Chapter2-Section39 ドン
ついに入れ替え戦の決勝が始まる。
上位8位以内に入れば、プロリーグに昇格が決まる。
「最初の注目どころは『ご主人様』が初動ファイトを挑んで来るかどうかだね」
『ご主人様』。昨日の試合で、ずっと『CONTRAIL』に初動ファイトを仕掛けて来たチームだ。
敗者復活戦を3位で勝ち抜けて、この決勝戦まで上がって来た。
初動ファイトをして高順位を取るのは難しいということは昨日の試合でよく分かった。
仕掛けにきて欲しくない。そう思うのは当然だ。
『来てないみたいだね』
『なんだよお……!』
『ちょっと残念そうなの笑う』
彼らも『ご主人様』を警戒していたらしい。初動で降りたエリアに敵チームが被せてきていないかを確認していた。
「これはこれは……よいスタートですなあ」
初動ファイトが無いと知り、夏海はご機嫌のようだ。
そういえば今日はお酒を飲んでいない。珍しい。私が彼女の顔を覗きこむと、視線の意味を察したのか「二日酔いだからね」と返って来た。それはそうか、と私は納得する。
「だったら、あとはいつもどおり勝つだけ。彼らだったら、きっといけるよ」
夏海は言う。私も同じことを思っていた。彼らのこれまでの戦いぶりを見れば、今日も順当に勝ち上がりプロリーグ行きを決めるのだろうと、どこかで信じ込んでいたんだ。
勝負の世界に絶対なんて存在しないのに。
1試合目の結果は12位3キル。
2試合目の結果は7位6キル。
3試合目の結果は11位5キルだった。
3試合分の総合ポイントは19ポイントで順位は8位。プロリーグにいけるのは上位8位までなので、ちょうどボーダーライン上に彼らはいた。悪い順位ではない。なのに物足りない。きっと私は、彼らであれば、もっと圧倒して勝ってくれるだろうとどこかで期待しているんだ。きっと夏海もそうだ。
本人達だって、この順位には納得していないだろう。
「なんだか……。まだ調子でてなさそうだね……」
うん。と夏海は小ぶりに頷いた。
「安地が毎回外れてたりで、運が悪い部分もあるから仕方ないのかもしれないし、調子が出ない日だってあると言われればそうなんだけど……。なんか……」
「なんか?」
「しかたないで片付けたらいけないような何かがあるような……」
夏海は前のめりになると、両手で頬を包んだ。
「昨日までの彼らだったら、運の悪さをミクモンの高精度な安地予測だったり、三人のファイト力で道を切り開いて来たのに……。今日はそのすべてが噛み合っていないような。もどかしさを感じるんだ。致命的な欠陥やずれが、どこかで生まれてしまっているような……」
このインパーフェクトというゲームに関して、彼女の分析は毎回鋭い。だからこそ、私は余計に不安になる。
「きっとこれからだよ。まだマッチポイントに到達しているチームはいないし」
その言葉は、夏海をというよりも、自分を安心させるために言ったのかもしれない。夏海は頷く。
「そうだね。絶対大丈夫だよ。彼ら3人だったら……」
『どうして最後ファイトに入るの遅れたの? 敵来てるってちゃんと言ったよね? 俺は』
『まあまあ、カケル。落ち着けって。ポジション広く陣取っていた俺達を、敵が上手く分断してきたな』
『俺はラヴィに訊いてない。三雲に言ってるんだけど。ねえ、三雲』
『ごめん……。俺が悪い。俺がカケルのコールにもっと早く反応できていれば分断はされてなかった』
『答えになってない。なんですぐに反応できなかったか訊いてるんだけど』
『それは…………』
『理由がないなんて言わせないよ? 昨日まで出来てたんだから』
『待てよ待て! 一回のミスで詰めすぎだぜ!?』
『一回!? ラヴィだって見てきたよね? 三雲は今日ずっとこんなんばかりだ。安地が外れてしまうのはしかたない。IGLだって上手くいかない日だってある。でもファイトのミスは違う……。集中できてない証拠でしょ……!』
『だからってこんな責めるような反省会のやり方は残りの試合に響くだけだろ!』
『二人ともやめてくれ! 俺が悪かったよ。次の試合からはちゃんとやる。それで終わりだろ?』
彼らの不穏な空気が、その声から伝わってくる。そしてそんな空気に最後の追い打ちをかけるように……。
『飲み物持ってくる』
と三雲進が言った直後だった。
ガシャン。と物と物がぶつかる音がスピーカーから響いた。そのあとに、ドン。と何かが床に落ちる音。
それはゲームの音ではない。それはあまりにも不吉な音だった。
おまけ
春川夏海
お酒が大好き。とくにレモンサワーが好き。好きなおつまみは唐揚げと卵焼き。
ずっとホラーゲームは苦手だったが、飲酒しながらなら出来ることに最近気付いた。




