四章 死星に起きる異常
僕は何かに引き寄せられるように四柱結界の東柱に立って神護国の外を見た。
そこで目撃したのは、神護国に接近するラーフィアだった。
僕は旭日の勇者として一早く迎撃に出た。
国外監視所の職員が観測して緊急会議が開かれる前に確認する。
僕の考えを否定するために。
「・・・ラーフィア・・・」
僕が見たのは、髪が薄赤色に変色し、片側の邪眼が赤色に変色し、顔にできたヒビが赫色の神気結晶で固まったラーフィアだった。
一歩、また一歩踏みしめるように歩みを進めるその姿は何かを求めているような、何かを探しているような様子だった。
「なぜ梨々香がこの神を死星と呼んだのか・・・やっとわかった」
ラーフィアとの戦いの中で馴染みがある圧迫感と緊張感を感じた。
そして、僕はラーフィアと戦う中でなぜ梨々香がラーフィアを死星と呼んだか理解した。
梨々香がこの死星の正体を隠そうとしていた理由も、この死星をずっと避けていた理由も全て理解した。
僕の考えは当たっていた。
「旭日!烈光!!」
旭日の盾を構えた僕は旭日の盾を振り回した。
旭日の盾が放つ強烈な光でラーフィアの視界がふさがっている間に僕は界を生み出して界の中に逃げた。
界を抜けて投げ出された場所は、梨々香の自室だった。
なぜか私の部屋に親友が飛び込んできて、その親友のせいで体中絵具塗れになったわけだが・・・
「流石にオテンバが過ぎると思うよ」
頬杖をついた梨々香は蔑んだ目で仰向けに寝転がったヒルデガルトを見てそう言った。
「悪かった」
ヒルデガルトは梨々香を見てそう言った。
「この形なんで許してくれ」
ヒルデガルトは上半身を起こしてそう言った。
「ラーフィアと戦ったのかい?」
梨々香はヒルデガルトを見てそう言った。
「その前に質問させてくれ」
ヒルデガルトは梨々香を見てそう言った。
「いいよ」
「ラーフィアを死星と呼んだのは、彼女が初代天理照赫、天照 輝羅々だからかい?」
ヒルデガルトは随分と突っ込んだ質問をしてきた。
あんな大きな音を聞いても白梅たちが来ないからだろうか。
「違う」
「僕の予想はいつも外れるね」
私の答えにヒルデガルトは静かに落胆する。
今回も結構自信があったようだ。
「でも、間違いでもないよ」
梨々香は筆を握ってキャンバスに色を載せながらそう言った。
「なるほどね」
ヒルデガルトはそう言うと立ち上がった。
「確かに、よく考えると初代天理照赫をそのまま使った暗黒神なわけない。筆に使う程度の毛束で十分だ」
ヒルデガルトは部屋を歩きながらそう言うと椅子に座った。
「だが、もしもラーフィアが初代天理照赫の神骸を全て使って創られた神だったら・・・」
ヒルデガルトはその先を言わなかった。
もちろん、私も答えなかった。
ヒルデガルトは答えない私を見ていつものように去った。
まぁ、今回はいつものようにとはいかなかったようだけれど。
「どうして梨々香の私室から出てきたのかな?ケイボワールお姫様」
白梅はヒルデガルトを見て笑みながらそう言うと、包丁を生成して握った。
「ま、まままずはそのヤンデレソードをしまってくれ・・・それからしっかり話し合おう!」
ヒルデガルトは冷や汗を滝のように流して焦りながらそう言った。
「・・・」
お茶と御茶菓子が乗ったお盆を持った白翔は蔑んだ目で白梅とヒルデガルトを見ながら梨々香の部屋に入った。
「あの二人、見た目と違ってかなりうるさいよね」
白翔は呆れたようにそう言うと絵具塗れの梨々香を見て驚いた。
「賑やかでいいじゃないか」
梨々香が笑みながらそう言うと、濡れタオルが顔面に直撃した。
「助けてくれ!梨々香ぁぁぁぁ!!」
私は親友の悲鳴を聞きながら濡れタオルで顔についた絵具を落とす。
これから数日以内に定例会議を開く。
ヒルデガルトが正体に気付いたということは、覚醒が近いということだ。
もう時間はない。
宿幼決戦から五年経った五月十日
定例会議に参加するため、四方にある剣士団の総長が御所に集まった
次回 五章 特殊報告会議




