十九章 南北合同訓練
宿幼決戦から五年経った五月二十七日。
御所にミッケから電報が来た。
どうやら、南北合同訓練を開催したいらしい。
本当にすごいやる気と自信だ。
「南北合同訓練?」
白梅は電報を見てそう言った。
「うん。二つの剣士団が集まるなんて中々ないからって」
梨々香は白梅を見てそう言った。
「開催させるの?」
「えぇ。その時はしっかり見てあげてください」
梨々香は白梅を見て笑みながらそう言った。
「わかった」
白梅は梨々香を見て笑みながらそう言った。
私は次期朝陽の勇者と面談をする予定があるため行くことができない。
北方剣士団と南方剣士団の鍛錬の成果を見れないのは少し残念だ。
宿幼決戦から五年経った五月二十九日。
南北合同訓練が開催された。
南方剣士団の剣士たちはやる気満々。
それと対照的に北方剣士団の剣士たちはとても嫌そうだ。
戦闘訓練が始まると両剣士団の剣士が走って標的物に向かい、標的物を的確に攻撃していく。
南方剣士団の剣士は属性剣技・雷を宿した斧槍や長剣を振り回して早々に標的物を破壊。
狭い網と狭い木組みの障害物を匍匐前進で潜り抜けていく。
「良いぞ!良いぞ!」
ミッケたち南方組は南方剣士団の剣士を見て歓声を上げる。
北方剣士団の剣士は属性剣技・水を宿した剣で標的物を破壊。
少し遅れて狭い障害物に向かう。
障害物を抜けると、瓦礫を模した瓦や木材、コンクリート片の山に向かって全力で走る。
瓦礫を模した瓦や木材、コンクリート片の山を急いで退かし、その中に閉じ込められている米俵を担いで五十メートル先のゴールに向かって走る。
南方剣士団の剣士がゴール地点へ先に到着、北方剣士団の剣士は少し遅れてゴール地点に着いた。
次々とスタートした両剣士団の剣士たちが様々な障害を乗り越えてゴールしていく。
勝率は北方剣士団三割、南方剣士団七割。
実力差があり過ぎる。これではため息が出るほどつまらない行事だ。
梨々香が見たら頭を抱えるだろう。
アンカーのアイリアとミッケの競争は標的物破壊はアイリアが早く、障害物はミッケが早く、救助想定はアイリアがやや早い、抱えて走るのはミッケが圧倒的に速いという感じでミッケが勝って終わった。
南北合同訓練が行われている中、私は次期朝陽の勇者と面談をしていた。
「久しぶりですね。元気そうでよかった」
次期朝陽の勇者はグリードリヒ・ポリー・ヤングブラッド。
北燦雪にてシュペー牧場の二代目社長を務めていた元神軍組織員である。
「お、お久しぶりです・・・!」
赤眼、黒髪ポニーテール。暗い緑色のロングワンピースで身を包んだ女性、グリードリヒ・ポリー・ヤングブラッドは少し緊張した面持ちでそう言った。
「牧場の方は落ち着きましたか?」
「はい。幸いにも牧場を引き取ってくれた商人がいまして・・・」
「本当に七陽の勇者になりますか?厳しいと思ったらすぐにでも元の生活に戻れるよう動きますよ?」
私はグリードリヒに問う。
これは最後の確認でもある。
「ご心配ありがとうございます。ラーフィアに勝てないことも分かっています。でも・・・」
グリードリヒは梨々香を真っすぐ見てそう言った。
「陛下たちから、七陽の勇者から希望を貰ったように・・・みんなに希望を与えたいんです」
グリードリヒは梨々香を見て笑みながらそう言った。
朝霧のように輝く思いはとても頼もしい。
きっと、この国に新しい流れを生み出してくれる。
「七陽の勇者は本当に辛い思いをします。そして、どれだけ辛くても逃げ出せません。覚悟してから最終契約書に記入してください」
梨々香はそう言いながら書類を差し出した。
「・・・はい」
グリードリヒは覚悟してそう言うと書類を見た。
宿幼決戦から五年経った五月三十日
北方剣士団に新しい朝陽の勇者が来た
次回二十章 新しい朝陽の勇者