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04. お姉さまは黒薔薇の毒婦

※ 2025/6/30 修正済み

◇ ◇ ◇ ◇



「ロイド様はあたしと解消したかったのかも、だって彼はまだ21だもの……殿方は成人になったばかりだわ。それに」


「それに何よ?」


今度は、イブリンが面白げに聞き返した。


「それに⋯⋯あたしからねだらないと彼はキスもしてくれない! 元々ロイド様に好きだって告白したのは私からだったのですもの〜!」

 

「わあああ……」と(うな)るように泣きだしたケイティは、テーブルに突っぷした。


「ケイティお姉様⋯⋯」

 

 アリッサは同情したがイブリンはヤレヤレと呆けた顔をして言った。


「やっぱりね。そうだろうと思ったわ。まあロイドって顔だけはイケメンだもんね。ケイティ、あたし言うのよそうかと思ったけど、この際だから正直に言っちゃうわね」


「……なによ?」


 ケイティは姉の言葉に泣き止んだ。


「あの時ロイドは私にこういったのよ!『イブリン様、今夜どうか僕とご一緒しませんか? とっておきの漆黒ワインで君の黒曜石の輝く瞳に乾杯しましょう!』って口説いたのよ。ふふ子持ちの私にね。あ、だけど誤解しないでね、もちろんあたしはきっぱりと断ったわよ」



「いやああっ、聞きたくないっ!」


 ケイティは両手で耳を(ふさ)いだ。



「ね、これでわかったでしょう。そんな軽薄な男、向こうから解消してくれて良かったのよ!」



「何が良かったのよ、私はロイド様が好きなの! ええ確かに私は、叔母様たちがあざ笑う21歳よ、行き遅れの大年増よ、おまけにガリガリ女よ!誰もこんなあたしを嫁には貰ってはくれない。あ~だから私にはロイド様しかいないの!なのになのに、この()()があ!」


 ケイティはイブリンに大声で泣き叫んだ。



「はあ?私が売女ですって?」

 

今度はイブリンの額に青筋がピキッと立った。



「ちょっとケイティ、黙って聞いてれば姉のあたしに向かって“売女”とは何なの?」



「ふん、姉さまは“売女”でなければ“悪女”よ、姉さま知ってる?社交界ではハートランド公爵未亡人は“黒薔薇の毒婦”と揶揄されてるわ」


「あら、私が“黒薔薇の毒婦”て言われてるの? まあそれは……おほほ、まあまあ素敵じゃないの……」


 イブリンは額のピキピキがスッと消えて、嬉しそうに頬がバラ色に染まった。


「は、呆れた、お姉さまったらよく笑っていられるわね。黒薔薇の毒婦って陰で(なじ)られてるのが、それほど嬉しいの?」



「ふんケイティ──あなたね、ロイドに捨てられて可哀想だと思って、流して聞いてあげてたけど流石に売女はないわ──いい事、そのレースを何重にもあしらったドレスも、その大きな真珠の耳飾りも、その高級バッグも全部、私があなたに与えたようなものよ。私が公爵夫人の地位にいなかったら、あなたとアリッサはお父様が死んだ時、路頭に迷って野垂死んでたか、若しくは王都の孤児院行きだったのよ!」


「くっ!」


 ぐうの音も出ないケイティ。

 


 それもそのはずだった。

 

 ただでさえ傾いていた実家の男爵家。

 

 母親の後を追うように父親が亡くなった後、親戚は冷たく3姉妹を率先して援助してはくれなかった。


 もし、あのまま誰も手を差し伸べてくれなければ3姉妹は、路頭に迷っただろう。


 

 その時、おりしも遠い縁戚のハートランド公爵が、自分の娘くらい年の離れたイブリンを妻にしたのだ。

 

 ケィティとアリッサは、姉の嫁いだ先の恩恵で、この広大な公爵邸で裕福に暮らす事ができている。

 

 それは紛れもない事実だった。



 アリッサがおろおろしてケイティの肩に触れた。


「そうですわ、ケイティ姉さま。どうか落ち着いてくださいまし。イブリンお姉様の仰る通りよ。私たちはイブリンお姉様に感謝こそすれ、その……黒薔薇のごにょごにょなんて暴言を言っては駄目ですわ。ケイティお姉さま、それよりどうかしら、ロイド子爵様ともう一度じっくりと話合ってみたらよろしいのでは……」



「よしなさいアリッサ。浮気男はどこまでいっても駄目よ。」


「うるさああああい!──お姉さまみたいな毒婦にだけは言われたくないわ、この性悪女(しょうわるおんな)!」


 逆上したケイティは、アリッサを押しのけてイブリンに掴みかかった。


「ひっ!」

 

 姉妹同士の取っ組み合いのケンカとなっていく。


「や、ちょっと離しなさいよ!」

「この性悪女が、馬鹿たれが!!」


─ガッチャーン!──


 茶会のテーブルは姉妹たちの取っ組み合いでひっくり返り、白磁のティーカップやソーサーが床に落ちて粉々に砕け散ってしまう。


「痛い!ケイティ、あんた、あたしの髪をひっこ抜いたわね!」

「ふん、そのくらい抜いたって何でもないでしょう!」


「許さない、妹だからって手加減しないわよ!」

「こっちだって!」

「嫌、痛い!」

「キャ──ッ!」


 2人はギャアギャアと罵りあいながら掴み合いのケンカをした。

 

 ケイティはイブリンの髪の毛をきつく掴み髪の毛を何本も抜く。

 

 イブリンはイブリンでケイティの頬を思いっきり引っぱたいた!



「ああ……あ……ケイティお姉様、イブリンお姉様、お止めになって! 誰か、誰かあ~早くきて!」


 アリッサがおろおろして大声で従者たちを呼ぶ。


「「お嬢様方!」」


 サンルームの奥にいた従者とメイドたちが、2人のケンカに気付いて慌ててかけ寄ってきた。


「「お嬢様方、どうかおやめくださいまし!」」

 

 ようやく従者たちは、アリッサと一緒に2人をなんとか引き離した。


 

 イブリンとケイティはハァハァとお互い息切れしていた。

 

 イブリンの綺麗にアップにセットしてた髪は無惨にも垂れ下って酷い有り様だった。

 

 ケイティもイブリンに平手打ちをくらった際に、左頬を切ったらしく顔中血だらけになっていた。


「ひぃケィティお嬢様、お顔が!」メイドがびっくりする。


「え、何?」


 自分の頬を手に当てたケイティは、血だらけの自分の手の平に仰天した。



「き゚ゃああああっ──血が、血……!」


 ケイティは凄まじい悲鳴を上げてそのまま失神してしまう。


 


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