五章 特殊報告会議
宿幼決戦から五年経った五月十日。
定例会議に参加するため、四方にある剣士団の総長が御所に集まった。
ヒルデガルトと戦ったラーフィアはそれ以上神護国に近づくことなく去っていった。
とりあえず、危機は去った。しかし、心配だ。
私の顔に文字でも浮かんでいたのか、白梅が声をかけてくれた。
「心配?」
白梅は梨々香を見てそう言った。
「七陽の勇者ではどうにもできそうにありませんからね・・・」
梨々香はお茶を淹れながらそう言った。
「宿幼と共生していた頃ラーフィアと話したことがある。でも、ラーフィアの強さはイマイチわからなかった」
「奴ともなれば白梅の意思が存在しているとわかっていたでしょう。そして、宿幼が裏切ることもわかっていた」
「全部わかっててどうして止めなかったんだろう。メイジーがラーフィアの意識を借りなかったっていうのも不思議で仕方ないし」
「操意は主従どちらにも大きな負荷がかかる。主戦力とも言える暗黒神を使い捨ての道具だと考えるほど愚かではないのでしょう」
梨々香はそう言うと、急須を置いた。
昔、ラーフィアに敗れた者たちはラーフィアについて語った。
皆同じ印象を抱いたのか、どれも似たような話だった。
「感情がない・・・敵意が無さ過ぎて不気味だった。人形と戦ってるのかと思った」
「あれは世にも恐ろしい殺戮人形ですよ。何の感情も感じられない。生き物を作業のように殺しやがるんです」
「冷静というより、感情がないという表現が正しいように思えます・・・本当に人形が動いているようだった・・・」
そんな話からラーフィアがどんな存在であるか考えていたため、ラーフィアと初めて出会った時は驚いた。
その美しさは確かに人形のようだった。
しかし、感情がないという表現には首を傾げたくなった。
強烈な殺意と強烈な好奇心を感じたからだ。
行動も熟練の武者であり、こちらの動きをしっかりと見て判断して動いていた。
みんなが語っていたラーフィアの人物像、もとい神物像とは全くと言っていいほど違った。
「先に行っててくれ」
梨々香は白梅と白翔を見てそう言った。
「わかった」
白梅と白翔は梨々香を見てそう言った。
白翔はお茶が入った湯飲みとお茶菓子が乗ったお盆を持った。
「・・・」
白梅は襖を開けた。
白梅が現れると、場に居る者たちが一気に冷や汗をかいた。
(そうさ、今日は戦後二回目の特殊報告会議・・・特殊報告会議は地獄のような雰囲気になる会議だ)
お盆を持った白翔は七陽の勇者とその関係者たちを見て笑んだ。
「七陽の勇者以外、帰るなら今の内よ」
白梅は椅子に座りながら言った。
白梅の言葉を聞いた七陽の勇者の関係者たちは逃げるように帰った。
ヒルデガルト以外の七陽の勇者は黙ったまま冷や汗を垂らしている。
神護国の鞭役である白梅は七陽の勇者から恐れられている。
この時間は一分が一時間に感じるほど緊張感があるのだという。
「お待たせしました」
梨々香はそう言いながら急いで部屋に入って座布団に座った。
「本日の会議は特殊報告会議です」
私はそう言うと、淡々と話を続ける。
「先日、神護国東部の国外観測員から死星ラーフィアらしき存在の目撃情報が届きました。目撃したであろう時刻にあった観測記録の神気は+域であった。そして、その神気濃度は百万PEをゆうに超えていた。この記録からラーフィアで間違いないと結論付けました。ラーフィアは神護国から一度離れた後、四柱結界の南柱に接近する可能性があります。ラーフィアの行動パターンは今後も計算していきますが、奴も生物です。生物である以上、計算が当てはまる可能性は極めて低い。各剣士団は気を抜かず、常に臨戦態勢で居るように」
私の話を七陽の勇者は黙って聞いていた。
集中して聞いている者、放心状態になっている者、一部の七陽の勇者からはラーフィアと戦いたくないという雰囲気すら感じる。
現在の勇者と旧世の勇者、なぜこうも違うのか増々分析をしなければならない。
特殊報告会議が終わり、七陽の勇者が御所を出た
七陽の勇者は御所の外で待機している各剣士団の馬車に乗り込む
次回六章 七陽の勇者たち




