Chapter3-Section46 開幕
ドン。ドン。ドン。
和太鼓の音が鳴る。幕張メッセの会場は揺れる。
ドン。ドン。ドン。
壇上のスクリーンにはデジタルアートが投影される。そこで花が咲くかのように、水が流れているかのように多様な模様が生み出され、和太鼓のリズムに合わせながら映像美を紡いでいく。
ドン。ドン。ドン。
和太鼓の音に呼応して、会場の至る所を照らすスポットライトは踊り、色を変えてはまばたきする。
まるで、宇宙のまだ見ぬ神秘の中に放り出されたような、胸の奥がふっと浮くような奇妙な浮遊感が体を包みこむ。
和太鼓の音が止むと、世界は変わる。
スクリーンの映像は『IMPERFECT BRAVES』のゲーム映像に切り替わった。その映像を背景に何人ものコスプレイヤーが壇上に上がった。彼らはゲームに登場するキャラクター達の格好で、まるでアベンジャーズみたいに各々が決めポーズをとっていく。
ドン。
和太鼓の音が返ってくる。ステージが暗転する。時が止まったのかと、一瞬勘違いした。直後、モニターにこれでもかとくらいでかでかと文字が映る。
『IMPERFECT BRAVES SUMMER FESTIVAL IN JAPAN』
スポットライトが再び壇上を照らすと、そこにいたコスプレイヤー達はいなくなっていて、代わりにふたりの男女が立っていた。男が大会名を叫ぶと、女があとに続いて「開幕です!」と叫んだ。
割れんばかりの歓声と拍手が会場を包みこむ。
私の隣の席では、パーカーのフードを被った夏海が無我夢中で手を叩いている。それは貝を叩くラッコを彷彿とさせた。
社長がesportsチームをつくるなんて言い出したのは、ついこの前のはずなのに。早くもとんでもないところまで来てしまったと、私は思わずにいられない。入れ替え戦が終わり、プロリーグ昇格を決めた直後にも関わらず、まさかこんな大きな大会に招待されるなんて。
―Chapter3 真の強者達ー
この大会の招待メールが届いたのはおよそ一週間前のことだった。
入れ替え戦が終わった翌朝。出社後のルーティンとしてメールチェックを行ったときにそのメールに気付いた。
『「IMPERFECT BRAVES SUMMER FESTIVAL IN JAPAN」招待のお知らせ』
それは毎年行われるお祭り的な催しのようで、アジアの強豪チームを中心に招待しているらしい。さらに、それ以外の地域からも有名チームをいくつか招待しているそうで、その世界レベルの顔ぶれに、界隈では結構な注目を浴びているそうだ。
実はというと、入れ替え戦の前にも一度招待のメールは届いていた。しかしそれは参加の可能性を示唆しただけのもので、確定的なものではなかった。他で招待しているチームの出場可否によるという旨の内容だったが、私は文面どおりに受け取らなかった。
インパーフェクトのゲーム配信者の超大物であるラヴフィンのesports参画。100万回再生を超えたというラヴフィンと的井翔琉のタイマン勝負の動画。話題性は十分過ぎるのだからどうしても呼びたい。けれどプロリーグにいるチームを選ばないと忖度になるので、プロリーグ行きを決めない限り呼ぶことはできない。だから枠は確保しておくから、頼むからプロリーグ昇格を決めてくれよという、そんな葛藤と大人の事情がありありと読み取れた。
きっと私の解釈は当たっていたのだろう。だからこそ『CONTRAIL』がプロリーグ昇格を決めた直後に、待ってましたとばかりに参加確定の招待メールが届いたのだろう。
すぐに三雲進ら三人に参加意思を尋ねると、彼らからはふたつ返事で回答がきた。
行く。
あたりまえだろ! そんな楽しそうなこと断る理由がねえ!
まじで? それは出るに決まってるよ!
三者三様の回答だが、全員に参加意思があることは間違いないようだった。
大会当日の空は落ちてきそうなくらいどんよりと曇っていた。
海浜幕張駅の南口を出ると、案内板の横に立つ夏海を見つけた。桜色のパーカーのフードを深々と被っていた。
「おはよう」
挨拶をすると「遅いよー!」と言葉が返ってきた。「夏海が早いんだよ」と言うと「心細かったよお」と返ってきた。会話が少し噛み合ってない気もするが、これはいつもどおりだ。
「まだ集合時間の30分前だよ?」
「だってただのファンの私が選手を待たせるわけにはいかないじゃん!」
その言葉は、さすがファン一号に相応しい。
このオフライン大会では、招待されたチームにそれぞれ関係者席が用意されている。日頃からインパーフェクトのことについて教えてもらっている恩もあり、私が夏海を招待したのだ。
初めこそ彼女は飛び跳ねるくらいに喜んでいたが、日が経つにつれて、三雲進に合わせる顔がないとナイーブになっていった。
入れ替え戦の前日に、三雲進に夏風邪を移してしまったことをまだ気にしているようだ。私の説得もあり、三雲進は入れ替え戦で途中退場することになってしまったのだから、気にするなという方が無理なのかもしれない。
一緒に謝ろうと私が説得してなんとかここにいるが、これからのことは思いやられる。
と思っていた矢先に三雲進が到着した。
彼はきょろきょろとしながら駅の階段を降りると、私を見つけるとニカッと爽やかに笑った。
「玲ちゃん、おはよー」
「おはようございます。体調はもう良さそうですか?」
「もちろん。じゃないとここにいないよ。今度は嘘じゃないよ?」
「体温計を持ってきたので、あとで計ってもらいます」
「真面目が過ぎない?」
三雲進は苦笑したあとに、私の背中に隠れる夏海を見つけ出した。
「お! このまえのお友達もいるじゃん! おはよー」
夏海はあたふたとあちこちに目線を振ったあとに「すみませんでしたあ!」と深々と頭を下げた。お辞儀というより、そういうストレッチをしているんじゃないかというくらいの頭の深さに、三雲進は「うおっ」と驚いていた。
「私からも謝ります」
私も夏海ほどにないにせよ頭を下げる。
「彼女の風邪が移ったのだとしたら、私の判断の軽率さも原因でした。すみませんでした」
「気にしなくていいって。あれは不運が重なった事故みたいなものでしょ」
許しを受けて私は顔を上げたけれど、夏海はまだ深々と頭を下げていた。それどころか地面に膝をつけて土下座までしだした。
「いいえ! 私は選手にしてはいけないことをしてしまいました! どんな罰でも受けますから! 奴隷のようになんでもしますから! 死なない程度なら、好きなだけ痛めつけてください!」
すごいこと言っているな。この子。
「ちょ、え!? まって? はあ!?」
三雲進はひどく動揺していた。これだけぶっとんだことを言われたら、さすがのひょうきん男も取り乱してしまうらしい。しかも、ここは駅のすぐ目の前だ。
そんなカオスな状況で「うわ」と覇気のない声が横からやってきた。タイミングがいいのか悪いのか、的井翔琉が現れたのだ。
「ミクモが女の人を土下座させてる」
「ちげえよ!?」
おまけ
春川夏海
多様な仕事をしており、ライトノベル作家でもある。
最近は「タンタタタンってなんですか?」という女の子が「タ」と「ン」の音しか発せない宇宙人に恋をするというSF系恋愛小説を出版した。設定がとがり過ぎているためか、売れ行きはあまりよくない。




