Chapter3-Section55 簡単なことじゃない
会場に設置された巨大なスクリーンに試合の様子は移される。部隊がひとつ壊滅するたびに、会場からは悲鳴と歓声があがる。
一試合目は韓国チーム『RAVEN'S CROWN』が躍動していた。
持ち前の破壊力で、敵チームを次々と壊滅させていく。
「間違いなく、Picoが最多キルを独走してるねえ」
私に声が届くように、歓声の隙間を縫って、夏海は言う。
「すごい選手なんだね」
「ピコだけじゃないよ。RAVEN'S CROWNは他の二人も最強なんだよ!」
「たしか双子なんだよね?」
「なのだ! CygnusとAquila。それぞれ単体性能だけでもバカ強いのに、双子だからこそできる以心伝心の連携が、あの電光石火のような攻撃を可能にしているのだ!」
「そんな二人の連携に合わせられるピコさんもすごいね」
チッチッチ。と夏海は指を振った。
「それはちがうのだ。ひと仕事終えたあとに唐揚げをおつまみにビールを嗜むのと、現実逃避のために空きっ腹にストロング缶を流し入れるのと同じくらい真逆なのだ!」
出た。ほんのちょっとだけむかつくやつ。そしてごめんだけど、例えがあんま分からない。
「ピコが合わせているんじゃない。ピコの動きに柔軟に連動して、他のふたりが阿吽の呼吸で合わせているんだ。そんな芸当ができてしまうのは、ふたりの双子の連携力の賜物であり、どちらも化け物級のゲームセンスを持っているからこそなんだろうね。このスタイルを確立してから、彼ら『RAVEN'S CROWN』は世界においても優勝候補に名を連ねるチームになったんだ」
残り部隊が3チームになったとき、試合展開は膠着した。
残ったチームは『RAVEN'S CROWN』と『No.21196』という中国チーム。そして、世界最強の称号を持つ『IMPERIAL PURPLE』。
各チームは距離を保ちながら、互いを見合っている。銃を撃って牽制こそしても、近づいてファイト(戦闘)の展開に持っていこうとはしない。
「こうなってくると、先にファイトを始めた二チームが不利になっちゃうねえ」
夏海は大きなモニターを見上げながら言う。
「ファイトをしていないチームがフリーになっちゃうからだよね?」
お!? と夏海は嬉しそうに私を見た。
「玲もだんだん分かってきたねえ」
「おかげさまで」
「玲の言うとおりだよ。三つ巴の展開になった時に、先にファイトを始めてしまうと、フリーになった3チーム目が簡単に漁夫の利を狙うことが出来てしまうんだ。だからこそ、チャンピオンを狙うなら先にファイトをしないことが重要になってくるんだ」
夏海は椅子の下で、脚を前後に振っている。
「どうすれば、敵チーム同士を戦わせられるのか。それとも、割り切って先に勝負を仕掛け、2位を狙った方がいいのか。敵チームは何を仕掛けてくるのか。この最終局面で考えることはとてつもなく多い。そんな中で、どんなプロであっても正解択を引くのは簡単なことじゃない」
膝の間に両手を挟んで、前屈みになる。モニターを見つめる夏海の目が、キラッと光る。
「でも、それを不思議なほどに、あたりまえにやってのけるチームがあるんだ」
3チームの中で、最初に動き出したのは『IMPERIAL PURPLE』だった。
「パープルが先に仕掛けた……! 2位狙いに切り替えた……!?」
夏海はまん丸い目を大きく見開いた。
IMPERIAL PURPLEは大木の裏から飛び出すと、中国チーム『No.21196』に攻撃を仕掛けた。コンテナの裏に潜む敵目掛けて接近する。
「なるほど……。ナンバー(中国チームNo.21196)はコンテナと大岩の二つのポジションを別れて陣取っていたから、コンテナにいた独りを確実に狙ったんだ……! でも、それを簡単に許すチームなんて、ここにはいないよ……」
夏海の解説どおり、それから、他2チームの対応も素早かった。『No.21196』の大岩にいた二人はすぐさまにコンテナ側に移動し、孤立を狙われた味方のカバーに入る。
小屋にいた『RAVEN'S CROWN』はというと、ここぞとばかりに前進し、中国チームがいなくなった大岩を陣取った。
「こうなるよね。積極的な『RAVEN'S CROWN』がチャンピオンのチャンスを逃すわけがない。大岩を陣取れたなら、ファイトが起こるコンテナまで射線を通せる。あとは勝手にやり合う敵同士に茶々を入れつつ、生き残った側を狩るだけの簡単な……」
あれ? 夏海は首をひねった。
「戦ってない……!?」
夏海の声は裏返る。
『IMPERIAL PURPLE』はコンテナに近づくだけ近づいて、結局ろくな撃ち合いもせず、元の位置に戻ってしまった。
「元の位置に戻ってる……!? それどころか、これってこれって……。あれれ……!?」
その口ぶりから、夏海の困惑がよく伝わる。
『IMPERIAL PURPLE』は当初陣取っていた大木の裏側に戻っていただけでなく、そのひとりは、いつの間にか『RAVEN'S CROWN』が元々陣取っていた小屋の屋根に立っていた。
「なにそれ。なにそれ……! 最初に攻勢に出たのはフェイクで、全ては『RAVEN'S CROWN』が取っていたポジションを奪うための作戦だったってこと!?」
「でもこれって、各チームの位置関係が少し変わっただけだよね? あまり意味ない気が……」
「なに言ってんの!?」夏海の首がぐるりと向き、えらい剣幕で私を睨んだ。
「大岩とコンテナは互いの射線が全部通っちゃう位置関係なんだ! そんなところじゃ、悠長に睨み合いなんかしている状況じゃなくなるよ……! それってつまり、『ナンバー(No.21196)』と『RAVEN'S CROWN』が衝突するのは避けられない」
「そして……」夏海はモニターに視線を戻す。
「最初のファイトを避け、フリーなポジションを取り、圧倒的優位に立ったのは……」
「『IMPERIAL PURPLE』……!」
「そういうことなのだ」
『No.21196』と『RAVEN'S CROWN』のファイトが起こり、勝利したのは『RAVEN'S CROWN』だった。そして、戦いで疲弊した彼らを、世界の覇者が襲う。
『IMPERIAL PURPLE』がチャンピオンを取った。
「簡単なことじゃないのだ」
興奮する夏海の声が、歓声の隙間を縫って耳に届く。
「このゲームは最終局面になるほど、全選手の思惑が入り乱れる。一人一人の選択と行動によって状況がコロコロと変わる。あらゆる可能性を考えていたら切りがない。なのに、安地(戦闘可能区域)は収縮していくせいで思考する時間は限られている。そんな中であっても、正解択を選び抜くこと。それは簡単なことじゃない」
夏海は頭に被っていたフードの端をギュッと握る。
「チャンピオンを取り切る力。それはたぶん、このゲームで一番必要な力で、そんな力を彼らはどのチームよりも持っている。だからこそ、三度の世界大会制覇を果たせたんだよ」
おまけ
チーム紹介『IMPERIAL PURPLE』
世界最強のチーム。チームカラーは紫。チームロゴは『IMPERIAL』の文字。
メンバーはFacer、X、youzbeetの三人。
三人とも自我がとても強く、ゲームに関係ないところでも喧嘩が頻発し、コーチを困らせている。
なのにゲームの相性は最高で、同じメンバーで3度の世界大会優勝を果たしている。




