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Chapter3-Section51 犬猿の仲

 

「悪名高き『Aurevion(オーレヴィオン)』よ! 俺をクビにしたこと。今日というこの日で後悔させてやろう! おまえ達を倒してな!」


 平和ボケした犬みたいな顔をした大男は言った。会話から察するに、彼が元『Aurevion(オーレヴィオン)』のナオハルなのだろう。


「全然悪名高くないけどね。それとクビにしたというか、話し合いで互いに納得したことだと思うけど」


 Yukiユーキは困り眉をつくりながら頬をかいた。


「それは……! 納得したみたいな感じで抜けた感出しとかないと、なんか俺がださくなっちゃうからだろうが!」

「それ言っちゃうのが一番ださいよ」

「言わされたあ!」

「勝手に言ったよね?」


「おまえは相変わらずだね」ユーキは浅く息を吐いた。


「あのさ、ナオハル……」

「なんだ?」

「そもそも。僕らは今日、大会に出ないんだよ。聞いてなかったの?」

「なんだとお!?」


 ナオハルの巨体を、その背後にいた痩せ狼のような顔をした男が小突いた。


「『Aurevion(オーレヴィオン)』が出れなくなったから、急遽俺らが呼び出されたんだろ? マネちゃんがそう言ってたぜ?」

「なんだとお!?」

「ちゃんと聞いとけよ。おまえは本当に馬鹿だなあ。ゴミクズファッキン能無し糞野郎だなあ」

「言い過ぎてないか!?」


「さっさと行こうぜ?」痩せ細った狼のような顔をした男は言った。「こんな通路で長話なんて通行する人に糞迷惑だろうが」


 粗暴な言葉使いとは裏腹に、周りに気を使える人間らしい。


「それもそうだ! junjunジュンジュン。おまえは良いことを言った」

「黙れ。オタク顔ナメクジ能筋デブ」

「褒めたのに!?」


「ということで、さらばだ!」ナオハルは言って、ふたりは場を立ち去ろうとする。しかし、もうひとり、三人目の男の足は動かなかった。


「ユズ?」


 名前を呼ばれても、ユズは微動だにしない。マッシュヘアの重めの前髪から覗く瞳は一点に焦点を合わせていた。的井翔琉を睨みつけていた。


「君がカケル?」


 まるで女の子のような顔立ちなのに、声はしっかりと男のそれだから、脳が混乱して、まるでトリックアートを見ているような気分になる。


「だったらなに?」

「そうだと思った。傲慢な性格が顔に出てんね」

「そっちこそ、生意気な顔してる。想像どおり」

「雑魚はよく吠えるんだね」

「下手糞のくせに、よく噛みつく」

「ぶっ潰す……!」

「かかってこいよ」


「はい。ストップ……!」

「待たんか!」

 ふたりの口が塞がれた。的井翔琉の口は三雲進が、ユズの口はナオハルが塞いだ。

 口を塞いだ二人は互いを見合うと、示し合わすように小さく頷いた。そして、ナオハルは「ほら、行くぞ!」とユズを無理やり奥へと引っ張っていった。


 彼らが通路を曲がり、見えなくなったあとに、三雲進は塞いでいた手を離した。


「なにすんの」


 的井翔琉は不機嫌に言う。


「こっちの台詞だよ……! なんでいきなり喧嘩おっぱじめてんのさ! 一緒にカスタム出た仲だろ!?」

「でも先に噛みついて来たのは向こうだし」

「いつもみたいに、とぼけた顔でやり過ごせばいいのに。どうして、あの子とはあんなに相性悪いんだよ……」


「だってさ」的井翔琉は口を尖らせながら、言う。


「なんか分かんないけど、あいつには負けるの嫌だから」


 ***


『開幕です!』


 女性の司会者が勢いよく言うと、割れんばかりの歓声と拍手が会場を包みこんだ。

 私の隣の席では、夏海が無我夢中で手を叩いている。それは貝を叩くラッコを彷彿とさせた。


 色々なことがあったものの、こうして無事に大会の開催式を迎えることができた。あとの私にできる仕事は、選手達を応援するだけだ。


 この大会の参加チームの多くは日韓のチームだが、ゲストチームとして世界各地から有名チームを招待しているそうだ。

 参加する20チームの内訳はというと、日本から8チーム、韓国から5チーム、その他のアジアの国々から4チーム、アメリカから1チーム、ヨーロッパから1チーム、サウジアラビアから1チーム、となっている。


 ふたりの司会者が大会説明を終えると、選手の入場が始まった。男の司会者がチーム名を叫ぶ度に、ステージ奥から選手達が続々と現れた。

 顔ぶれがみんな日本人ということは、最初は日本チームからの入場になっているらしい。


SHINOBIFYシノビファイ!』


 司会者が言うと、あの赤髪の坊主頭、Cadoカドーが現れた。控室にいたときは、独りで音楽を聴いてばかりでクールな印象があったが、壇上に現れた彼はまるで別人だった。

 目はギロりと鋭く、興奮によって口角は吊り上がり、闘争心をその顔全てで体現していた。


「あの赤毛の人は日本屈指のプレイヤーだよ」


 夏海はパチパチと拍手しながら言った。


赤獅子あかじし。真っ赤な頭とむきだしの闘争心から、そう呼ばれてるんだ」


 赤獅子。まさかそんなかっこいい異名があったとは。トマトみたい、と思った初手の印象は全くの的外れだったらしい。


 次に『Obsidianオブシディアン』の名前が呼ばれ、ユズら三人が姿を現した。Aurevion(オーレヴィオン)の欠場による、急遽の参加チームであることを司会者が補足する。

 そしてついに『CONTRAILコントレイル』その名が呼ばれた。


 壇上に現れた3人はこれまで以上の歓声に包まれる。この会場の昂りはラヴフィンの人気と、伝説のタイマンとなったあの動画のおかげなのだろう。

 ラヴフィンは大きく手を振って声援に応じていたが、残りのふたりは歓声の大きさに戸惑っているように見えた。三雲進は肩が上がり、目を丸くしていた。的井翔琉は無表情のまま顔を下げ、そそくさと席に移動して声援から逃げようとしていた。


「わあ……! すごい歓声だ!」夏海は言う。


「うん。飲み込まれなければいいけど……」


 期待というのは時に重圧になりえる。そういうのを気にする彼らだとは思えないけど、ほんの数ヶ月の関係値で、他人が推し量れるほど人の心というのは単純ではないのだ。

 


おまけ

控え室にて

レイ「危ない。忘れるところでした」

三雲「?」

レイ「体温計です。計ってください」

三雲「本当に持ってきてる……!」

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