Chapter4-Section65 頑張りました
これが世界か。
二戦目も負けた。あと一戦でも負ければ、五本勝負に敗けたことになる。
三戦目が始まった。
俺は最強だ。タイマンなら誰にも負けない。そう思っていた。ははっ、笑っちまうな。このありさまで?
納屋の屋上で撃ち合いになり、互いにダメージを負い屋根から飛び降りた。
壁面に隠れて回復をしてから、納屋の窓から中に入った。同じタイミングでリンクスが入って来たので、そこで再び撃ち合いになる。
二戦交えて確信した。俺とこいつは、明確にひとつ、ステージが違う。
壁ジャンにスライディング、全てのキャラコンを駆使しながら、リンクスは部屋中を舞う。その姿は蝶のように優雅で、華麗だ。そして同時に、コバエでも相手しているかのように鬱陶しく、ワンマガジンで倒しきることは難しい。
リロードのタイミングになると必ず隙が生じてしまう。だからリロードに入る前にいったん相手から身を隠す必要があるが、この男はそれをさせない。
狙いすましたかのタイミングで、気づけば俺の退路の前に立ち塞がっている。
三試合目も倒された。
これで五本勝負に敗けたことになる。
「まさか、この俺がタイマンで三連敗するとはな……」
「そんなに驚くこと?」
リンクスは淡々と告げる。
「世界には俺よりも強いやつなんていっぱいいる」
「三連敗ぐらいするよ。あんたは別に、最強じゃないんだから」
そうらしい。俺は最強じゃなかった。ギリギリと音が鳴るほど歯を噛み締めた。
「ほら。次やろうよ」
俺相手に余裕見せやがって。この野郎め……!
武者震い。指が震えた。血がうずく。笑みがこみあげて来る。
悔しい。と同時に最高に面白いとおもっている自分がいる。
確信した。最強は、この男の向こう側にある。
「気絶するまで殺り合おうぜ!!」
***三雲進***
シャワーで濡れた髪は普段よりカールが強くなる。金髪の髪の毛を持ち上げて、根本からドライヤーで乾かした。
鏡で見る自分の顔は、少しやつれて見えた。目の下には、疲労で青黒く塗られたクマがある。
そういえば、マクロ経済のレポート課題は明日までだっけ。
ここ数日はインパーフェクトばかりに専念していて、大学の方は、すっかりなおざりになっていた。
洗面所を出ると、キッチンにベッド、パソコンデスク、俺の生活の全てである九畳のワンルームが広がる。デスクの前に座ると、パソコンを操作して作成途中のレポートを開いた。作成途中といっても、書かれているのはタイトルと二十字程度の書き出しだけで、ほぼ白紙と言っていい。
「こんなことしてる場合じゃないんだけどな……」
デスクに立て掛けたタブレットの映像では、ラヴフィンがまだリンクスとタイマン勝負を続けている。勝負を始めてから、かれこれ三時間になるが、一向に終わる気配は見られない。全ての試合を観戦しているわけではないが、ラヴフィンの勝率は一割程度と言ったところだろうか。
カケルは何をやっているか全くわからない。
焦燥感は募っていく。
答えがあるのかも分からない迷宮を彷徨うことは、辛く、苦しい。
スマホの通知音が鳴った。
見ると、玲ちゃんからだった。
『CONTRAIL』のホームページを作ったと聞いていたから、実際にそのサイトを見てみた。凄いと思った。だから、素直にそのままの感想を送っておいた。
これすごい! 玲ちゃんありがとう! 頑張ったご褒美にご飯行こう!
その返事が来たらしい。どうせ呆れた感じであしらわれるのだろう。その冷めた感じがまた癖になるのだけど。そう思いながら、メッセージを開いた。
『はい。頑張りました。』
目を丸くした。玲ちゃんが俺の軽口に簡単に乗っかるなんて、自画自賛するなんて、玲ちゃんらしくない。続けてメッセージが届く。
『一度くらい、みんなでご飯行くのもいいかもしれないですね。』
胸がじんと温かくなって、気持ちが和らいだ。これは玲ちゃんの優しさだと分かった。俺たちにある暗い雰囲気を感じとって、玲ちゃんなりに気遣っているのだろうと分かった。
まだまだ頑張れる。前向きに、そう思えた。
***ラヴフィン***
また負けた。
「さあ、もっとやろうよ」リンクスは言う。
もう、これで何敗目になるだろう。それでも、まだまだ俺は諦めない。この逆境さえも、楽しんで乗り越えてやる。
「それとも、もう折れた?」
「なに言ってんだ! ようやく温まってきたところだろ!」
配信界のスター。RabPhinという存在。その男はどんな逆境であろうとエンタメに変えて、笑みを浮かべながら乗り越えていく。決して挫けることのない心。強い精神力。その背中は大きく、たくましく、かっこいい。
それは俺であって、俺でない。
俺の憧れを体現した存在。それがラヴフィンだからだ。
ずっと憧れていた人がいた。でも、俺の憧れたあの人は、もうこの世界に存在しない。




