十章 夢中の先生
白翔たちが南煌炎で調査を行っている時、私は研究室に入って気気滅却瓶の研究をしていた。
この事件、気気滅却瓶に問題があり、それが原因なら設計と生産指揮を行った私の責任だ。
私はラーフィアの痕跡を詰めたものと同じ生産ロット、同じ保管庫にあった気気滅却瓶に魅惑の痕跡と闇化生物の痕跡とラーフィアの痕跡をそれぞれ入れて観察し始めた。
闇化生物の痕跡は早々に力を失って灰になった。
そして、魅惑の痕跡も徐々に変色して最終的に灰になった。
ラーフィアの痕跡も魅惑の痕跡と同じようなタイミングで灰になった。
気気滅却瓶に問題があったわけではないようだ。
では、なぜ今回の事件は発生したんだ?
ラーフィアや魅惑の眷属が国内に潜伏していてそいつらが事件を起こしたのか?
「はぁ・・・」
私は気気滅却瓶を回収する。
闇化生物の痕跡、魅惑の痕跡と回収してラーフィアの痕跡が入っている瓶を持った時、凄まじい違和感を感じた。
「まさか・・・」
梨々香はそう言うと気気滅却瓶の封を解いてラーフィアの痕跡を手に乗せた。
灰と化したはずのラーフィアの痕跡はその形を保ったまま重厚な金属のようなずっしりと重い。
入れた前と後で変化がないように感じる。
灰と化したラーフィアの痕跡を親指の腹で数回擦ると、灰の中から赫灰色の金属が姿を見せた。
「なるほど・・・流石はラーフィアだ」
梨々香は光り輝く白い星を見て笑みながらそう言うと、手に力を込めて照赫化させた。
照赫化の力を受けた白い星は急速に光を失い、手に残ったラーフィアの痕跡は最後にポッポッポッと小さな火を噴き出して灰になった。
「はぁ・・・」
冷や汗をかいた梨々香は椅子に座って机に突っ伏した。
流石に焦った。
酷く疲れた。力を使い過ぎたようだ。
瞼を閉じると、誰かに呼ばれているような、何かに引き寄せられているような、そんな感覚に包まれた。
そして、そんな奇妙な感覚が体を駆け巡る中、私は故郷に帰ってきた。
故郷に戻った私を出迎えたのは、私が尊敬してやまない第二代落陽の勇者である華砂羅だった。
「晩年の天照様はお前に好意を抱いていた。かつて愛した娘や夫に向けたものよりも大きなものだったと俺は感じた」
縁側に座った華砂羅は梨々香を見てそう言った。
「お前のような者と出会い、添い遂げたかった・・・と」
華砂羅は前を向いてそう言った。
「あんな心の底から出た言葉は初めて聞いた」
華砂羅は梨々香を見て笑みながらそう言った。
「孫にかける言葉じゃありませんけどね」
梨々香は華砂羅を見てそう言った。
「天照様も発言の後にハッとしていたよ」
華砂羅は前を向いてそう言った。
「でも、その後に天照様は変わってしまった。俗世に向けていた愛をお前に向け、俗世人になることをやめた」
華千﨑 蘭甜という俗世人を目指した神はそこで死に、天照 輝羅々という俗世離れした神が再び姿を現した。
しかし、そんな神も神核にかかっていた凄まじい負荷には敵わなかった。
この子の傍にずっと居たいその言葉は天照 輝羅々が残した最後の言葉となった。
彼女の願いが叶ったのか、彼女の心とも言える天理照赫はメイジーへ還ることなく私の手に渡った。
きっと、この時から因縁は始まっていたのだろう。
「・・・」
目を覚ました梨々香は近くの椅子に座った白梅を見た。
「梨々香、大丈夫?」
白梅は梨々香を見てそう言った。
「うん、少し寝てしまっていたみたいだ」
梨々香は笑みながらそう言った。
「もっと頼ってくれても良いんだよ」
白梅は梨々香を見て笑みながら言った。
「ありがとう」
梨々香は白梅を見て笑みながら言った。
私は白梅と共に研究室を出た。
そして、居間に行って白翔達の帰りを待つ。
次回十一章 謎の違法通信基地