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08. 社交界のエピュキリアン

※ 2025/7/2 申し訳ありませんが、前7話の文字数が多いので分割しました。

<(_ _)>

◇ ◇ ◇ ◇



 「奥様、本日の黒薔薇をお持ちいたしました」


  ノックの音がしてメイドが声をかける。


 「勝手に入ってよくってよ」


 「失礼いたします」とメイドが花瓶に生けた黒薔薇を持ってきた。


 

 イブリンは寝室には毎朝、見事な黒薔薇を飾るようにメイドたちに指示していた。


 それはまるで亡きロバートへの愛の証なのだろうか。

 

 漆黒の黒薔薇たちは、まるで“黒い喪服を着た貴婦人”の如く、堂々と咲き誇っていた。


 

 イブリンは『恋愛ごっこ』をする男たちと快楽には耽ったが、どこか冷淡で一線の距離を常に引いていた。


 その原因は幼い息子のユーリがいたせいだ。

 

 ユーリは亡き夫のロバートに顔立ちがそっくりだった。

 

 碧眼で金髪の巻毛がとても愛くるしい小公子だ。

 

 イブリンはユーリをことのほか溺愛した。

 

 

 「この子がいれば、他の男なんて夜会に連れて歩くアクセサリーで十分だわ」

 

 イブリンはスヤスヤと寝息をたてる息子の寝顔を、聖母像のような微笑で見つめていた。


 せめて息子が成人となり、公爵家の家督を正式に継ぐまでは、母として息子を悲しませてはならない、

 

 

 だがそうはいってもイブリンもまだ若い未亡人だ。

 時には1人寝が淋しい長い夜もあった。

 

 そんな時、亡き夫に似たダンディな殿方の誘惑に、イブリンも一線を越えたくなった事もあった。だがそれを抑止できたのはやはりユーリだった。

 

 例えイブリンのその時の感情が揺れ動き、キスや抱擁までは許しても自ら男をベッドに誘わないし、また男が彼女を誘う口実に屋敷に居座ったとしても、必ず寝室は別にした。

 

 面白い事に外泊した男たちは、己の魅力を誇示したいのか『イブリンと睦まじい時を過ごした』と男同士のサロンの酒席で必ず誇張した。


 社交界でも評判の黒薔薇の毒婦を落としたという事は、プレイボーイの最たる証として彼等も世間も好意的に捉える。


 実際、一晩泊まったのに『何もなかった』などとはけっして言わぬ、


 貴族社会のジェントルマンとはおかしなものだ。


 それでもイブリンを諦めきれずに、大胆にも夜這いに来る男も何人かはいたが、イブリンの屋敷にはボディガードの護衛騎士たちが幾人もいた。


 騎士らは夜中に、彼女の寝室に忍び込もうとする男たちをコテンパンにやっつけた。


 護衛騎士にやられた男たちは、高位貴族という己の自尊心があるので決して自分からは口外しなかった。


 こうしてイブリンは社交界では殿方をとっかえひっかえ手玉にしてる『黒薔薇の毒婦』と勝手にみなされていた。

 


◇  


 そもそもイブリンは聡明だった。

 言い寄ってくる男たちを最初から線引きする。

 

 度を越えた男たちの殆どは、彼女があえて過去の復讐のために誘った男たちだった。それ以外は皆、スマートな付き合いをする殿方ばかりだ。

 

 彼女に選ばれた者は、イブリンが高位貴族の未亡人であると最初から(わきま)えている。


 それに彼等はお互い注意し合っていた。


「ハートランド公爵夫人には気をつけろよ、“軽い火遊び”ならまだしも本気になると、自分たちの地位が危うくなるぞ!」

 

 彼等は暗黙の了解で、ソフィスティケートの軽い付き合いを心得ていく。




 イブリンの夫が亡くなってから、更に数年が過ぎた。


 最初イブリンは、自分を虐めた令嬢たちの復讐心で男遊びを始めたが、元々頭の回転もよく自分に従う令嬢や夫人たちには、施しも気前よく提供したので、社交界でもイブリン派と称する巨大勢力を構築していった。


 それは本来持っていた彼女の性格も功を奏した要素もあった。

 

 元々、内面はさばさばした性格なので、一代かぎりの男爵令嬢らしく『自由をモットー』とするフラッパー気質なところも、特に若い男女共に人気を博したのだろう。

 

 こうしてイブリンは押しも押されもせぬ社交界のエピュキリアンとなり、彼女を嫌悪する人々からは“黒薔薇の毒婦”と存在を示していった。






※ 2025/7/4 加筆修正済み

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