執事モードを存分に発揮した。

 日中は、洞の中や近くの安全な場所で、ユユと一緒に読み書きや数え方を学ぶ日々が始まった。

 ドリュアは手作りの素朴な木片や石を教材に、異世界語とこの世界の基本的な知識を教えてくれた。


 ユユは木の実や果物の名前を教えてくれたり、時には俺の前足をとって文字をなぞらせたりするが――


『残念ながら、彼には筆記能力がありません。』

 と、ドリュアがバッサリ断言した。


『でも、すうじおぼえたよ?

 モコオ、いちにーさんっ!』


 俺は前足を順に上げた。

「ワフ(1)、ワフワフ(2)、ワフワフワフ(3)。」

 ユユは「てんさいモコオ!」と褒めちぎり、俺の事をこれでもかと撫で回す。

 狼としての尊厳的には不満があるが、気持ちは悪くない。

 むしろちょっと、嬉しい。


 最初は意味不明だった異世界語の数字も、繰り返すうちに自然と頭に入ってきた。

 ドリュアの容赦ない指導と、ユユの純粋な学習意欲に引っ張られ、俺も真剣に取り組んだ。

 おかげで、今では数字の読みや基本的な計算は異世界語でも問題なく理解できるようになったが、流石にこの肉球おててで文字の書き取りは無理だった。

 しかし読みは難しいが、言葉を聞き取る力は少しずつ向上していた。


 特に、ユユとドリュアが俺を呼ぶ「モコオ」という名前は、異世界語でもはっきりと聞き取れるようになった。

 自分の名前を呼ばれるというのは、やはり特別な感覚だ。


 ユユは、俺のもこもこの毛並みが大のお気に入りらしく、しょっちゅう抱きついては「もふもふ!」と喜んでいた。

 俺も、彼女の無邪気な笑顔を見ていると、自分が狼であることすら忘れて夢中になった。


 しかし、快適な生活には思わぬ代償もあった。

 運動量に対して、摂取するカロリーが多すぎたのだろう。


 食生活が木の実と乾燥果物中心になったのだが、俺の体はみるみるうちに丸くなり、以前は振り返れば見る事が出来た、ぴこぴこシッポがなかなか見れなくなっていた。


 ──やばい、モフモフモコモコ度が爆上がりしてる……!


 それに、たしかアラスカンマラミュートは太りやすい体質だと、ネット情報を読んだ記憶もある。

 ……くっ、心は完全無欠な狼王なのだがな!


『もこお、モコモコマンマル!

 さいきょうになった!!』

 ユユが歓声を上げながら飛びついてくる。

 俺はころりと転がされ、ユユと一緒にコロコロと軽やかに転がっていく。

 ……くっ、ちょっと丸くなっただけでこの扱い……!


 毛のせいだ。

 いや、毛皮の下にちょっと、こう、栄養が……。

 だが、俺は狼。

 こんなことで誇りを捨てるわけにはいかない!


 このままでは、ただの肥えた愛玩犬に成り下がってしまう。

 ダイエットのため体を動かさないとまずい、激しめの運動と言えば狩り……そして何より、肉が食いたい。


 あのパサパサの木の実や乾燥果物ばかりでは、肉食獣としてのプライドが許さない!

 俺は転がるのを止め、ドリュアに念話で話しかけた。


「ワフ。(なあ、ドリュア。ちょっと相談があるんだが……)」


『なんでしょう、ワンコブタ。』

「ワフ!

 ガウガウガウ!!(ブタって言った!

 犬ですらない!!……いや、そうじゃなくて。

 俺、狩りに行きたいんだ。

 肉が食いたい。

 それに、最近体が重くて……ダイエットも兼ねてな!)」

 ドリュアはモノクルの奥で目を細め、怪訝そうに宙を漂った。


『狩り、ですか?

 正直なところ、モコオがどれほど動けるのか、分からないのですが……子犬にはまだ早すぎるのではないのですか?』


「ワフワフ!(俺は狼!

 これでもリスやコブウサギを狩った経験はある!)」

 そのやり取りを聞いていたユユが、俺に抱きついたまま目を輝かせた。


『かり!

 ユユもいく!

 モコオといっしょ!』


 ドリュアはため息をついた。


『ユユまで……やれやれ。

 仕方ありません。

 万が一のことがあっては困りますので、わたくしも同行しましょう。

 ただし、何かあれば即時介入します。』


 不承不承といった様子だが、どうやらドリュアもついてきてくれるらしい。

 俺は内心ガッツポーズをした。

 これで安全は確保されたも同然だ。


「ワフッ!(よし、行くぞ!)」

 俺たちは大樹の洞を出て、俺、ユユ、ドリュアの三人で、狩リブートダイエットが始まった。


 森に出ると、やっぱり空気が違う。

 背筋が伸びる。

 いや、腹肉が引き締まる、引き締まってる気が強くする。


 俺は鼻を利かせて獲物の匂いを探る。


「……すぅぅ……クンクン……」


 鼻先をくいっと持ち上げ、深く息を吸い込む。

 鋭敏な嗅覚を研ぎ澄まし、風に乗る微かな匂いを捉える。


 ──来た。

 あの、激辛カレー腐った卵トッピング臭……間違いねえ、魔獣だ。


 嗅覚が、獲物の正確な位置を教えてくれる。

 湿った土、落ち葉、雪の下に眠る木の根、そして――雪が積もったブッシュの向こう側。

 警戒しつつ、一歩、また一歩と慎重に近づいていく。

 そして、茂みの隙間から、赤い瞳が覗いた。


「ワフ……(見つけたぞ、コブウサギ……)」


 ドリュアは、俺が獲物を確認したと見るや、指先に赤い魔力を灯し始めた。


『ふん。

 それでは一瞬で……』


「ワフワフワフワフ!(待て待て待て待て待てえええええええぇぇぇ!)」

 俺は必死に念話で叫んだ。


「ワフワフゥ!(ちょっと待って、それじゃダイエットのならんし、ここは俺に任せろ!

 俺が、俺の力で仕留める!)」

 ドリュアはぴたりと動きを止め、俺の強い意志を感じ取ったのか、わずかに沈黙した後、諦めたようにため息をついた。


『……やれやれ。

 まあ良いでしょう。

 ただし、いざとなればわたくしが容赦なく介入します。

 ユユも、決して油断はしないように。』


 ドリュアはそう言うと、ユユと後方へと下がった。

 これで、後顧の憂いはなくなった。

 俺は、丸くなった体に力を込める。


「ワフゥゥゥ……!」

 低く唸り声を上げ、コブウサギへと向かって駆け出した。

 しかし、一歩踏み出した瞬間、体が予想以上に重いことに気づいた。

 なんか、足が……もたつく。

 重心が、こう……前に寄ってるような、いや腹に肉が……!

 まずい、明らかに太ったせいで動きが鈍い!


 以前なら一瞬で詰められたはずの距離が、やけに遠く感じる。

 コブウサギは俺の動きの鈍さに気づいたのか、赤い目をギラつかせ、こちらへ向かって一直線に飛びかかってきた――


 ―――結果から言えばコブウサギを狩れた、狩ることは出来たのだが、俺の体はボロボロの雑巾かのように満身創痍。

 片目は腫れて視界が狭くなり、鼻血も出てる。


「ガウ……(手強い相手だったぜ、流石この狼王の宿命のライバル!

 畏敬の念をささげ血の一滴まで無駄にせず我が血肉となり……)」


『モコオは馬鹿なのですね。』

 戦闘の興奮と敵へのリスペクト、すべてに冷や水をぶっかけるような冷めた念話がドリュアから聞こえてくる。


「ガ!」


『モコオ!

 ウサ!

 モコモコワチャワチャ、カワイイつよい!』

 ユユはなぜだか八重歯を見せてニコニコで喜んでいる。


「ガウガウ!

 ワオン!!」


 ……おい!

 俺結構ぼろぼろだよ!

 そんなワチャワチャとかほのぼの感ある戦闘じゃなかったでしょ!

 それに馬鹿って!

 そんな感想ひど過ぎだろドリュア!

 いくら温厚で心の広い俺も怒るよ!!


『無知と言うのは此処まで罪深いことなのですね。』


 ドリュアからはため息とともにあきれ果てたような念話がある。


『それではもう一度獲物を探してください。

 私がウサギの狩り方を教育してあげましょう。』


「ワフ……(え、マジで?)」

 ……いや、教育とかそういうの、今じゃなくても……

 俺は目を剥いた。

 疲労困憊の上に、足元の雪で何度も転んだせいで、体中が地味に痛い。

 ケガしてるし、筋肉痛っぽいし、気のせいかちょっと熱あるかもだし、お尻もいたい。


「ワフゥ……(な、なあ、ユユも、もう眠いんじゃないか?

 俺もなんだよ。

 だから、寝ような、な?

 今ならもふり放題サービスだよ?)」


 ドリュアは微動だにせず、ただ、冷え切った視線を俺に注ぎ続けた。


『ユユ、モコオを抱っこしてあげなさい。』


『はいっ!

 ユユげんき、モコオ、イタイイタイなくしてあげる!』

 ふわっとユユに抱きかかえられる俺。


 ……ほんとに行くの?

 これ、ほんとに行くんですか……?

 俺は、ドリュアの容赦ない視線から目を逸らし、森の雪景色を見つめることしかできなかった。

読んでいただきありがとうございました。


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