二十章 新しい朝陽の勇者
宿幼決戦から五年経った五月三十日。
北方剣士団に新しい朝陽の勇者が来た。
かつて、月浜打撃軍のメンバーだったグリードリヒ・ポリー・ヤングブラッド。
彼女が朝陽の勇者になった。
「う、馬・・・」
アイリアは大人しくブラッシングされるサラブレッドホースを見て驚きながらそう言った。
「馬ってこの巨体だからさ、人とか下級神を轢き殺せるんだよ。威圧や制圧もできるから町の巡回にはピッタリだと思うの」
ブラッシングする白いカッターシャツを着て黒い長ズボンを穿いたグリードリヒは笑みながらそう言った。
めちゃめちゃ物騒な発言をするグリードリヒが連れてきたこのサラブレッドホースの名前はプイちゃん。
こんな焦げ茶色の巨体が時速六十キロっていう速度で突っ込んで来たらと考えるとマジで恐ろしい。
勤務時間になると、剣士たちは辛そうに机に向かって書類を処理する。
みんな辛そうだというのにグリードリヒだけはとてものんびりしている。
剣士たちはもうグリードリヒを嫌っているよ。
「終わったの?」
アイリアは一人優雅にお茶を飲むグリードリヒを見てそう言った。
「とうの昔にね」
グリードリヒはアイリアを見て笑みながらそう言った。
私はグリードリヒが処理した書類を確認する。
でも、書類は何も変わってない。
「何も終わってないじゃん・・・ハンコは?」
アイリアは書類を見て呆れたように言った。
「ハンコなんていらないよ。メールで送れば良いんだから」
グリードリヒはそう言うと、誘導するようにノートパソコンに目線を映した。
ノートパソコンには、御所財政管理局からのメールが映っている。
内容は「申請を受理しました。三日~四日後に郵送いたします」というものだ。
「なにこれ」
アイリアはグリードリヒを見てそう言った。
「経営者証明証の更新申請完了メール」
グリードリヒはアイリアを見てそう言った。
「こんなやり方どこで知ったの・・・?」
アイリアはノートパソコンの画面を見てそう言った。
「アンティーナさんから教えてもらったの。剣士団に任せると金も時間も取られて良いことないからって」
グリードリヒはそう言うとハハッと笑った。
グリードリヒは母が営んでいた牧場で働いてくれていたし、母が死んだ後は私の代わりに牧場を継いでくれた。
だから、こういう経営関係の話には詳しいみたいだ。
「どうやってやるの?」
アイリアはグリードリヒを見て笑みながらそう言った。
「先ずは財政管理局に読み取り機の貸し出し申請をする」
グリードリヒは薄型読み取り機を見せながらそう言った。
「これ、携帯端末じゃなかったんだ・・・」
アイリアは薄型読み取り機を見て驚きながらそう言った。
「読み取り機が来たらそれを使って住民番号と経営者番号を読み込む」
グリードリヒはアイリアを見てそう言った。
「それで?」
「これをノートパソコンに繋いでノートパソコンにデータを送る」
グリードリヒは薄型読み取り機をノートパソコンの仮想テンキーに置いた。
すると、ノートパソコンの画面に接続可能な端末がありますという文字と端末名が出てきた。
このノートパソコン、マジで最新のやつだ・・・
「データをパソコンに移せたらそのデータを御所財政局の経営者証明証の更新申請用メールに乗せて財政管理局に送る」
グリードリヒはノートパソコンの画面を見てそう言った。
「間違えて別のところに送ったりとかない?大丈夫?」
アイリアはグリードリヒを見てそう言った。
「.EEBのデータは御所内にある公的機関にしか送れないようになってるから大丈夫」
「まぁ、どこかから利益得たくて送りたいって思ったら送っても良いんだけど、フィトミア博士たちが目を光らせてるから送信中に阻止されるし、一発で御所に情報が行くから人生詰むって思っておいて」
グリードリヒはアイリアを見て笑みながらそう言った。
「フィトミア博士が関わってるなら安心できるね!」
アイリアはグリードリヒを見て笑みながらそう言った。
グリードリヒがノートパソコンの画面を閉じてのんびりし始めると、私はずっと気になっていることを聞いた。
「そう言えばさ・・・ママって最期どんな感じだった?私が最後に会った時は杖ついてたよね・・・」
アイリアは書類をファイルに挟みながらそう言った。
「病気も進行してたし、まぁ・・・痛々しい状態だったよ」
グリードリヒはアイリアを見てそう言った。
「会いに行けばよかったかな・・・最期くらい・・・」
アイリアは書類を見て悲しそうに言った。
「来ても追い返されてたと思うよ?」
「どうして?」
「アイリアの記憶の中でくらい綺麗でいたいからだよ」
「だから、少しふっくらしてて、優しくて、おっとりしてて、幸せそうなアンティーナママを忘れないであげて」
グリードリヒはアイリアを見て優しく笑みながらそう言った。
「・・・」
書類を持った剣士たちは涙ぐむ。
「で・・・仕事増えたね」
グリードリヒは書類を運び込む南方剣士団の剣士たちを見てそう言った。
「頼める・・・?」
アイリアはグリードリヒを見て涙ぐみながらそう言った。
「はいはい」
グリードリヒは笑いながらそう言った。
次回二十一章 母を想う




