07. 未亡人イブリンの復讐
※ イチカケイチ様、ピンガ730様、誤字脱字報告ありがとうございました。
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※ 2026/2/4 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
夫の一周忌が明けると、早速イブリンは夫のいない淋しさを紛らわしたいのか、屋敷で盛大な舞踏会を開催する。
夜な夜な若い男女や社交界のエキュピュリアンたちが集った。
色々な余興を催して、紳士淑女の交流も深めていくイブリンは、見事に女主人の役割を果たしていく。
時には本邸で仮面舞踏会も開催した。
赤や青や緑などの仮面を施した紳士淑女が集う仮面舞踏会はとても好評で、王族がお忍びで舞踏会に参加する時もあった。
王子や王女、国王や王妃たちもたまには羽目を外したくなるようで、イブリンは主催者として彼等の中心人物『夜の女王』のような存在になっていく。
もちろんイブリンも参加する殿方たちと、夜毎パートナーを取り換えて踊ったり賭博や酒を愉しんだ。
そして当初の計画通りイブリンは参加した殿方の中で、若い妻を持つ男ばかりを遊び相手として狙っていった。
そもそもこの舞踏会を開催しようと決めた目的は、イブリンが貧乏男爵令嬢の時、学園で自分を虐めた公爵令嬢とその取り巻き令嬢たちへの復讐のためだった。
イブリンの目的は彼女たちの大切な夫を誘惑することだった。
──あの頃、自分を虐めていた令嬢たちも、ほぼ全員結婚して現在高位貴族の奥方になっていた。
見てなさい、今こそあの時の仕返しをしてやるわ!
イブリンを虐めた彼女たちは、自分の夫がイブリンの夢中になると知るや否や、妹のケイティのように心が折れて、社交場でもイブリンに飛びかかろうと、常軌を逸した夫人までいた。
中には浮気された夫人の1人は、ノイローゼになってしまい発狂した奥方もいた。
その発狂した夫人こそイブリンを一番虐めていた、元クラスメートの公爵令嬢だった。
◇
あの高慢ちきの公爵令嬢は、今は公爵夫人となっていたが、夫とは仲が悪かった。
その噂を知ったイブリンは、彼女の夫を密かに公爵邸へ呼んで、酒と流し目と豊満な胸元を見せて誘惑をする。
好色夫はすぐに罠にかかった。
イブリンはこの夫と何度か館で睦まじくしていると、わざと人を使って妻の耳に入るよう噂を広めさせた。
元公爵令嬢はものの見事に罠にかかった。
※
ある日、イブリンの屋敷にその女が逆上して怒鳴り込んできた。
「あなた、私の夫を誑かしてどうする気?」
元公爵令嬢、今は公爵夫人である。高慢ちきな態度は昔とまったく変わらなかった。
イブリンは冷ややかな目線で言った。
「別に……どうもしませんけど。でもご主人はやたらと私に付きまとってきますわ」
「ま、あなたが誘惑したからでしょう。未亡人だからって私の地位を狙ってるの?」
「そんな……滅相もない、既に私は未亡人となりましたが、公爵の身ですわ。おかしな言いがかりしないでくださいまし」
「ふんどうだか、いい、悪いけど私は夫とは死んでも別れないわよ──だけどあなたのせいで矜持をズタズタにされたわ、親戚たちは夫に浮気された気の毒な女だと、私を茶会の席で噂ばかりしているのよ!」
「そんなの無視なさればいいでしょう? 貴族社会では殿方の浮気なんて良くあることですわ」
「ま、開き直ったわね、いいわ、貴方がその気なら『イブリン・ハートランドは“世にも稀に見るふしだらな未亡人”って社交界中にいいふらしてやる!」
「ええどうぞ、私はちっともかまいません。昔、中等学園であなた方から、バケツの汚水を頭からかけられた時よりずっとマシですもの」
「まあ、そんな昔の事を未だに覚えていたの?」
「そんな昔ですって?──これだから高位貴族の令嬢は嫌なのよ。ええ、あなたには昔でも私には、つい昨日のように覚えているわ!」
「……あきれた、これだから下位貴族の出身の妬みは嫌なのよ。いいわ、こっちも容赦しないわ。よく覚えてなさい!」
イブリンと元公爵令嬢は、この後も聞くに堪えない口合戦で罵りあったが、彼女は捨て台詞を残して去っていった。
◇
だが──その後、高慢ちきな公爵夫人は二度とイブリンの前に現れなかった。
なぜなら、彼女はイブリンの家に行った後、浮気した夫と何度となく言い争いとなった。それでも夫はイブリンに骨抜きにされてしまったのか『イブリンとは別れない』と言いはる。
とうとう彼女はそんな夫にヒステリーを起こして、錯乱状態になり、ぶっそうな刃物沙汰まで引き起こした。
もともと彼女はその前からずっと心を病んでいたのだが、イブリンの件で一気に精神が爆発してしまったのだ。
そのまま彼女は精神面の理由で、夫と強制離婚させられて、実家に戻った。だが病は改善せず地方の精神病院に入れられ、余生はそこで暮らしたという。
だが、よくよく聞くと彼女がヒステリー症に陥ったのは、イブリンだけのせいではなかった。
以前から公爵夫妻は仮面夫婦だったようで、その原因は子どもが出来ない事だった。
ここ数年『公爵家の後継ぎを産めない本妻』と周りから陰口を叩かれて、さらに夫の浮気相手が昔、自分が軽んじていた貧乏令嬢のイブリンだと知る。
その屈辱たるや否や、矜持の高い女には測りしれなかったのだろう。
こうしてイブリンは、長年恨んでいたクラスメートの公爵令嬢の復讐を見事に果たした。
◇ ◇
そのほかにも元公爵令嬢の取り巻きたちの夫にもイブリンは同じように誘惑した。
イブリンは館で舞踏会を開催し、元クラスメートだった彼女たちを夫同伴で招待した。
そして敢えて彼女たちの夫と何度もワルツを踊ったり、カクテルを飲みながら、これ見よがしにベタベタと抱き合ったりして、妖しい色香で彼女等の夫を次々と骨抜きにしていった。
彼女らも昔のイブリンを知っていたので夫がイブリンに墜ちていくのが口惜しかったが、今ではイブリンは公爵家の大金持ちの未亡人だ。
彼女を取り巻くブレーンも超一流で隙がない。
公爵家は広大な領地を持つ。お互いの立場が見事に逆転していた。
こういう状況下の中、社交界ではいつしかイブリンを“黒薔薇の毒婦”と陰で噂をしだした。
そしてイブリンを嫌う夫人たちもただ黙っている訳ではなかった。
彼女らは徒党を組んでイブリンを失墜させようと目論んだが、そこはイブリンも狡猾で彼女たちの罠には決して引っ掛からなかった。
表向きにはイブリンは男たちとの度が過ぎた逢瀬のスキャンダルは絶対に見せなかったし、毒婦のようなイブリンの外見は、何人もの男と浮名を流していると噂されてはいたものの、実際は閨の関係までの進展は一度もなかった。
毒婦とは名ばかりで、ただの噂に過ぎなかったイブリンだが真実は誰にも気づかせなかった。




