表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

4話

「出来損ないのミーシャも、役に立つ時があるんだな」

「本当ね。何もできないと思っていたのに……」


「お父様、お母様、言い過ぎですわ。でも、ミーシャがお飾りに選ばれるなんて、可哀想に」


 舞踏会でアーイス殿下の婚約者に選ばれ、屋敷に戻った直後に浴びせられた言葉。


 もし、ここが小説の世界だと知らなかったら、少しは傷ついたかもしれない。でも、愛されないことはとうにわかっている。期待するだけ無駄だ。


 今、重要なのはただひとつ。死のフラグを折ること。


 ⭐︎


 アーイス殿下の婚約者となり、王城へ来て、ひと月が経つ。最初は「殿下の婚約者なんて嫌」と思っていたけど。


 用意された部屋は実家より豪華だし、冷たかった屋敷のメイドたちよりも、ここではみんな親切だ。ドレスだって、お姉様のお下がりじゃない新品で、美味しい食事が食べられる。


 これまでの生活とは比べものにならない、快適さだ。


 ――あとは、死のフラグさえ乗り越えられれば、この生活が続けられるかも? それとも、殿下に頼んで、別の屋敷をもらうのもいいかもしれない。


 小説のミーシャとは違い、私はアーイス殿下への愛なんてない。だから、殿下が聖女といくら親密にしていても、全然気にならない。


 それどころか、今まで受けられなかった教育を受けられるだけでも、十分ありがたい。


 ⭐︎


 午後、暖かな日差しが差し込む執務室。

 今日も王妃教育を受けていた、授業が終わる。


「ミーシャ様、本日の授業はこれで終了です」

「先生、ありがとうございました」


 先生を見送り、教材を片付けながら、小さく息をつく。


「今日の、授業もためになったわ。さて、次は書庫で本を読もうかな?」


 相変わらず殿下は聖女に夢中だから、私に会いに来ることなんてない。おかげで、授業が終われば自由時間だ。


 ⭐︎


 メイドに頼み楽なドレスに着替え、書庫へ向かう途中、庭園へ向かう殿下と聖女カオリの姿を見かけた。腕を組み、周囲の目を気にする様子もなく、親密そうに歩く二人。


 ――あいかわらず、仲がいいわね。これから、二人でお茶でもするのかしら? できれば、私に気づかないでほしい。


 そう思った矢先、カオリがこちらを振り返る。


 その瞳が私を捉えた瞬間、胸がざわついた。案の定、彼女が殿下に耳打ちすると、少し不満そうな表情を浮かべたアーイス殿下が、私に声をかけてきた。


「ミーシャ嬢、王妃教育は終わったようだね。今日は天気もいいし、一緒に庭でお茶をしないか?」


「庭園で、お茶をですか? ……いえ、申し訳ありません。これから書庫で勉強する予定ですので、お気遣いなく」


 スカートの裾をつまみ、丁寧にお辞儀をする。

 王城のコックが作るケーキと、メイドが淹れるお茶は絶品だと知っているだけに、少し後ろ髪を引かれる思いだったが。それ以上に、一人で過ごす、時間のほうが大事だ。


「勉強? それは残念だな。カオリ、行こうか」

「え? ええ、行きましょう」


 殿下の満足そうな、笑顔はどうでもいい。

 けれど、カオリが一瞬眉をひそめた姿が気になった。それは、まるで私が断ることを予想していなかった、かのように。


 ――あ、もしかして、このお茶会……。小説の中に書いてあった、二人の甘々なやり取りを、見せつけられる場面?


 殿下を愛する、小説のミーシャは傷ついて、部屋で泣く展開だけど。好きでもない二人の、甘々は正直どうでもいい。


 書庫へ向かいながら、小さくため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ