Chapter3-Section53 化け物退治
戸惑いがあった。
自分の人生で、歓声を浴びせられることは無かったから。そんなものは気にしないと思っていた。どうだっていいと。ただゲームをやるだけだと。
居心地が悪い。
自分の部屋でゲームをやるのと、何もかも違う環境が。すぐとなりにチームメイトが座っている空間が。だだっぴろい会場が。やたらまぶしい照明が。少し寒い空調が。顔を上げれば嫌でも感じる有象無象の視線が。全部いやだ。
「やばい。久々に緊張してるかも……! オフラインってやばいんだなー……!」
となりで、三雲はせわしなく手をすり合わせている。
「この俺が解決策を授けてやろうか?」
ラヴィは拳をつくり、胸を叩いた。そのドンと響く音ですらも、なんかいやだ。
「聞かせて! 聞かせて!」
三雲は興味津々だ。
「場慣れするしかねえ! 結局、経験に勝るものはねえわけよ!」
「なにそれ……。それじゃー、俺ら打つ手無しじゃん!」
「そのとおりだ!」
ラヴィは腕を組み、大きく頷いた。「えぇ……」と三雲は困り眉をつくる。
「場数を踏んでないやつは緊張するのがあたりまえ。なのに、緊張を解こうとするからドツボにはまるんだ! 驕るなよ……! おまえらは俺じゃねーんだから!」
「なんだそれ」三雲は苦笑いする。
「特におまえだよ! 翔琉!」
ラヴィは骨太の人差し指が、俺に向けて指される。
「なにが?」
「緊張してんだろ?」
「別にしてない」
むかつく。ほっといてくれ。集中させてくれ。いつもの小さな暗い部屋で出来ていたように。
こんなたいそうな場所なんて用意されたくなかった。歓声なんて無くてよかった。向けられるのは冷ややかな視線でよかった。
姉さんが、学校の担任の先生が、クラスの人達がそうしてくるように。
知らない。こんなにも熱く注がれる視線を。
「ただ、おまえは慣れてないだけだ」
ラヴィの声が耳の中で反芻する。ラヴィの顔を見ると、青い瞳が力強く、俺を覗いていた。
「ラヴィの目って、青いんだ……」
ラヴィは、は? て口には出さず、そんな顔をする。
「あっち見てみ?」
三雲は俺の椅子をクルッと回して、斜め後ろに向けた。
「見える?」
見える。『IMPERIAL PURPLE』の三人が。世界一の称号を背負う男達が。
「化け物退治、しようぜ?」
瞬間、脳みそがすりかわったんじゃないかってくらいに、頭の中の邪念が全部消えていった。
そうだ。俺はそのために、ここに来たんだ。
「うん」
あいつらだけじゃない。世界で活躍する猛者どもと戦えるんだ……! 楽しみでしょうがない。俺はいったいなにをネチネチとつまらないことを考えていたんだ。早く試合をやりたい。はやく……!
試合が始まる前に、司会は『IMPERIAL PURPLE』にインタビューをして、警戒している日本のチームはいるか? と訊いた。彼らは『Aurevion』だと答えた。『Aurevion』は不参加になったと司会が伝えると、彼らは他の日本チームを知らないと答えた。
「知らないなら教えてやろうか。日本には俺達がいることをな!」
ラヴィは言った。
「勝つなんて当たり前。そんなことを思ってるんだろうね。自信満々なあの顔に泥をぬってやろうか」
三雲は言った。
「絶対勝つ」
試合が始まった。
まず超えないといけない敵は『RAVEN'S CROWN』との初動ファイトだ。
おまけ
的井翔琉
三つ年上の姉がいる。翔琉が小さい頃はそれなりに仲良かったが、翔琉が中学生になり、ゲームにはまったあたりから姉弟間での会話はほとんどなくなった。姉は大学生で国際関係学部で英語と中国語を学んでいる。