Chapter3-Section62 才能
後半戦が始まった。
前半戦の総合順位は最下位の20位。ここから逆転して上位に入るためには、後半からの4試合でかなりのハイペースでポイントを稼ぐ必要がある。チャンピオン獲得は、もはや必須になるだろう。
Yukiはこのまま負けると言ったけれど、彼らのことをろくに知りもしないくせに、よく言えたものだ。
私は、彼らがチームを結成してから、これまでの大会の全ての試合を観てきた。だから知っている。『CONTRAIL』はこのまま終わるチームではない。
はずだった。
勝利の女神が微笑むように、敗北の悪魔が嘲ることもあるのだろうか。
後半戦の試合は静かに、そして坦々と進んでいった。そして気づけば、なにごともなく終わりを迎えていた。
5試合目、6試合目は『RAVEN'S CROWN』との初動ファイトに敗れ、7試合目は移動中に接敵したサウジアラビアのチームに敗れた。そして、最終試合となる8試合目に初めて5位以内に入ったが、『IMPERIAL PURPLE』のFacerとういう選手ひとりに壊滅させられ、5位止まりとなった。
総合順位が発表された。
全8試合で10ポイントしか獲得できなかった『CONTRAIL』は最下位のままだった。
優勝したチームは『IMPERIAL PURPLE』。7試合と8試合目に連続でチャンピオンを獲得することで、逆転優勝をおさめた。
「言ったでしょう?」
唖然としている私に向かって、ユーキは言った。私を覗きこむように首を傾けると、白いメッシュの入った髪がさらさらと流れる。
「確かに彼らは強いですよ。ラヴフィンはもちろん、他の二人も見込みはあります。それでもプロの世界では、まだまだ赤ん坊のようなチームです」
ユーキは立ち上がると、ライトグレーのカーディガンに付着した誇りを払った。
「さっき警告したこと、忘れないでくださいね」
そう言うと去っていた。
優勝チーム『IMPERIAL PURPLE』の勝利インタビューが終わると、大会は幕を閉じた。
各チームの選手がブースから離れて会場をあとにする中、『CONTRAIL』の3人はブースから動こうとしなかった。まるで、自分達の敗北を認められず、次の試合を待ち続けているかのようだった。
***
負けた。惨敗だった。
玲ちゃんに情けないところみせちゃったな。
俺は総合結果の映し出された画面を見つめながら、パーマの髪をもんだ。
上位に並ぶチームはどれも納得の面々だ。
1位98P:『IMPERIAL PURPLE』
2位80P:『Laurier』
3位69P:『RAVEN'S CROWN』
4位65P:『Well Well Well』
5位55P:『SHINOBIFY』
俺のIGLが悪かった。初動ファイトをやめるべきだった。ファイトの連携が足りていなかった。相手の力量を見誤った。
反省点をあげればきりがない。
悔しい。もちろん悔しい。
それでも、これが公式大会でなくて良かった。とプラスに考えることもできる。この大会はあくまでお祭り的な催しだ。結果が何位であろうと関係ない。むしろ、プロリーグが始まる前に改善点を洗い出すことができたと思えばいい。大丈夫。俺たちはこれからまだまだ強くなれる。
そう言おうとして横を向いた。翔琉とラヴィの横顔を見た。
ぞくり、と背筋が凍った。
そこには二人の怪物がいた。
ひとりは奇妙な微笑みを浮かべながら、底知れぬ闘志をむき出しにしていた。
ひとりは喜々として笑いながら、血がたぎるような怒りを爆発させていた。
ふたりがまとう空気に、言葉を持たぬ圧に気圧された。それらは狂気的で、常人のものではない。
つい一歩退いていた自分に気付く。
これまで何度か思う瞬間はあった。でも、今ほど決定的な瞬間はなかった。
たぶん彼らは、俺よりもいちだんと強く、この『『IMPERFECT BRAVES』』というゲームに熱くなれる。
ほんのたまに、不安になる。俺はここまでたどり着けるだろうか。
バチン! 音が鳴った。ラヴィが自分の顔を叩き、両頬に赤い手形をつけた。
「先に控室に戻る」そういって席から離れた。
「三雲」
翔琉が呼んだ。
「倒したいやつらがたくさんできた」
怪物の黒い瞳が、俺を見上げている。
「俺はもっと強くなるよ。だから、ちゃんとついて来てね。俺に」
自分はどこまでも強くなれると信じて疑わない瞳。たまに立ち止まって、今の自分の立ち位置を分析しないと不安になる俺とは違う生き物。
翔琉は背中を向けて歩いた。俺はその背中を追う。
俺は才能という言葉を信じない。それは努力の価値を曖昧にするから。それは努力を怠る者の言い訳だから。
それでも、ふと思うときがある。
『Obsidian』のブースを横切った。そこではPCの前で泣き崩れるYuzuの背中があった。悔しさがギュッと濃縮された涙が目から零れ落ちている。
それでも、ふと思うときがある。
それを誰よりも好きになれること。それに誰よりも熱中できること。これを才能と呼ばずに、なんと呼べばいいのだろう。
会場の外に出ると、雨が降っていた。
季節は、まだ夏だ。雨はじめじめとしていて、蒸し暑い。
翔琉と別れると、玲ちゃんが手配してくれたタクシーに乗り込む。東京にある玲ちゃんの会社まで送ってくれるそうだ。
玲ちゃんの他にも、玲ちゃんの友達とラヴィも同乗していたが、会話は何も無かった。雨の音と、ワイパーが上下する音が車内に響く。
早く気持ちを切り替えよう。
来月にはプロリーグが始まるのだから。
おまけ
タクシーは玲が助手席、後部座席は窓側にそれぞれラヴフィンと三雲、夏海は真ん中に座っていた。
レイ「(うしろから夏海の強い視線を感じる……)」
夏海「(どうして私が真ん中……!?)」
レイ「(ごめん夏海……。なんか成り行きでこうなってしまった……)」
夏海「(誰かこの空気なんとかしてえ!! 気まずいい!! やっぱり乗らなきゃよかったあああ!!)




