Chapter2-Section37 うっぷ。
3試合目の、初動ファイトの完全勝利を皮切りに「CONTRAIL」は調子を上げていった。
6試合目終了時点で「CONTRAIL」の戦績は以下だった。
1試合目:20位0キル
2試合目:19位5キル
3試合目:9 位10キル。
4試合目:6 位8キル。
5試合目:13位5キル。
6試合目:7 位9キル。
累計で46ポイントを獲得して5位。
決勝に進むには全8試合終了したときに10位以内に入っていればいいから、いい調子だといえるだろう。
「まるで死神の乗った暴走列車らよ!」
夏海は5本目の缶チューハイを開けると、舌足らずな呂律で話し始めた。
「初動ファイトをしていたら、高順位を狙えるポジションを取ることは難しい。だから順位は諦めて、キルポイントでポイントを稼ぐことにしたんだろうね」
「ポイントのほとんどをキルポイントで稼いでいるもんね……」
モニターの画面には、7試合目の初動ファイトが映る。
相手は神出鬼没に現れるラヴフィンの動きに対応できていなかった。ラヴフィンに気を取られれば、的井翔琉が持ち前のキャラクターコントロールで急襲を仕掛け、逆にラヴフィンを無視して二人を狙うと、その攻撃は上手にいなされて、死角から現れるラヴフィンから致命傷を受ける。
試合を重ねるほどに、よりいっそう乱れていく相手の陣形から、苛立ちの声が聞こえてくるようだった。
初動ファイトを制した三人の姿が映る。これで6連続の勝利だ。ラヴフィンがキャラクターを変えてからは、薄氷の勝利というわけでもなく、試合を重ねるごとに、より相手を圧倒している。
「ラヴフィンはやっぱり凄いのら! スキルの使い方が上手い! 天才!」
かなり酔いが回っているようだ。もう私の下手な相槌がなくても、いくらでも勝手に喋ってくれることだろう。
「精密なエイムだけじゃない! 蝶のように舞うキャラクターコントロールも……! 詰将棋のような戦術眼も……! 自分の手足のように多様なスキルを使いこなすテクニックも! 全部ひとつの強さなのら!」
夏海はソファの上に立ち上がった。彼女の体重分、沈み込んだソファが私の体をぐらりと揺らす。
「いろんな強さの指標があるから、このゲームは面白い!」
顔を真っ赤に染めて、両腕を広げて言う。楽しそうでなによりだ。
「うっぷ」
嫌な音が聞こえた。見上げると、夏海はリスのように頬を膨らましていた。私がすぐさまにビニール袋を持ってくると、猫顔負けの俊敏さでビニール袋を私から奪い顔を埋めた。
そのあとには、聞くに堪えない呻きと、嘔吐物がぼたぼたと袋に落ちる音がした。
2匹の猫ちゃん達が興味津々に顔を見上げ、飼い主の無様な姿を覗く。見ないであげて。
「うう……。飲み過ぎた……」
夏海がようやく落ち着いた頃には、7試合目が終わり、8試合目が始まろうとしていた。『CONTRAIL』は順位をひとつ上げ、4位の位置につけている。
丸くなる夏海の背中をさすりながら、最後の初動ファイトの行方を、固唾をのんで見守る。
あれ?
Hope Shipから飛び降りて、目的地への降下を続けながら周りを見渡すが、『ご主人様』の姿は見えなかった。
『来てなくない?』
『そうみたいだね』
『ぼこぼこにし過ぎたかあ!?』
わっはっは。とラヴフィンは高笑いしながら地上に降りた。
『逃げたんだ』
『まあ、あれだけ負け越してればね。正しい選択だよ』
『最後まで戦いたかったけどなあ!』
もう十分でしょ。と呆れ果てながら三雲進は言う。
『これまで物足りなかったからさ。最後くらいチャンピオン取ろうか!』
初動ファイトは起こらなかった。『ご主人様』は別のエリアに降下したらしい。何をしても勝てないと結論付け、勝負を諦めたのだろうか。
「へへ……。心が折れたようだね……」
どんよりとした顔から、夏海は無理に笑顔を作る。その顔はちょっと怖い。
「初動ファイトはプライドバトルなところがあるからね。引いた方が負け。たとえそれが戦略的に正しくても、そういう印象がなぜか残ってしまうんだ。彼らの性格的に『ご主人様』は絶対に引かない。そう思っていたけど……。これまでの負け方が相当こたえたんだろうね」
2試合目が終わったときまではどうなることやらと思ったけれど、終わってみれば、この結果だ。彼らは強いのだと痛感する。同時に、彼らに相応しいマネージャーにならなければと、焦りが生まれた。
8試合目の結果は1位12キルだった。
最終の総合結果は2位。あんな初動ファイトをしていてこの結果ならば相当よく思えるが、世界一を狙う彼らは、きっと満足していないのだろう。
夏海はティッシュで綺麗に口元を拭くと、顔を上げた。
「これで決勝きまったね」
あ。そうだった。初動ファイトが無かったことに拍子抜けしていて、次の決勝戦のことを忘れていた。
「次勝てば、プロリーグだよ……!」
おまけ
★チーム紹介 『ご主人様』
ふたりはチート経験者で、ひとりはブースティング経験者だと噂されている。
ふたりがチート経験者だということは本当だが、ひとりがブースティング経験者だというのはガセ。本人は否定していたが、誰にも信じてもらえないため自暴自棄になっていた。入れ替え戦の敗けが濃厚になってくると、まだプロを続けたいという想いが蘇り、チームメイトに初動ファイトを辞めようと呼びかけた。他のふたりは初動ファイトで勝ち目がないと分かっていたので渋々応じた。最終試合に『ご主人様』が初動ファイトを仕掛けなかったのはそのため。
プレイヤー名はeight。彼は『ご主人様』を抜け、別のチームでプロに返り咲くが、それはまだ先のことであり、別の話。




