Chapter2-Section45 天気雨
「利用したんだ。伯父さんのことも。玲ちゃんことも」
「利用? 社長と……私のことをですか?」
「餌になってもらったんだよ。的井翔琉という才能を釣るためのね」
餌? 私たちが? 遠回しな単語に、私は困惑することしかできなかった。
「順を追って話そうか」
と三雲進はさわやかに言う。
「前のチームを解散してから、俺は次の仲間を探すしかなかった。そしてすぐにカケルを見つけたよ。こいつは凄い選手になるって思った。だからどうしても仲間にしたかった。でも、そもそも競技に出るつもりがあるかどうかすら分からなかったんだ。だからXで訊いてみたんだよ。『競技でますか?』てね」
的井翔琉。X。『競技出ますか?』。私の記憶の片隅から、とある文字列が忽然と浮かび上がった。
『17になったけど競技でますか?』
それは的井翔琉のキルクリップの投稿へのリプライとして飛ばされていた質問。
「もしかして……! あの質問してたのは三雲さん!?」
お、知ってたんだ。と彼は眉を上げる。
「さすが真面目だね。そこまでリサーチしてたなんて。確かにそれは俺だよ。警戒されたくなかったから俺のサブアカ。てことはカケルがなんて返したかも知ってるよね?」
私は頭の中から、さらなる記憶を引っ張り出す。
「出来るだけ上を目指せるチームに入るつもり。そんなことを翔琉さんは言っていたと思います」
そのとおり。と三雲進は頷く。
「焦ったよ。だってそれって他の複数のチームからすでに声がかかってる可能性があるってことじゃん?」
気に食わないが、考えることは同じらしい。私もあれを見たときは、他のチームから声がかかっているのだろうと推測した。だからこそ、それは的井翔琉の強さの証明なのだと、あの頃の私はむりやり納得して、成り行きのままの選手契約に向かったんだ。
「もちろん俺は強いから。俺が誘うってだけでも応じてくれたかもしれない。だけどさ、それだけでは確実ではないと思ったんだ」
「そこで自分の伯父が社長をしている会社を利用したということですね。選手契約という餌をぶら下げるために」
三雲進は頷きもせず、に、と笑った。
おかしいと思っていたんだ。社長がいきなりesportsなんて言い出すから。きっとこの男が口八丁でそそのかしたのだろう。
「なんの実績もない選手が企業と選手契約して給与まで貰えるなんて、普通そんなことありえない。esportsの世界はそんなに甘くない。でも、それをしてくれると言われたら、誰だって食いつくだろ?」
全くやってくれる。esports参画が原因で会社の経営が傾きでもしたら、影響を被るのは社長と私だけではなくなる。そこまで考えているのだろうか。
「ま、でも実際のところはカケルの性格はあんなんだったから、選手契約うんぬんの話は無くても変わらなかったと思うけど」
いや。変わっていた可能性はある。直感的に私はそう思った。
最初に的井翔琉と出会ったとき、彼は私のことを警戒こそしても、選手契約を結ぶことは決めていたように思えた。真意は彼に訊かないと分からないけれど。
「それはつまり」
私はなんの表情もつくらないまま三雲進を見つめた。彼も同じようにして私を見る。
「私は最初から、社長ではなく、あなたのわがままに振り回されていた。そういうことですね?」
「嫌いになった? 俺のこと」
私は黙って首を振った。
こんなことでは憎めない。そう思えるほどくらいには、私はこの『CONTRAIL』の3人を応援したいと思ってしまっている。
よかった。と言いながら彼は爽やかに笑った。金髪のパーマを片手で揉みながら。
その後はずっと試合を観戦した。
試合は9試合目にマッチポイントに到達していた『Obsidian』がCHAMPIONを取って優勝を決めた。三雲進が一番の強敵だと言っていたチームだ。
『CONTRAIL』はというと、なんと4位にまで順位を上げていた。
つまりそれは、プロリーグ昇格を決めたということ。望でんいた形ではなかったかもしれない。けれど決めたんだ。
「おめでとうございます……!」
私の言葉は届いていなかったようで、返事は返ってこなかった。ただ彼は、タブレットの映像を見つめている。いろんな感情が渦巻いていることだろう。
タブレットの映像ではラヴフィンの配信のコメントが勢いよく流れていく。
うおおおおおお!
おめでと!
おまえらがナンバーワンだ!
ほぼふたりで決めたのすげー!
ミクモンよかったな!
もうこの二人だけでいいじゃん
もしかして、ミクモンいらなくね?
ミクモンいらなくね?
こうして入れ替え戦は終わった。
触れてしまったら簡単に広がってしまいそうな、小さな傷跡を残して。
翌日、会社のPCに一通のメールが届いた。
『「IMPERFECT BRAVES SUMMER FESTIVAL IN JAPAN」招待のお知らせ』
それは公式大会とはまた別の、オフライン大会の招待状。真の猛者たちが待ち受ける祭典。
そして私は思い知ることになる。ここまで破竹の勢いで勝ち上がってきた彼らでさえ、プロそして世界の舞台ではただの挑戦者になってしまうのだと。
おまけ
入れ替え戦終了後
レイ「それでは、もう帰りますので」
三雲「えー、もう少しだけ看病してってよ」
レイ「あとの世話は彼女にでもお願いしてください」
三雲「彼女いないけど……」
レイ「いるって言ってませんでしたっけ?」
三雲「それ元カノの話じゃない?」
レイ「…………」
三雲「…………」
レイ「だからなんなんです?」
三雲「ま、そういう反応だよね」




