Chapter3-Section59 目覚めのコアラ
「くそっ! 挟まれた!」
咄嗟に、ラヴィがドーム型のバリアをその場に出した。アイリーンというキャラクターが持つスキルだ。
ドームバリアの中に入り、なんとか挟撃を凌いだが、挟まれてしまった状況が変わるわけではない。
こういうときの打開策は決まっている。挟んでいる敵のどちらか一方を三人で狙うしかない。倒せれば一転、数的有利を取れる。
「後ろだ! 先に後ろを倒す!」
三雲の判断は早い。
三人で一斉にドームバリアから飛び出して、背後にいたハンゾウを狙う。
それを見るや否や、カドーは方向転換して、逃げに徹する。壁ジャンプにスライディング、あらゆるキャラコンを駆使して外階段に逃げていった。
「逃がさない……!」
追いかけるために外階段に飛び出すと「深追いはしないよ!」と三雲に制される。
「挟撃されなくなったなら、これで十分……! いったん回復して体勢を整えよう!」
部屋の角にタレットを設置しながら三雲は言う。
「分かった……!」
三雲の状況判断は冷静だ。ときに冷静すぎるのでは? と思うときがある。
「次のこと考えるよ……! 次も中の階段から上がるけど、今度は背後を取られてもタレットの起動で分かる。だからタレットが起動したら、一気に上のやつらを――」
窓の割れる音が鳴った。
どこからか、銃弾がラヴィの頭を貫いた。
「はあ!?」
なにが起こったのかも分からずに、ラヴィは倒れる。
「スナイパー……!? いったいどこから!?」
ラヴィはダウン状態のまま地べたを這う。こうなると、蘇生をしないと戦闘に復帰することはできない。
「そんなこと、考えている暇ないみたい」
世界で戦うチームが、この絶好の瞬間を逃すわけがなかった。
階段を駆け下りて来る足音が聞こえた。次の瞬間、『SHINOBIFY』の三人が目の前に現れた。
部屋の角に設置したタレットが起動し、敵を足止めした。タレットは破壊されたが、その隙に、敵の一人を倒した。次には三雲が倒れ、もう一人の敵が、またも謎のスナイパーの狙撃によって倒れた。残るは俺とCadoの一騎打ちになる。
体力状況は不利だった。こっちの体力は大きく削れられているが、相手は無傷に等しい。壁を蹴り、スライディングをし、キャラコンを用いて被弾を無くそうとした。カドーも同じようにキャラコンし、部屋の中をあちこちに飛び回る。同じタイミングでショットガンが撃たれた。互いの攻撃が命中して、残り体力の少なかった俺が倒れた。
『CONTRAIL』は全滅し、3試合目は17位で敗者となる。
カドーはその後、スナイパーに狙われながらも、得意のキャラクターコントールで弾を避けながら建物の隅へと逃げていった。
***
スナイパーの狙撃が命中する度に、どよめく会場の中で、私は悲鳴をのみこんだ。
他のチームを狙ってください。なんてモニターの画面にお祈りしても、願いが通じることはなかった。
四階建ての建物が小さく見えるほどの遠距離から、狭い窓枠の奥にいる豆粒大の敵に狙撃を当てる。そんな人並み外れた芸当を見せた男はオーストラリアのトップチーム『Well Well Well』のnoala。
壇上に登場したときは味方におんぶされ眠っていたが、さすがに試合になれば、しっかりと起きているらしい。
「『Well Well Well』は3人ともがスナイパーの名手なんだ」
夏海は椅子の下で足をぶらぶらと振りながら、股の間に手を挟んだ。
「その中でもノアラのスナイパーはレベチだよ。普通ならありえないような遠い敵でも射抜いてしまうから、倒された敵はみんな口々に『理不尽』だとか『災害』と呼ぶんだ」
先ほどのファイト。ラヴフィンがあのスナイパーに倒されたのも、まさに『災害』のようだった。
「そんなスナイパーの上手さをチームの戦術に取り入れたのが『Well Well Well』なのだ。安地(安全地帯)内の高所のポジションを真っ先に獲得し、順位を確実に伸ばしながらスナイパーでキルを狙う。最多キルでチャンピオンみたいな大量ポイントを獲得することは少ないけれど、毎試合、確実に高水準でポイントを稼いでいく。そんな手堅いチームだよ」
「さらにさらに」と夏海は続ける。
「ノアラの安地予測の精度は抜群なのだ。ミクモンも相当なものだけど。たぶん、ノアラの方が、もっとすごい……!」
モニターにはマップが映り、最終安地となる範囲が表示された。その最終安地となる円の中に、しっかりと彼らはいた。
3試合目、チャンピオンになったのは『Well Well Well』。
ノアラはチームメンバーと喜びを分かち合うと、アイマスクとイヤーマフを装着し、眠りに落ちた。
チーム紹介『Well Well Well』
オーストラリアのトップチーム。チームカラーはハンターグリーン(くすんだ緑色)。チームロゴは「Welll」の文字列。
チームでIGLをつとめているNoalaはIQ140の知能を持っている。ロングスリーパーで一日の合計睡眠時間は12時間にもなる。起きている時間のほとんどは読書かゲームをしている。




