二章 旅の思い出
「まだかな」
黄眼、白髪ロングヘア。薄青色の着物で身を包んだ女性、華千﨑 白梅は庭を見てそう言った。
その時、界が現れて梨々香と白翔が出てきた。
「少し待たせてしまったね」
梨々香は白梅を見て笑みながら言った。
「早く食べよう。ご飯冷めちゃう」
白梅は梨々香と白翔を見てそう言った。
白翔は宿幼だった頃に私の祖母、華千﨑 蘭甜の神骸を回収してメイジーに献上したらしい。
当時、メイジーは華千﨑 蘭甜の神骸を献上した宿幼に激怒して罵ったらしいが捨てることなく保有していたようだ。
華千﨑 蘭甜の神骸を基礎として生まれたラーフィアは、メイジーの期待通り七陽の勇者を殲滅する存在となった。
しかし、それと同時にメイジーにとっても恐怖の対象となってしまった。
「とても美味しいよ」
箸を握った梨々香は白梅を見て笑みながら言った。
「嫌い」
箸を握った白翔は梨々香にピーマンの揚げ浸しを差し出してそう言った。
「なにか交換しようか?」
お椀にピーマンの揚げ浸しを受け取った梨々香は笑みながらそう言った。
「はんぺん」
箸を握った白翔ははんぺんを見て笑みながらそう言った。
「はい」
箸を握った梨々香は白翔のお椀にはんぺんを入れた。
白翔は時々達観していたり反抗的だったりするが基本は優しくて良い子だ。
遥か昔にいる娘もこれくらい大人しければよかったのだけれど・・・
食事を終えると僕たちは再び界の中に入った。
僕は濁った水晶板をじっと睨む。
この水晶板はただの水晶発光板じゃないようだ。
負荷分散回路と神気伝導回路だけを刻み込んだ制御が難しい水晶発光板らしい。
神気伝導回路以外の部分に神気を伝えると負荷分散回路が働いて神気をすごい勢いで外部に放出してしまう。
そんな構造のせいか、あれだけ光っていた水晶板は光る兆しすら見せない。
あぁ、クソ・・・神気を伝えようと思えば思うほど死星の言葉が脳裏を過る。
「白翔、旅をしたことはあるかい?」
僕の感情を読み取ったかのように梨々香が優しく話しかけてきた。
「・・・旅?」
濁った水晶板を暗い顔で見ていた白翔は梨々香を見てそう言った。
「そう、旅だ」
「・・・旅か・・・あまり思い出せないな・・・」
白翔は考えながらそう言った。
「私はヒルデガルトの姉上と仲が良かったんだが、好奇心旺盛な彼女に引っ張られて川へ行ったことがある」
梨々香は懐かしそうに言った。
「どうも彼女は川を伝って海へ行くつもりだったらしい」
梨々香は笑いながらそう言った。
「・・・思い出した・・・すごく印象に残る旅をしたことがあった・・・」
そう言いながら瞼を閉じた瞬間、色々なイメージが湧いてきて最後には一つの景色になった。
僕は遥か昔、白い髪の侍に追われて川に逃げたことがあった。
外の音は聞こえず、ただ水の音だけが聴こえる中旅をした。
美味しそうな白い雲が浮かぶキラキラと眩しい空と宝石を散らばる静かな空を水の中から見た。
僕を運ぶ水がどこへ行きつくのか、ワクワクしたことを今でも覚えている。
僕が旅の終わりに着いた場所は、月は光が反射してキラキラしてる広い広い水場だった。
埋もれてしまいそうなほど柔らかい砂、迫っては退く水、帽子のような不思議な薄い石、僕はここで初めて欲しものを手に入れた。
何をしても良いって思える時間・・・自由を手に入れた。
「瞼を開けて」
梨々香の声を聴いて瞼を開ける。
水晶板にある小石が確かに光ってる。
「光ってる!!」
白翔が驚きながらそう言うと、光がゆっくりと消えていった。
「あぁー!!」
白翔は叫ぶとため息をついて落胆した。
「その感覚を大切にしなさい」
梨々香は白翔を見て笑みながらそう言った。
「この感覚・・・」
白翔は濁った水晶板を見てそう言った。
「気持ちを落ち着かせ、冷静に真っすぐと神気を送る。意識せずこれができれば完璧です」
先に界から出た僕は部屋に籠って水晶板に何度も神気を流した。
落ち着いて神気を伝える。嫌な考えはあの感動で吹き飛ばす。
光はすぐに消えてしまうが、水晶板についている小石は確かに光るようになった。
次回 三章 死と転生の暗示
六柱の魔神、銀氷と煌金岩が登場します




