Chapter2-Section42 覚えてる?
「この気持ち。玲ちゃんなら分かってくれるでしょ?」
否定したいのに、分かってしまう。もし彼と同じ立場に立たされれば、私も同じことをしただろう。それがどんな結末を生むかもろくに考えずに。
「気持ちは分かります。私も過去に似たことをしているので」
でも、ようやく気づいた。気づけた……! それは確かな過ちだったと。
「だったら――」
「間違ってた」
「ん?」
「私は間違えてた」
ああ……。私はつくづく愚か者だ。逆の立場になって、ようやく気づくなんて。
「三雲さん。そんな体調で試合に出ることが、本当にチームのためだと思いますか?」
「あたりまえだ。二人よりも三人で戦った方が強い。シンプルな結論だよ」
「三雲さんが足を引っ張ったとしても?」
「引っ張らないようにするさ」
「どうやって?」
「なんとかするんだよ」
「気持ちでどうこうしようというのなら、そこに正当性はありません。大人しく応援に徹してください」
「気持ちでどうこうを認めないって……?」
三雲進は胸に手を当てた。自分の魂を掴むかのように、強く拳を握る。
「気持ちだろ……! 結局最後に……俺達を戦わせるのは気持ちだろ! それが全てだろ……!」
金髪のパーマの影から、真剣な眼差しが私に注がれた。
「玲ちゃんは知らないだろう? 今日にかけてきた俺の気持ちを……! 前回敗けたときから、ずっとこの日を待ち望んでいた……! 今日勝つ瞬間、プロリーグ行きを決めたそのとき、俺が試合に出てないなら意味が無い!」
まさか軽薄だと思っていたこの男から、こんなにも熱い言葉を聞かされるなんて。ついさっき形成されたばかりの赤ん坊のような私の価値観なんて、簡単に崩れ落ちそうになる。でも、私の記憶に残る朱音の顔が、言葉が、それを許さないんだ。
「それがあなたの本心では?」
「は?」
「結局のところ、三雲さんはチームのためよりも、自分自身のために試合に出たいと思っているんです……! 自分の努力を、これまで積み上げて来た日々を、こんなたった一日の不運で終わらせたくなかったから! そうでしょう!?」
今思えば、あの日の私もそうだったのだろう。罪悪感を抱きたくないという想いが、思いやりの言葉をあざとく被せだけで、その皮を一枚剥げば、結局のところ自己満足だった。
「気持ちが大事だと言うならば、あとでそうだったと知らされた仲間の気持ちは考えましたか? マネージャーとして頼られなかった私の気持ちはどうなりますか?」
「だったらどうしたら……!」
「チームのための選択をしてください! チームの勝利のためであり、仲間の想いを裏切らないための選択を!」
あの日の私が間違えていたこと。私は自分の中にある正しさだけに向き合ってばかりで、他の誰かと本気で向き合あおうとしていなかった。
「そういう選択を……してください……!」
どうしてかな……。静かにそう言うと、彼はゆっくりとベッドに腰を下ろした。
「玲ちゃんの言葉は、いつも俺には眩しく聞こえる」
覚えてる? 視線を床に落として言う。
「本音を隠すことは正しいことではなくて、ただ楽をするためだ。て玲ちゃんが言ったこと」
「覚えてます。けど……」
どうして今、その話を……?
「あのとき思ったんだ。玲ちゃんがマネージャーで良かったって。俺の居場所はここなんだって」
「いったいなんの話を――」
「俺さ」
私の疑問は遮られ、彼の言葉は続く。
「前のチームとは喧嘩別れしたんだ」
知ってる。彼が自分でそう言っていたのを覚えている。
「チームのためになることは全部言うべきだと思ってた。だから言ったんだ。仲間のミスを指摘した。ここが欠点だと教えた。俺の理想を伝えた。隠さずに全部、本音で言った。もちろん俺の言うことが100%正しいなんて思ってない。けど、しっかりと俺はこう考えていると言うことが大事だと思ったから」
三雲進の視線は床を見つめたまま動かない。過去のある一点だけを見つめている。
「けどそれが、他の二人にとっては気に食わなかったらしい。大会が終わったあとに言われたよ。『おまえとゲームをやるのはつまらない』てね。それが喧嘩の引き金だったと思う。そのあとはお互い熱くなって、今までの不満のぶつけ合いみたいな感じになってさ。で、けっきょく解散」
彼は少しだけ笑う。そして少しだけ悲しそうに肩を竦める。
「さすがに反省したよ。ああそうか、て。勝つためではなくて、ただゲームを好きという理由だけでここにいる人もいるんだって。どっちがいいとか悪いとかいう話でもないんだと思う。ただ競技への向き合い方が違っただけ」
気付けば話に聞き入っていた私がいた。この男が、こんなに寂しげな瞳をしたことが過去にあっただろうか。
「だから本音は隠そうと思った。インパーフェクトは三人一組のゲームだし、仲間がいないとゲームは出来ないからね。でもさ、そんな矢先に、君は言ってくれたんだ」
彼の言いたいことがようやく分かった。
言葉と言葉が、過去と過去が繋がっていく。
「翔琉の世界一を目指すという本気の問いかけに、君は本気で応えようとしていた。俺は間違っていない。そう言われた気分だったよ」
三雲進は天井を仰ぐと、深く息を吐いた。そのあとに「分かったよ。玲ちゃん」と私を見つめた。
「試合には出ないよ」
おまけ
三雲進
趣味にスニーカー収集と漫画がある。玄関は大量のスニーカーで埋まり、本棚はあらゆる漫画で埋められている。




