Chapter2-Section44 白状するよ
「最後の話、あれでよかったんですか?」
「うん?」
私は近くのコンビニで買ってきたスポーツドリンクを三雲進に手渡した。「ありがと」と受け取った彼は、ベッドボードに寄りかかりながら、足に布団を被せていた。
「翔琉さんのわがままを仕方なく受け入れていたように見えました」
「ああ……。IGLをやると言い出したことか」
三雲進は「さあ? よかったのかなあ?」と肩をすくめた。
「IGLってチームの司令塔のことですよね?」
「うん。そんな感じだね」
「なんというか……。翔琉さんのあの性格で、戦略を組み立てるとかあまり向いてないような気がするんですけど……。これは素人意見でしょうか?」
「たしかに……俺だって最初はラヴィにIGLを頼もうとしてたよ。プロの練習試合に出たこともあるらしいから、競技としての経験値はカケルより多いしね」
でもさ。とさらに言葉を続ける。
「なぜだか期待しちゃうんだよなー。あいつには。俺の想像以上のことをやってのけるんじゃないかって」
分かる気がする。彼は奥底に熱い炎を秘めている。その火の全容を、私達はまだ見たことがないから、彼がなにをしでかすか、分からないんだ。
三雲進はタブレットに視線を落とした。布団が被さった膝の上にぎりぎりのバランスで立てられたタブレットでは試合の映像が流れている。
「今のところはどうなんですか?」
「よくやってるよ」
それどころか。とつぶやく。
「見せてくれるかも。期待以上を……!」
それ以降、三雲進は何も言葉を発さなかった。
私も黙って、タブレットの映像を眺めることにした。帰ってもいいのだが、また倒れられても困る。大会が終わるまでは監視することにした。
三雲進の横顔は真剣そのものだった。私の記憶している金髪パーマの青年の横顔はいない。プロ選手、そう呼ばれるに相応しい顔つきをしていた。
真剣な黒い瞳。その瞳孔が、少しずつ広がっていくのが分かった。
「いけ……!」
彼がそう言ったのと、タブレットの中で的井翔琉が『突っ込もう!』と言ったのは、ほぼ同時だった。
タブレットに視線をやると、最終局面の場面で、ファイトを仕掛ける姿が映った。
勝利をものにすると『CHAMPION』の文字が目に飛び込んだ。
「マジかよ……!」
三雲進は乾いた声で笑いながら言う。
「たった二人でチャンピオン取りやがった……!」
それは7試合目のことだった。この結果を受けて『CONTRAIL』は総合順位をいっきに4位まで上げた。
「玲ちゃん! これは本当に凄いことなんだ!」
風が生まれそうなほどの勢いで、体を捻りながら言う。
「落ち着いてください。体に障ります」
「これが落ち着いてられるか! チャンピオンだよ!? チャンピオン!」
まるで子供がはしゃぐ様を見ているようだ。こんなものを見せられたら、勝利に興奮していた私の熱は冷めてしまうというものだ。
「俺の見よう見まねだと? とんでもない……! これはカケルのスタイルだよ!」
私とは半比例に、彼の熱は上がっていく。
「たしかに周りから多くの情報を得ようとするやり方は俺に似ている。でもそのあとの決断のしかたが全然違う……! 俺が理論立てチームの動きを組み立てる部分を、カケルはきっと、直感で判断しているんだ……!」
熱を帯びたまま、しゃべり続ける。
「得られた多くの情報を頼りに、直感で正解択を選ぶ。経験値が浅い分まだ不安定なところも多いけど、これが出来るやつがチームにいるということは、いずれ『CONTRAIL』の大きな武器になる……!」
そこでひと呼吸すると、熱のせいか、興奮のせいか、赤らんだ顔で私を見た。
「ありがとう。玲ちゃん」
「え?」
脈絡のない言葉に、私は困惑した。
「俺とカケルを出会わせてくれて」
「なにを言ってるんですか? 翔琉さんを見つけ出したのは三雲さんじゃないですか」
「でも俺だけじゃ、きっとチームにはなれなかった」
「はい?」
私はしっかり覚えている。自分で豪語していたはずだ。俺がいれば必ずチームになってくれるから問題ないと。
「白状するよ」
とても秘密を打ち明かす温度とは思えない声で彼は言った。
「利用したんだ。伯父さんのことも。玲ちゃんことも」
おまけ
三雲進
ふたつ上の姉に家を漫画喫茶みたいに使われていることが最近の悩み。
姉は突然やってくると本棚にある漫画を読みながら何時間も入り浸っている。そしてたまにものを忘れていく。試合の観戦用に使っていたタブレットはそんな姉が一週間前に忘れていったもの。




