表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/26

第一話

はじめまして。今回、初めて作品を投稿します。


至らない点も多いかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

どうぞ、温かい目で見守っていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。


※執筆にAIツールを使用しています。

※カクヨム様にも投稿しました。



 ――冷たい。

 目を覚ました瞬間、まずそれを感じた。

 皮膚の感覚とはどこか違う、体の表面がふわっと冷気に包まれるような寒さ。

 それなのに、不思議と不快じゃなかった。

 ふと、目の前に広がる光景に言葉を失う。

 雪景色。

 テレビやネットの画面越しでしか見たことのない、あまりにも非現実的な純白が、視界のすべてを支配していた。

 白い森。舞い散る雪。

 静寂の中でキラキラと輝く、冷たくも美しい世界。

 風一つないその空間では、雪の結晶がゆっくりと――まるで時間が止まったかのように――降りてくる。

 一本一本の木の枝が白い綿帽子を被り、陽光を受けて、無数のダイヤモンドを散りばめたように煌めいていた。

 だが、それを味わう余裕があるほど、俺の頭の中は平穏じゃなかった。

 ……なんだ、ここ。

 出た“声”は、声じゃなかった。

 喉から漏れたのは、小さな――

「クゥン……」

 という、情けない鳴き声。

 その瞬間、胸の奥に冷たいものが走る。

 心臓がぐっと縮こまり、ぞわりと背筋が粟立つ。血の気が引く感覚。

 言葉が出ない。

 喋れない。声にならない。

 ……おかしい。これは、尋常じゃない。

 焦燥が、心の隅からじわじわと這い上がってくる。

 ……落ち着け、俺。まずは状況確認だ。俺は――誰だ?

 ……思い出せない。

 名前も、顔も、家族も、友達も――なにもかもが、真っ白だ。

 頭の中がノイズみたいに霞んでいる。

 心の深いところに、ぽっかりと、空洞がある。

 けれど、妙に現代的な知識だけはこびりついている。

 コンビニのフライドチキン。ネットスラング。洗濯物の干し方。

 四則演算や方程式、円の面積の求め方は――2πr? ん? 違う違う!πr²だ!

 ふぅーやばいやばい。

 数学は得意じゃないけど、基礎的な公式ぐらいは覚え……

 ……いや、違う。今はそれ関係ない。

 思考が現実から逃避しようとしている。

 もっと、生物として必要な情報だ。

 類人猿が二足歩行を始めたことで獲得した手の自由が、道具の創造、火の利用、集団での狩猟……って違う違う!今それいらない!

 落ち着け、お・ち・つ・け、俺。まずは状況――

 ……そう思った瞬間、視界の端に、自分の“手”が映った。

 白とライトグレーのふさふさした毛に包まれた、小さな足。

 どう見ても、前足だ。

 ……え?

 ………えぇ?

 前足? なんで俺、四足歩行してんの?

 慌てて後ろを振り返る。

 そこには、ピンと立ったしっぽがあった。

 ピクリと動いて、ぴこぴこと揺れている。

 ……動物?

 ……まさか……狼?

 ……そうだ、狼だ。きっと、俺は狼――

 俺は、何か別の“存在”になっている――それが直感的にわかる。

 全身にじっとりと冷たい汗のようなものがにじみ、手足が震え出す。

 心臓がドクドクと脈打つたび、全身がビリビリと過敏になっていく。

 怖い。

 なんなんだ、この世界は。俺の体は、俺じゃない。

 こんなふうに、何もかもが変わってしまうなんて。

 ……落ち着け、俺。深呼吸だ。

 大きく、ゆっくり、息を吸って――

 すぅ――……はぁ――……すぅ――……………

 その瞬間だった。

 鼻腔を、風が通った。

 冷たい空気の粒が、一気に肺の奥まで流れ込んでくる。

 けれど、ただの空気じゃなかった。

 香りが――流れ込んできた。

 雪の匂い。乾いた針葉樹の香り。湿った苔の匂い。

 獣の毛のにおい、どこかに隠れている鳥。

 風の中に混じる無数の情報が、明瞭に、鮮やかに脳を打つ。

 視覚よりも先に、聴覚よりも前に――

 世界が、匂いで構成されていく。

 ……俺、匂いで森の景色がわかる。

 いや、それだけじゃない。

 風の向こうにある“生き物”の存在すら、感じ取れる。

 足跡すら嗅ぎ取れる。

 何かの巣穴、木の実の落ちた場所、地形の凹凸――全部、匂いに含まれている。

 ……これは――この嗅覚、凄すぎないか?

 犬の嗅覚は人間の何千倍も優れていると聞いたことがある。

 だが、それにしてもこれは――

 なにか、特別な力を授かった……のか……?

 普通の動物じゃない。もっと大きくて、力強くて、ケモノとしての誇りを持った、そういう――

 ……狼?

 ふと、“狼”という言葉が再度頭をよぎる……

 だが今は、そんなストイックなパーフェクトウルフじゃない。

 丸い。小さい。ふわふわで、もふもふで――どう見ても子狼?

 ……おかしい。おかしい、だろう?

 この丸さ、このちんまり感、この手足の短さ。

 理想の“狼”とは、どう見てもかけ離れている。

 どうして、こんな姿に?

 ――いや、それ以前に、どうして俺は……四つ足で立ってる?

 毛だらけ? 視界がやけに低い。

 鼻先が地面についているのに、立っている感覚。

 これは……夢? いや、現実なのか?

 わからない、わからない。どうして、こんな……!

 ――と、思った瞬間だった。

 「ワフッ!」

 突然、体が動いた。

 雪の感触に誘われるように、自然と前足が跳ね上がる。

 白くふかふかの雪を蹴って、森へ――全力疾走。

 走る、転がる。跳ねる、転がる。

 体が軽い。音が響かない。

 風が頬――いや、顔の毛をなでて通りすぎる。

 風が顔の毛をなでるたび、心がわくわくする。

 「ワフッ! ガウガウガウ!」

 もう止まらない。理性なんて置き去り。

 これは衝動。これは快楽。これは本能。

 雪の冷たさが足の裏に心地いい。

 ふかふかの斜面を駆け上がっては滑り落ち、回転しながら地面を転がる。

 一心不乱。一心不乱に野を駆け回る。

 意味なんてない。理由もいらない。

 ただ、この雪に触れたかった。

 駆け抜けたかった。

 この大地を感じたかった。

 「アオォォーーーン!」

 雄叫びが、つい口から漏れる。

 満たされた。自由だ。

 気高い……ような気がする。

 そのまま調子に乗って雪を掘りまくり、跳ねて、また転んで。

 楽しい。ただただ楽しい。

 血沸き肉躍る。血&肉&楽しい!

 最後はちょっとした窪地にずぼっと落ちる。

 「……ワフッ!」

 ……やべぇ。

 息が切れるほど全力で走ってた。

 いや、遊んでた。遊び倒してた。

 仰向けのまま、小さく「ハァ、ハァ」と息を吐く。

 ……やべぇ……

 ……俺、なんでこんなテンション高かったんだ……?

 いや、きっと、あの一瞬のパニックと絶望が、この幼い体に宿る動物的な本能を、無理やり引きずり出したんだろう。

 だって、この体は勝手に動いて、楽しそう――

 で、気づいたらこんなことになっていた。

 俺の理性なんて、その強烈な衝動の前には無力だった。

 そう、これは、精神的な自己防衛の一種だ。きっと。

 そしてようやく、冷静さが戻ってきたので、自分で見える範囲で体を確認する。

 白とライトグレーの、柔らかそうな毛並み。

 鼻先は黒くて丸くて、手足は短い。

 ……狼にしては、丸くてもふもふで、手足が短すぎないか?

 ……狼ってもっとこう、シュッとしてないか?

 ……さてはあれだな、絶滅したといわれるニホンオオカミ!

 ニホンオオカミ、足短めだったはず!

 国立科学博物館のはく製みたことあるし!

 くそー、ニホンオオカミかー……!

 ワンチャン、狼王ロボみたく成長する可能性もまだ、まだあるはず!

 それにしても、まるまるで、もこもこで、もふもふで、しっぽぴこぴこで、手足短すぎで……

 ふと、脳裏に何かが浮かぶ。

 ……アラスカン・マラミュート……?

 どこかで見たことがある。テレビかネットか、あるいはペットショップか。

 成長すればがっしりした体格で、狼っぽくもあり、けどどこか優しさと威厳を感じさせる犬種。

 そう、今の姿はどう見ても――子アラスカン・マラミュート。

 精悍さよりも、まんまるな愛嬌の塊だ。

 ……

 …………

 ……………

 ――いや、狼なはず!

 俺は誇り高き、孤高の狼なはず!


 ――と、本人は思っているが、

 中身は日本人で、“狼に転生した”と勘違いしてしまった。

 そんな子犬アラスカン・マラミュートが、雪の大地に誕生した。

読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ