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Chapter1-Section8 人生初めての

 いくつかあるゲームモードを選択出来るようで、その中にチュートリアルモードがあったので、まずはこれだろうとチュートリアルを開始した。

 操作方法とゲームのルールを15分程度で学びチュートリアルを終えると、さっそくこのゲームの花形であるバトルロワイヤルモードをやることにした。


 試合は3人1組でスタートする。まずはHopeホープ Shipシップと呼ばれる航空機から戦場に飛び降りた。最初は何も武器を持っておらず、戦場で拾い集めた武器で戦っていくというルールのようだ。


 味方の二人はオンラインでマッチした他のプレイヤーなのだろう。私と同じように操作が覚束ない様子を見るに初心者に思えた。初心者同士でマッチングしているのは偶然ではなく、ゲーム側の配慮なのかもしれない。


 1試合目、2試合目は逃げ回るばかりで、なす術なく敵に蹂躙された。3試合目にようやく銃を撃てた。けどあっさり負けた。

 4試合目、建物の中に入るといきなり敵に撃たれた。


「きゃっ!」


 また負けた。しかも恥ずかしい声をあげてしまった。ちらりと周りの様子を窺うと、何人かの視線があった。社長がニヤニヤと笑っているのがムカつく。そして恥ずかしい。顔は赤くなってないだろうか。


 なんなの今の!? まるでホラー映画じゃない……!


 私は顔を手で覆った。難しいし、恐いし、全然勝てない。今のところ全く楽しいと思えなかった。ただ漠然と悔しいという想いだけが積み重なっていく。やってはみた。でもやっぱり、私にはゲームの良さなんてさっぱり分からないのかもしれない。でもこれで終わるのも、何か釈然としない。

 負けてばかりで終わるのは自分の性に合わない。


 私はオフィスの壁に掛けてある時計に目をやった。まだ11時だった。今日は的井翔琉に会いに行く予定はあるが、時間の余裕はまだ充分にあった。


「もう少しだけ……」


 さらに5試合ほどやって、ようやく敵を一人倒すことができた。味方が敵の体力を削ってくれていたようで、私は弾をほんの数発当てただけだが、それでも嬉しかった。何事も、勝負事は負けると勝つとでは満足感が大きく違う。私はそれを強く実感した。


 ゲームの最後の生き残りになること、つまりその試合の勝者をチャンピオンというらしい。

 せっかくの機会なんだ。チャンピオンになるまではやってみよう。決して意地になっているわけではない。それはesportsチームのマネージャーをこれからもやっていくのなら、経験としてきっと必要なことになるからだ。


 しかしやはり、ゲーム初心者がすぐにチャンピオンを取れるほどこのゲームは簡単では無いらしい。何試合やってもチャンピオンには届かない。

 この試合こそ、次の試合で、もう1試合、あと1試合……。私はひたすらにゲームを繰り返した。


 そしてついに、その瞬間は訪れた。


 まるで最初に見たオープニングムービーのような展開だった。味方2人は私より明らかに上手なプレイヤーで、私を最終盤までリードしてくれた。そして最後の部隊との戦いで敵が2人たおれ、味方も2人たおれた。残ったのは私と敵ひとりだけ、一対一の戦いになった。

 緊張で手が震えた。ここで負けたら倒れた味方の二人に申し訳が立たない。頭の中はパニックだった。敵も初心者で緊張していたのか、私を見失っているようだった。

 私はただひたすらに、敵を目掛けて銃を撃った。


 たおした! と思った瞬間、うるさいほどに輝かしく壮大なBGMが流れ『CHAMPION』の文字が画面に大きく映し出された。


 心臓が早く脈打ち、胸がじんと熱くなった。体中の温度が一度か二度上昇したような錯覚を引き起こした。

 ゲームとはよく出来ている。負けたら悔しいし、勝ったら思わず感激してしまう。それはほんの入り口かもしれない。それでも私は、彼らがあそこまで本気になれる理由を初めて理解したのだ。


 私は深く呼吸を繰り返して気持ちを鎮めると、ゲーム画面を閉じて目をつむった。

 三雲進と的井翔琉、彼らの真剣な顔を思い浮かべた。もうたかがゲームなのに、なんて思わない。


「よし」わたしの気持ちは晴れていた。


 目を開けて時計に視線を移した。的井翔琉宅に出発するまで、あとどれくらい時間はあるだろうか。


「噓でしょ!?」時計を見て驚愕した。


 ここを発たなければいけない時間はとっくに過ぎていた。というか約束の時間すら過ぎていた。

 それは人生で初めてのことだった。まさか私が遅刻なんて……。


「玲ちゃん。大丈夫? 顔が青ざめてるけど……」


 社長が心配そうに近づいてきた。


「社長……! 私……やってしまいました……」

「え、なにを……!? 玲ちゃんが言うとなんか恐い……」

「行ってきます……」

「どこに!?」


 私は急いで荷物を纏め、飛び出すように会社を出た。


「いったい何をやってしまったのー!? 玲ちゃーん!?」


 背後から社長の声が遠く聞こえた。

おまけ

朝日玲の趣味のひとつは掃除。家の中は常に綺麗にしているせいでやりごたえが無いことが悩み。たまにコンロの裏側とか汚れている部分を見つけるとテンションが上がる。


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