三十章 黒い雨を抜け、希望を語る
宿幼決戦から五年経った六月十八日。
再度旧サウスドラゴニアに向けて走り出した私たちは死星災害・雨のエリアに入った。
黒色の雨粒が激しく車両を叩き続ける。
「梨々香と戦うことが望みだって言っていた割にはしっかりと阻むんだね」
白翔は頻繁に動くワイパーを見てそう言った。
「心境の変化でもあったのかしら」
白梅は前を見たままそう言った。
「どんな変化?」
白翔は白梅を見てそう言った。
「魔女が嫌いになった」
「そんなわけないだろ」
「冗談よ」
「わかりづらいんだよ・・・」
白翔は困惑しながらそう言った。
白梅と白翔が繰り広げる会話は普段と違ってかなりぎこちない。
きっと、お互い気を張っているのだろう。
「あまり気を張り過ぎるな。普段しないようなミスをするぞ」
梨々香は前を見たままそう言った。
「そうだね・・・」
白梅は梨々香を見てそう言った。
「お!そろそろ抜けそうだ」
白翔は雨の隙間から見える夕暮れを見て笑みながらそう言った。
車両は死星災害・雨のエリアを抜けて旧サウスドラゴニアの北部国境付近に着いた。
私たちは車両を止めて食事を始める。
「どうして遠征用食糧ってこんなにビミョーな味なんだ?」
スプーンを握った白翔は梨々香を見てそう言った。
「缶詰食も乾燥食も美味しいのなんていくらでもあるだろう?」
白翔は遠征用食糧を見てそう言った。
「美味しいと必要以上に食べる者が出てくるのでわざとこの味にしているんです」
梨々香は白翔を見て笑みながらそう言った。
「ん~・・・」
白翔は不服そうに唸った。
「神護国が恋しくなる味ね」
スプーンを握った白梅は遠征用食糧を食べながらそう言った。
「帰ったら稲荷寿司作ってもらうからな」
白翔はそう言いながら遠征用食糧をかっこんだ。
「そう言えば、居住船に逃げたやつらの引っ越しは認めるのかい?」
白翔は梨々香を見てそう言った。
「認めません。この状態のまま神護国への移住を制限する法律を作ります」
梨々香はそう言うと、遠征用食糧を食べた。
「また色々な反発が起きそうね」
白梅は梨々香を見てそう言った。
「そうですね」
梨々香はそう言うとごみを片付けた。
師匠はずっと陛下のことを気にしてる。
あたしたちは師匠と違って旧世を知らない。
師匠も、陛下たちも多くは語らない。
レパルドやテレナは陛下や師匠のそんなところに不満があるようだった。
でも、師匠や陛下たちが故郷を語りたくない気持ちはすごくわかる。
私も故郷ミネバンが大好きで、今も忘れられない。
語り出したら止まらなくなるし、きっと帰りたくて泣いてしまう。
「師匠、帰ったら何食べます?」
ダイナは缶詰食を食べながらそう言った。
「酒、フライ、ピザやハンバーガーも捨てがたいね」
ヒルデガルトは缶詰食を食べながらそう言った。
「真っ先に出てくるのが酒ですか?本当に酒カスですね」
ダイナはヒルデガルトを見て笑みながらそう言った。
「そんな君は何が食べたいんだい?」
「・・・バンニューズベリーの果実酒が飲みたいです。久しぶりに」
「なら、アディシェフがやってるレストランに連れていってあげるよ」
ヒルデガルトはダイナを見て笑みながらそう言った。
「あそこならどんな物も美味しい」
ヒルデガルトはそう言いながら缶詰食を食べた。
「楽しみにしてます」
そんな話をしながら食事を終えたあたしたちは再び車を走らせたのだった。
次回三十一章 旧サウスドラゴニア




